【第100話】 信じる勇気
数日後……。本部の会議室に、各支部の代表者が集まっていた。代表者が集まったのを確認し、アーロンドは椿と視線を合わせる。
「これより、最後の作戦会議を始めます。まずは現在の状況の説明を。」
椿は資料を机に広げ、一枚ずつ読み進める。
「各国の防衛線は、想定よりも早く完成している。しかし、依然として魔獣の侵攻が続いている。防衛が苦しくなった場合は、結界を即座に展開するべきね。例の最終兵器については、引き続き監視を。いつ起動するかは不明。こちらが起動を阻止することは不可能。結界を何重にも張って、対策をするのが得策よ。」
「……とのようです。では次に、各国の状況の報告を。早世。」
「現在の日本の状況は、都市圏に大量の魔獣の徘徊が確認されている。討伐に尽力しているが、数が減る気配はない。負傷者は約3000万。死者は推定、2000万は下らない。そのうちの3割は魔道士です。」
「かしこまりました。本部から団員を手配しましょう。次に、真絶。」
「はい。現在中国各地では、魔獣の被害報告が後を絶ちません。都市圏は壊滅寸前の状態で、いつ魔獣が溢れてもおかしくありません。ロシアとの境界にある最終兵器の状況に変化はありませんが、付近の魔獣が活性化している思えます。死者負傷者合わせて、およそ2億人を把握しております。」
「承知しました。確か、物資が足りないとお聞きしました。至急、供給を急ぎます。では次、ルアーザ。」
「現在、イギリスの状態は良好とは言えません。ガーネット率いる数百名の魔道士達で戦っておりますが、状況は一向に変わりません。都市圏は崩壊しており、かなり劣勢の状態です。」
「そちらにギルガラントを向かわせます。それまでは、耐えてください。次は、シュバルツ。」
「現在フランスでは、魔獣の侵攻は確認されておりません。最終兵器には、ホーリー、カタレット、カーネリアの3人に監視を任せています。その者達以外であれば、人員を手配することは可能です。」
「ありがとうございます。フランス支部の皆さんには、他国の防衛に向かっていただきましょう。では次、ルイアバラン。」
「はい。現在、ロシアは広い範囲で魔獣と交戦をしております。状況に変化はありません。中国との境界にある最終兵器は、合同で監視しております。また、真絶の報告と同じで、周辺の魔獣の活性化が確認されました。」
「承知しました。余裕があればで構いませんが、他国に人員を手配していただけると助かります。次、オーシス。」
「オーストラリアでは、魔獣がかなり凶暴となっています。被害者の数も相当です。人員に問題はありませんが、物資が不足している状況です。こちらの最終兵器の監視は、数十名体制で行っています。」
「かしこまりました。すぐに物資を送りましょう。では次、ガレジスト。」
「現在、アメリカ都心部から郊外まで、大量の魔獣が彷徨っている。被害は甚大な上、物資も人員も足りていない状態です。人々はラスベガスへと避難させておりますが、いずれ限界になるでしょう。最終兵器の監視は、ソールとセレストで行っている。」
「至急、対応を急ぎます。では次、ティフェス。」
「はい。ブラジルでは、魔獣の被害が多発しています。物資に問題はありませんが、人手が足りない状況です。戦える者は十分にいますが、治療を行う者が非常少ない状況です。」
「承知しました。すぐに医療班を手配しましょう。次、ラー。」
「エジプトでは、特にこれと言った異常はありません。最終兵器の監視を厳重に行っています。人員を手配することは可能です。」
「ありがとうございます。……以上が、各国の報告となります。他に伝えたいことがある者は、この場でお話しください。」
その時、椿がコツンと靴を鳴らした。
「どうかされましたか?」
「何も…?」
「そうですか…。」
「何?元団長の私に、何か言ってほしいの?」
