“問いは、残る”──文化祭当日と、それぞれの数学
土曜日・文化祭当日 午前
数学部の展示教室に、最初に来たのは1年生の後輩・夏木だった。
夏木:「先輩、これすごいです……“答えのない展示”って、こんなに面白いんですね」
展示の一角には、あえて結論の書かれていない問題群──
たとえば“四色問題の類似例”や、“逆からの証明を考えてみよう”といった問いかけだけの黒板が並ぶ。
凪:「……“わたしはこう考えた”っていう途中までの形が、
見る人の中で続きを生むかもしれない。そういうのがあっても、いいよね」
午後・意外な来訪者
昼過ぎ、凪が質問対応をしていると、教室に一人の見慣れた男子が現れた。
文系クラスで「数学は苦手」と公言していたクラスメイトの、古賀だった。
古賀:「……あの、数学部って“展示”なんだよね?
なんか、もっと難しい式ばっかかと思ってたけど──
この“答えのない式”、ちょっと、かっこいいな」
凪:「答えが出ないから、考え続けられる。
たぶん、そういう余白が、数学にもあるって伝えたかったんだと思う」
古賀:「なんか、それ、文芸部っぽいな。
“残す言葉”としての数学、ってやつ?ちょっと感動した」
教室の片隅・静かな時間
夕方、凪は展示教室の端にある、黒板に書かれた自分の言葉を見つめていた。
「証明できなかったから、
わたしは考え続けた。
考え続けたから、
わたしは生きていた。」
その前に、そっと折り紙で折られた花がひとつ置かれていた。
送り主はわからない。けれど、それが意味していることは、凪には伝わっていた。
数学部ノート(凪)
■高校三年生・第12週
・文化祭当日=“伝える数学”の1日
・凪:「展示という行為そのものが、“問いの開放”だった」
→ 数学を“閉じた思考”から“開かれた対話”に変えるという小さな革命
“わからないことを美しいと思えるか”が、凪の問いの核心に