表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/171

【第102話】 史記の大地

 美桜は夢の記憶を頼りに、草原の中の佇む小屋を見つける。美桜はノックせず、小屋に入る。小屋の中には夢で見たものと同じ、20センチほどの大きさの瓶が置いてあった。しかし1つだけ、夢とは違うところがあった。それは、瓶に花が生けてあることだ。花を観察するが、地上では見たことがないものだった。

「ここはなんだ?誰かが住んでいたように見えるな。」

その時、美桜の服の中から謎の生物が顔を出す。謎の生物は奥の部屋に向かい、美桜を呼ぶかのように鳴き声を発する。

(そっちに何かあるの?)

美桜は謎の生物の声に従い、奥の部屋へと向かう。

「なにこれ……」

奥の部屋には1人用のベッドが置いてあり、机や床に大量の本が散乱していた。

「キュイキュイ!」

謎の生物は、棚の上にある写真立ての側に立っていた。写真には4人の男女が写っている。かなり古いもののように見える。1人は青髪の男性。1人はベージュの髪の女性だが、髪の一部分が赤い。1人は黒い髪の男性だが、顔にアザのようなものがある。最後の1人は灰色の髪の女性だ。しかしその女性だけは、妙に見覚えがあった。

「ん?この人、どこかで……?」

「こいつは……あいつだろ。ロビンを蘇生したあいつだ。確か名は……ウィズレノだったか?」

「言われてみれば……。じゃあ、他の3人は誰なの?」

「我が知っていると思うか?」

その時、謎の生物が美桜の足元に丸めた紙を転がす。美桜はそれを拾い、机の上に広げる。紙には地図が描かれていた。

「これ……どこの地図?」

「2つ印があるな。矢印がある方が、この小屋を指しているようだな。」

「じゃあ、もう片方は?」

「行ってみないと、わからんな。」

美桜は地図を丸め、懐にしまう。謎の生物は美桜の背中を伝い、肩に乗る。

 美桜は小屋を出て、地図を見ながら大地を進む。十数分ほど進むと、夢の中で転落した湖を見つける。

(地図を見る感じ……湖に沿って進めばいいのかな?)

その時、誰かが美桜の左肩に触れる。美桜は咄嗟に左を向くが、そこには誰もいなかった。

「どうした?」

「今……誰かが肩に触れた気が……。気のせい?」

「気のせいではないやもしれんぞ?この大地が椿の言った”史記の大地”なのであれば、過去の人間がいるだろうな。要するに、幽霊だ。」

美桜は鳥肌が立ち、その場から逃げるように足早に道を進み。

 少し進むと、美桜は幻想的な森林の中を歩いていた。童話に出てくるような、非現実的な植物が群生している。

「こんなの……見たことない……。」

謎の生物は美桜の肩から飛び降り、美桜に大きく腕を振る。

(そっちに何かあるの?)

美桜は謎の生物についていく。道中、色鮮やかに発光する植物を幾つも見つけた。

 謎の生物についていった先には、苗木のようなものが地面から生えていた。しかし、それは美桜と同じほどの大きさであり、苗木と呼ぶには少々大きかった。謎の生物は体を動かし、美桜に何かを促している。

(触ればいいの?)

美桜は苗木に手を伸ばす。苗木に指が触れた瞬間、苗木に白い文字のようなものが浮かび上がる。その直後、美桜の脳内に誰かの記憶が流れ込んでくる。



 脳内に流れ込んだ記憶には、先程の写真に写っていた青髪の男性とベージュと一部分が赤髪の女性の姿が映っている。

「私はこの大地に立ち入っても、良かったのだろうか?いくらきみの許可があるとはいえ、少々気持ちが落ち着かない。」

「何か罰があるわけでもない。気にするだけ、精神が疲労するだけだ。」

「そうだね。……おや?」

女性は美桜が見た謎の生物を視界に捉える。女性は生物を抱き抱え、男性を呼び止める。

「少しいいかな?」

「なんだ?」

「この生き物は、なんという名前なんだ?」

男性は女性の質問に驚き、少しの間だけ放心していた。男性は冷静を取り戻すと、何事もなかったように女性の問いに答え始める。

「そいつは”木霊こだま”。この大地に存在する、”史の大樹の精霊”だ。」

「史の大樹の精霊、か……。そういえば、私はまことの史の大樹を見たことがなかったね。君が良ければ、案内してくれるかい?」



「今……のは……?」

美桜は近くの木にもたれ掛かり、記憶を整理する。木霊は美桜に近寄り、不思議そうに首を傾げる。

「おい、何が起きた?」

「よく……わからない。でも……何かの記憶を見た……。」

美桜は木霊に視線を向ける。木霊は美桜の肩に飛び乗り、腕を伸ばして進むべき方向を示している。美桜は記憶を整理し終え、木霊の導きに従って道を進む。


 木霊に導かれるままに道を進んでいると、巨大な渓谷が目の前に現れる。美桜が青を呼び出そうとした直後、木霊が谷底へと降りていってしまう。

「あ、ちょっと?!」

美桜は木霊を追いかけ、急いで谷底へ滑り降りる。

 谷底に降りると、また苗木を見つけた。苗木の横では、木霊が大きく手を振っている。

(また?)