「おや?何かお言葉をいただけるのですか?ありがたい限りですね。」
「はぁ…?」
椿は室内を見て、後の戻りできないと悟った。その後、自分にイラつきながらも、立ち上がって言葉を発する。
「……全ての魔道士に伝えて。これから先、何が起こるかはわからない。1つだけ言えるのは……必ず死者が出る。それはこの場にいる者、いない者かもしれない。一度始まったら、決着がつくまでは終わらない。悲しむのは、戦いが終わってからよ。その覚悟がある者だけ、戦場に立ちなさい。これが私から言える、精一杯の言葉よ。」
椿は頬を少し赤く染め、席にドカッと座る。
「ありがとうございます。」
突然、アーロンドはたちあがり、机に両手をバンっとつく。
「……皆さん。明日早朝、魔王軍の侵攻に備え、『最終防衛作戦』を開始します。最終目標はただ一つ、『魔王ニグレードの討伐』です。理解していると思いますが、私達が最後の砦です。作戦の失敗が、人類の滅亡だと考えてください。では……全ての者にご武運を……。」
「ふぃーっ……。」
ロビンは本部のテラスでくつろぎながら、刀を磨いていた。そこへ、美桜が顔を見せに来た。
「何してるの?」
「刀の手入れだ。長期戦は避けられないだろうからな。そういうお前は、手入れは終わったのか?」
「まだだけど……。」
「……まぁいい。とりあえず座れよ。少し、話をしようぜ。」
美桜は薙刀を椅子に立て掛け、ロビンに隣に掛ける。そのとき無意識に、ロビンに肩が触れるくらい近づいた。
「……近くね?」
「そうかしら?」
「……まあ、いいか。」
ロビンは美桜の肩に手を回す。ロビンの予想外の行動に、美桜は顔を赤くする。
「え……、ちょっ……?!急に何?!」
驚く美桜を気にせず、ロビンは彼女を自身に引き寄せる。その結果、2人は完全に密着した状態になった。美桜は耳までも赤くし、心臓の鼓動が速くなる。
「ん?顔が赤いぞ。熱でもあるのか?」
「バ、バカじゃないの……っ?!」
「もしかして……俺はお前に何か、悪いことでもしたか?」
「そ、そういうことじゃないから!!!」
「じゃあ、どういうことだ?」
「それはぁ……。好きな人に抱き寄せられたら……誰だってそうなるでしょぅ……。」
美桜はロビンに聞こえないくらいの小声で話した。
「すまん。もう一回言ってくれねえか?」
「こ……」
「こ?」
「この恥知らずっ!ノンデリ男っ!鈍感っ!女たらしっ!」
美桜は顔を耳まで真っ赤にしながら、ロビンに向かって叫んだ。
(え、えぇーっ……?!そこまで言われるようなことしたか???)
「すまねぇ……。なんでそこまで、言われなきゃならないんだ?」
「ふ、普通なら言わないわよっ!」
「……普通なら?」
美桜はロビンの返しに対し、無言になってしまう。
「そ、そうよ!普通なら言わないから!」
「つまり、俺が普通じゃないってことか?」
「そ、そういうわけじゃ……。」
「でも普通なら、言わないんだろ?」
その時、美桜の中で何かが吹っ切れた。
「だって……普通じゃないから……。あなたのことが……す、す、す……好きなんだもん……っ!」
美桜は顔を両手で隠すが、頭から湯気が出ていた。美桜は指の隙間からロビンを見る。すると、ロビンはゆっくりとこちらに近づき、美桜を優しく抱きしめた。その際、美桜自身も聞いたことがないような甘い声が漏れた。
「ふえぇ……?!」
「最後の最後に、お前の俺に対しての態度の理由がわかった。要するに……嫉妬してたってわけか。」
突如、美桜の額に血管が浮かび上がる。その直後、ロビンを強烈なアッパーが襲う。
「全っ然っ!わかってないじゃないっ!!!」
ロビンは宙を舞い、テラスに勢いよく落下する。
「乙女心を知ったように話すんじゃないわよっ!このクソボケがっ!!!」
「言い過ぎだろぉ……。」
「うっさい!!!金的でもされたいわけっ?!」
(美桜って実は、とんでもない凶暴女だった……?)
