“日常式”──入試直前、最後の一日
月曜日・受験票が届く日
郵便受けに届いたのは、第一志望大学の受験票だった。
自分の名前。試験会場。座席番号。
見慣れない文字列が、「いよいよ」を告げる。
凪:「ああ、本当に来るんだ、あの日が」
高橋:「不思議だよな。数字と文字が並んでるだけなのに、急に緊張する」
紅葉:「でも、私たち、もう“やることはやった”って言えるよ」
凪は静かに頷いた。
どんな証明にも「準備」はあった。
そしてそれは、すでに終わっている。
火曜日・“数学をしない”夜
いつものように数学の問題集を開いて──
──けれど、そのまま閉じた。
凪:「今日は、やらない日にする」
紅葉:「うん、私も」
高橋:「……あえて、解かないことを選ぶ。それも“信頼”だな」
3人は、部室のソファに並んで座り、ただ窓の外の夕焼けを見ていた。
それは“解く日々”の終わりであり、“まかせる日”の始まり。
木曜日・“日常式”の確認
前日。
凪は朝起きて、筆箱を開き、カイロを触り、リュックを背負って通学路を歩いた。
まるで試験当日のリハーサル。
凪(心の中):
「道に段差がある。
信号のタイミングは何秒。
コンビニの匂いが甘いパンになってる。
これが、“わたしの式”。
日常がここまで来て、私を運んでくれた」
金曜日・「お守り」はノートの一ページ
寝る前、凪は3年間のノートをめくる。
1年生のときに書いた、最初の証明。
2年のときの失敗の書き込み。
3年で自作した問題。
すべてが、「凪」という存在の補助線だった。
最後のページに、こう書き足す。
「証明せよ──
明日、私はこの3年間を“信じた”と言えるか」
数学部ノート(凪)
■高校三年生・第25週
・受験前、“勉強”よりも“日常”を整える週
・凪:「日常は、私を支える“式”になっていた」
→ 数学は、“変わらないもの”を信じる学問
受験前に必要なのは、たぶん、“信じる力”だけ