“捨てること、残すこと”──受験科目の決定と、その痛み
月曜日・選択科目、最終決定の週
共通テスト(センター)の科目選択、最終提出が金曜日に迫っていた。
理系生にとって避けて通れない分岐点。
物理か、生物か。化学か、地学か。
倫理政経か、地理か、現代社会か。
高橋:「ま、俺は物理と化学にする。点取れるし」
紅葉:「私は地理、たぶん覚えるだけなら得意。
でも……凪は?」
凪は、提出用紙を前に、まだ空白を残していた。
火曜日・“やめる数学”
ふとした会話で、文系の友人がこう言った。
「うちの担任に、“数学ⅠAやめてもいい”って言われたんだ。
やっと、苦手から解放された感じ……!」
その言葉に、凪の胸がちくりと痛んだ。
「わたしは、数学を“やめたい”と思ったことがない。
でも、“誰かの捨てるもの”に自分が心を込めてきたのかもしれない──」
水曜日・“足りない時間”
夜。机に向かう凪。
物理・化学・倫理政経、全科目の過去問と、ノートが山のように積まれていた。
凪(心の声):「全部抱え込んだら、何も届かないかもしれない。
でも、“やめる”って、怖いな……」
そこに、一冊の薄い問題集が目にとまる。
それは、去年の文化祭のあと、紅葉がくれた「倫理」の問題集だった。
木曜日・「決めるってことは、捨てることだ」
紅葉:「捨てること、怖い?」
凪:「うん。でも、残すことだって、同じくらい怖い」
紅葉:「私は、凪が“何を捨てるか”じゃなく、“何を残したいか”を信じるよ」
凪:「ありがとう。……じゃあ、わたしも信じてみる」
金曜日・選択届提出
提出された凪の用紙には、こう書かれていた。
【理科】物理・化学
【社会】倫理
そして、余白には小さく、シャーペンで書かれた走り書き。
「何を手放すかで、何を守りたいかが見えてくる」──凪
数学部ノート(凪)
■高校三年生・第15週
・科目選択=“捨てること”と“守ること”のはざまで揺れる週
・凪:「私は、“数学を守りたい”。だから、他の科目を精一杯“愛して”終わらせようと思った」
→ 受験は“得意科目を選ぶ”ことじゃない。“どの自分を育てたいか”という選択