“未来のわたしへ”──文化祭企画と、数学部の最後の秋
月曜日・文化祭準備会議
秋晴れの午後、数学部の部室には少しだけ緊張感が漂っていた。
三年生として最後の文化祭。
テーマは――「見せる数学」。
紅葉:「今年こそ、“数学って楽しい”ってちゃんと伝える展示にしたいなって思ってて!」
高橋:「OK!ビジュアル重視な展示構成にして、“数的美”のアート化とかやってみる?」
日下(顧問):「三年生は、講演会形式でもいいんじゃない?
『数学と私』みたいな。最後に言葉を残していくって、ありだと思うよ」
みんなの視線が自然と、凪に向いた。
凪:「……わたし?」
火曜日・ひとりきりの校舎で
放課後、人気のない廊下を歩きながら、凪は思う。
「“数学と私”って、まだ言葉にならない。
わたしにとって数学は、“表現するもの”じゃなくて、“沈黙のなかで考えるもの”だった」
でも、そんな“私の数学”が、誰かに何かを残せるのなら――
水曜日・紅葉との対話
紅葉:「凪は、“数学を人に伝えたい”って思う?」
凪:「……少しは、思うようになってきた。
でもそれって、“人にわかってもらうための言葉”ってことでしょう?
わたしには、まだ難しくて……」
紅葉:「わたしはね、“誰かの未来のための数学”って信じたいんだ。
いま伝わらなくても、五年後、十年後に“あのときの言葉が残ってた”って思ってもらえたら、
それで、すごく素敵だと思う」
凪:「未来の……わたし自身にも、届くかな」
金曜日・黒板に残した一行
放課後、部室の黒板に、凪はそっとチョークを走らせる。
「問いが残っていれば、考える人は生きている。」
その言葉の下に、静かに“凪”の署名。
数学部ノート(凪)
■高校三年生・第9週
・文化祭テーマ「見せる数学」に向き合う週
・“数学=沈黙の中での思索”だった凪にとって、“語ること”は新しい挑戦
・凪:「問いを残すことが、“伝える”ことかもしれない」
→ 数学が“個人的な営み”から、“未来へ残る灯”になる
「わたしと数学」の関係が、他者との関係へと拡がりはじめる