美桜は仕方なく、苗木に手を伸ばす。



「それにしても、まさかお前が木霊を視認できるとはな…。」

「その言い方……普通ではないようだね。」

男性は火起こしを行いながら、女性と話を続ける。

「木霊を視認できるのは、紡ぎ人だけだからな。」

「なるほどね。それなら、君が驚くのも無理はない。」

女性は近くの岩に腰掛け、膝の上に木霊を乗せる。その女性の姿に、男性は苦笑いを浮かべる。

「木霊を動物みたいに扱うやつは、初めて見たな……。」

「そうなのかい?」

「一応、そいつは精霊だぞ?」

「まぁ、細かい事は気にするな。それより、薪はもっと必要かな?」



 美桜は苗木から手を遠ざけ、額に手を当てながら地面に座り込む。

(私は一体……何を見せられてるの……?)

困惑する美桜を見て、木霊は体から木の実を取り出す。取り出した木の実を両腕で持ち上げ、美桜へと差し出す。

「……くれるの?」

木霊は大きく頷く。美桜は木の実を受け取り、ゆっくりと口にする。木の実を咀嚼すると、例え難い甘味が口内に広がる。

(意外といける……。)

 木の実を食べ終えた頃には、驚くほど頭がスッキリしていた。美桜は木霊を肩に乗せ、青に乗って渓谷の底から外に飛び出す。

「まったく……無駄に時間を使いやがって……。」

青は地上に着地し、美桜を下ろす。青はすぐに美桜の中へと戻っていった。

「そういえば……地上はどうなってるんだろう?」



「報告!三地点で渇望の樹の討伐を確認!」

指令室に、1人の団員の声が響き渡る。アーロンドは各地の状況を瞬時に確認し、次の指令を下す。その時、指令室に警告音が鳴り響く。

「今度は一体……?!」

「た、大変です……っ!日本上空に……魔王の姿が!」


 ロビンは誰よりも早く、日本の上空に到着する。そこには伝達通り、ニグレードの姿があった。

「……来たか。」

ニグレードはロビンに気づくや否や、辺りに黒い炎を散布する。それに対抗するように、ロビンは青い炎を燃え上がらせる。

「ニグレード……。その様子だと、それが”完全な状態”か?」

「……それは、お前達で考えろ。」

ニグレードが指を鳴らした直後、黒い炎がロビンへ向けて雨のように降り注ぐ。ロビンは青い炎を周囲に拡散し、爆発させて黒い炎の雨を相殺する。ニグレードは爆風の中で、黒い炎を指先の一点に集め、それを光線のように解き放つ。放たれた黒い炎は大気を振動させながらロビンへと迫る。ロビンは刀を抜き、特大の青い炎の斬撃を放つ。2つの炎が激突した瞬間、規格外の規模の爆風が発生する。しかし、彼らは一切怯むことなく、何事もなかったように戦闘を続行する。青い炎がニグレードに迫るたび、黒い炎が青い炎を呑み込む。そしてその逆も然り。彼らの攻防には、まったく終わりが見えない。

 しかし、戦闘の終わりは突然に訪れる。ニグレードは青い炎を弾き、途端に攻撃の手を止める。

「そんなに、俺との戦いを望むのか?」

「根源であるお前を倒さないと、この戦いが終わらないだろ?」

「そうだな。では……俺のところまで来てみろ。」

そう言い放った直後、ニグレードは辺りに魔力を拡散する。魔力はどんどん広がり、ロビンは撤退を余儀なくされる。

(まさか……これは……?!)



”心情空間 黒炎ニグレド




 美桜は木霊が示した道を進む途中、絶壁の崖にぶち当たった。なんとか半分ほど登ったが、かなり体力を消耗してしまっている。

(まだ……あるの……?)

「まったく……最初から我に頼めばよかったものを……。」

痺れを切らした青は、美桜を咥えて上まで運ぶ。美桜を乱暴に離すと、捨て台詞を吐きながら姿を消した。木霊は美桜から飛び降り、どこかへ向かって走っていく。

(今度はどこに行くの……。)

美桜は疲れた体に鞭を打ち、木霊を追いかける。

 木霊を追いかけた先には、何かの遺跡が聳え立っていた。木霊は遺跡の中へ、躊躇いなく入っていく。美桜は一瞬足を止めるが、木霊を追いかけて遺跡に入る。外観もそうだが、かなり苔むしている。相当古いものだとわかるが、地上では見たことがない形をしている。木霊は遺跡内のとある空間で、美桜を待っていた。木霊の隣には、またまた苗木がある。

(もう三つ目なんだけど……。)

