“冬の問題集”──最後の過去問、最後の長文
月曜日・最後の“問題集”
冬。
受験直前、数学部3年の机には、さまざまな“問題集”が積まれていた。
・過去5年分の大学別記述問題
・塾から渡された「最難関演習セット」
・学校独自の“数Ⅲ一斉演習”
高橋:「問題が問題呼んで、問題集がタワーになってんだが……」
紅葉:「わたしも、“今日の1問”だけに絞るようにした。
量より“残せる理解”を優先するほうがいい気がして」
凪は静かにノートをめくりながら思った。
「この一問一問に、“誰かの過去”がある。
わたしはその“軌跡”を辿ってるだけなのに、
こんなにしんどいのは……“自分の今”に変わっていくからだ」
火曜日・「志望理由書」の1行
担任から、志望理由書の提出を求められた日。
凪は「なぜ数学科を志望するのか」の欄を前に、ペンが止まっていた。
「好きだから」では書ききれない。
「将来の夢」も、まだ曖昧。
じゃあ、どうして?
悩みながら、ふと、過去の自分のノートを見返す。
1年生の春──はじめて「証明」に惹かれたあの日。
そこに、小さな走り書きがあった。
「自分が言いたかったことを、やっと言えた気がする」
凪は、その言葉をそっと書き写した。
木曜日・“一番解きたくなかった問題”
願書の控えを提出し終えた帰り道。
紅葉と並んで歩く凪。
紅葉:「志望理由、書けた?」
凪:「うん。……書いたというより、“見つけた”感じかも」
紅葉:「あ、それ、わかる。“書こうとした理由”と“出てきた理由”が全然違うよね」
凪:「ね。数学って、そういうとこある。
“答えようとして、ようやく問いがわかる”──みたいな」
金曜日・“試験ではない問題”を残して
部室の黒板に、紅葉が書いた一言。
「この冬、“自分にしか出せない問題”を、ひとつだけ書いて帰ろう」
凪が最後に書いた問いは──
「なぜ、数学は“問い”だけでこんなに心を動かすのか?」
高橋:「試験には出ないな、これは」
凪:「だからこそ、いまの“わたしの問い”なんだよ」
数学部ノート(凪)
■高校三年生・第24週
・受験準備の中で、“自分の言葉”を問い直す
・凪:「数学が好き、だけじゃ足りない。でも、好きだった自分を信じたい」
→ 最後の“過去問”は、未来に向けた“自分の問い”
数学を通じて、“理由のない好き”に意味を見つけていく冬