“合否の前に”──受験モード突入と、静かな戦い
月曜日・文化祭明けの静けさ
文化祭が終わった校舎は、どこか“抜け殻”のようだった。
飾りは外され、放課後の廊下も人がまばらだ。
教室では、担任がプリントを配っていた。
担任:「来週から三者面談が始まる。進路希望、第一志望校と第二志望校、必ず記入すること」
プリントの文字が、重たくのしかかる。
周囲はすでに「○○大模試B判定」とか「併願の私立はどうする」といった声でざわつき始めていた。
でも──凪はまだ、志望校を書けずにいた。
火曜日・紅葉との帰り道
紅葉:「志望校、出した?」
凪:「まだ。……決めたはずだったのに、
“自分のため”の選択が、“数字のため”の選択になりそうで、足が止まってる」
紅葉:「模試の結果、気にしてる?」
凪:「少しだけ。でも、本当は違う。
このまま“受かるためにだけ”数学を解いてたら、
わたし、数学が嫌いになるかもしれないって、ちょっと怖いんだ」
紅葉はしばらく黙って歩き、言った。
紅葉:「だったら、“好きでいるための戦い方”を選ぼ。
勝ち方じゃなくて、“折れない場所”を見つけるんだよ」
木曜日・夜の自習室
誰もいない教室。窓の外は、雨。
凪は模試の復習ノートを前に、ふと手を止めた。
「いま、わたしはなにを考えている?」
「この問題の先にあるものは?」
「この時間は、未来のどこに繋がるの?」
問いは、相変わらず“答え”をくれない。
でも、その問いを手放さなかったことだけは、確かだった。
数学部ノート(凪)
■高校三年生・第13週
・文化祭後の受験モード突入
・凪:「わたしにとって受験とは、“好きでい続けるための問い”を守ること」
→ “数学が好きだからこそ、追いつめられたくない”という静かな矛盾
進路を決めるのは、偏差値じゃなく“折れない場所”