美桜は木霊に促されるまま、苗木に手を触れる。しかし、先程までとは異なる記憶が流れ込んできた。



 美桜の頭に流れ込んだ景色は、史記の大地のものではなかった。空は漆黒に覆われ、大地は一切の生命が芽生えない不毛の大地と化している。明らかに只事ではない景色に、美桜は大きく動揺する。その時、誰かが啜り泣く声が聞こえてくる。声のする方を見ると、そこにいたのは地面に座り込む”自分”だった。見間違いでもなければ、幻覚でもない。髪の色も、服装も、声も、身長も、全てが自分のものと合致する。唯一違うところをあげると、目目が虚ろなこと、”背中に翼”、”腰に鱗に覆われた尻尾”が生えているということだ。

(私は……何を見ているの?こんな記憶……私は知らない…。)

自分に近づいてみると、膝元に誰かが倒れていることに気づく。それと同時に、美桜は足を止める。なぜなら、これ以上近づく勇気が湧かなかった。美桜は記憶から抜け出し、現実に戻ろうとした時、目の前の自分に見られる。

「あなたは………私……?」

目の前の自分が動いたことで、倒れている者の顔が露わになる。

(っ……?!……嘘っ……!)

美桜は目を見開き、息を呑む。倒れている者の正体は、ロビンだったのだ。その上、彼の胸には美桜の薙刀が刺さっている。ロビンに気を取られていると、自分が目の前に迫っていた。目の前の自分はこちらに手を伸ばし、こちらの顔に触れる。

「あなたは………私……。これは1つの……運命の結末……。あなたが……”辿ったかもしれない世界”……。」

(どういう意味なの……?)

美桜には、目の前の自分が言うことが理解できない。そんな美桜を見て、目の前の自分はあることを発する。

「あなたは……もう見たはず……。”あなたの世界”の……”別の結末”を……。”この世界”も……”あなたの世界”の……”結末の1つ”……。」

目の前の自分は、美桜の耳元に顔を近づける。

「だから……忘れないで……。」

そう囁きが聞こえた直後、美桜は現実に引き戻される。



「なっ……!何っ……今の……っ?!」

美桜は驚きのあまり、腰を抜かしてしまう。地面にへたり込む美桜に、木霊は近づいて慰めるように額を撫でる。

「だ、大丈夫だから……。ちょっと驚いただけだから。」

美桜は木霊を抱えながら、ゆっくりと立ち上がる。しかし脳裏には、先程見た記憶が焼きついている。

(”別の結末”……。それが本当なら、あの世界は……)

美桜は深く考えるのをやめ、地図を広げて再び道を進み始める。




 ニグレードは地上から離れ、自身の城の最奥で休息していた。

「…魔王様……。」

ハデスはニグレードへと歩み寄り、床に膝をつく。ニグレードは玉座のような場所に座り、隣ではアリス(?)が髪を整えている。

「ご無事で何よりです。この場には私しかおりませんが、他の者も、あなた様の帰還を喜んでいる所存です。」

「直接言いに来なくともよかったが、その気持ちは受け取っておこう。」

「ありがとうございます。……付かぬ事をお聞きしますが、あなた様のご決断にお変わりありませんでしょうか?」

「ない。1000年前に決めたように、一度世界を滅ぼす。そして……権力者を地の底に引き摺り下ろす。そのためには、お前達の力が必要不可欠だ。」

「当然、存じております。先の戦いで同胞を失いましたが、私達は己の全てを、あなた様のために使いましょう。」

ニグレードは玉座から立ち上がり、ハデスに手を伸ばす。

「……動くな。」

ハデスはニグレードの命令に従い、その場に伏せたまま微動だにしなくなる。ニグレードはハデスに、自身の黒い炎を分け与える。その瞬間、ハデスは体の奥底から何かが湧き上がる感覚に包まれる。

「これは……」

「お前の体を、元に戻しただけだ。これでようやく、本気で戦えるんじゃないのか?」

「やはり……あなた様は寛大なお方だ…。あなた様こそ、王の器に相応しい……。」

「俺は別に、大それた事はしていない。仲間を助けるという、当然の事をしたまでだ。」

「そうご謙遜なさらず。当然の事を行うのは、非常に難しいはずです。それはあなた様が、最も理解しているでしょう。」

「……そうかもな。」

ニグレードは玉座に座り、ハデスに指示を送る。

「俺はしばらく、ここで休む。その間は、お前が指揮を執れ。」

「承知しました。このハデス、必ずや、あなた様のご期待に添って見せましょう。」

そう言うと、ハデスは礼をして地上へと向かって行った。

「もう少し、柔らかくなってもいいけどな…。まっ、あいつの好きにさせるか。」

その時、アリス(?)が心配そうに話しかけてきた。

「あいつらが心配か?気にすんな。あいつらは負けたとしても、確実に爪痕を残してくれるはずだ。だから、そんなに心配すんな。それにあいつらも、余計な心配はしてほしくないだろうからな。」

ニグレードは、得意げにそう言い放った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