その時、美桜はロビンを蔑んだ目で睨みつける。
「あ……っ、やべっ……。」
「何がやばいの?それと……誰が凶暴女だって?」
「あー、えと……。すいませんでしたぁっ!!!」
「許すと思うかぁっ!!!覚悟しろぉっ!この恥知らずっ!ノンデリッ!クソボケッ!鈍感っ!女たらしっ!人間の屑っ!」
「だから言い過ぎだろぉぉぉぉっ!!!」
その後、本部中にロビンの叫び声が響いたという……。
「で、何があったの……???」
2人は現場を発見した椿によって、軽い尋問を受けていた。
「私が……暴走しました……。」
椿は呆れ、深いため息をついた。
「若気の至りねぇ……。あんたは恋愛事情が関わると、どうしてヒートアップしちゃうのやら……。でもこの件は、どっちもどっちね。」
「え、俺も悪いの?」
「何当たり前のことを、そんな不思議そうに聞くわけ?あんたは一回、恋愛ものの本を読み尽くすべきよ。」
「読み”尽くす”?!読むべきじゃなくて?!」
「何か変なことでも言ったかしら?普通に読むだけじゃ、つまらないじゃない。」
「そんなの、時間潰れるじゃねえか!」
「別にいいじゃない。あんな面白いものを、時間一杯見られるのよ?至高以外の、何ものでないと思うけど?」
「まず、お前の思考回路が理解できねえよ……。」
椿はムッとし、2人を密着させ、床に押し倒す。
「2人で、好きにイチャついてなさい……!」
椿はそう言い残して部屋を飛び出し、勢いよく扉を閉めた。ロビンはすぐに立ち上がり、ドアノブに手をかける。
「あれ?開かねえ…。」
ドアノブをガチャガチャと動かすが、全く動かなかった。窓から外を見るが、外には海が広がっていた。
(沿岸側かよ……。ここから外に出るか、扉を蹴破るか……。)
ロビンが脱出方法を考えていると、突然、美桜に引っ張られた。バランスを崩し、美桜に覆い被さるように床に倒れた。美桜の顔は、少し紅潮していた。
「……私じゃ嫌?」
ロビンは美桜の甘い声で発せられた言葉にドキッとする。しかし、すぐに冷静になる。
「嫌とかじゃなくて……俺が社会的に終わる……。」
「そんな常識……ロビンなら簡単に壊せるでしょ?」
美桜はロビンの首に両腕を絡み付かせ、自身に引き寄せる。ロビンの目と鼻の先に、美桜の顔が近づいた。お互いの吐息が、直に感じられる距離だ。
「お前さっきから……何を考えてるんだ……?目が怖いぞ……。」
「そう言うあなたこそ、何か邪なことを期待してるんじゃない?例えば……」
美桜が舌舐めずりをした直後、2人の唇が重ねられた。ロビンは突然のことに反応できず、美桜の思うままに口付けをされてしまう。
「ぷはっ……。」
美桜の力が緩んだ瞬間、ロビンは美桜から顔を離す。その時の美桜の表情は、恍惚としていた。ロビンが気を取られていると、美桜に顔を引き寄せられる。
「……キス、しちゃったね。」
ロビンは耳元で囁かれ、背筋がゾワっとした。そんなロビンを気にせず、美桜は耳元で囁き続ける。その声には普段の美桜からは感じられないような、妖艶な雰囲気が漂っていた。
「ほら、あなたもこういうのが好きなんでしょ?」
美桜は巫女服をはだけさせ、ロビンに胸元を見せつける。ロビンは目を逸らそうとするが、美桜がそれを許さない。ロビンの顔を両手で掴み、真っ直ぐと自分に向けさせる。
「男の人って、胸は大きいほうが好きなんでしょ?私のは、アリスよりも大きいかしら?あぁ……胸元だけじゃ、わかんないか。」
美桜はロビンを誘惑するように、巫女服の襟に手をかける。その時、ロビンは美桜の手首を掴んだ。
「バッ……バッカじゃねえの???羞恥心とか……ないのかよ……?」
「安心して。ちゃんとあるから…。ただ……抑えてるだけよ…。」
気づけば、美桜は耳まで紅潮し、息を少し荒くしていた。
「それともあなたは……自分で脱がせたい人なのかしら?」
「なんでそうなるん……」
その時、ロビンは美桜に顔を引き寄せられる。
「……隙だらけ。」
美桜はロビンの耳元で、甘い声でそう囁く。そのせいで、ロビンは固まってしまう。
「別にいいでしょ?魔王と戦って、必ず生きて帰れるわけじゃないんだから……。」
「それは……そうだけど……。今である必要はないだろ……!」
「今しかないから、こうしてるの…。それともあなたは、私の勇気ある行動を否定するの?」
ロビンは妖艶な雰囲気を放つ美桜に囁かれ、理性が揺らぎかけていた。
「最後くらい……自分の欲望に素直になったら……?」
「最後だからって……なんでも許されるわけじゃ……」
その時、ロビンの頭に電撃が走った。
(そうか……最後なのか……。)
ロビンは美桜の手首を掴み、床に押し付ける。
「本当に……俺のことが好きなのか……?」
「うん……大好きだよ……。」
ロビンはスゥッと息を吸い、美桜と唇を重ねる。美桜は目を閉じ、ロビンを強く抱き寄せる。2人の唇が離れた後、美桜は恍惚とした表情でロビンに話しかける。
「もう……逃げられないからね……?」
「わかってるぜ。逃げるつもりはないし、逃げようとも思っていない。」
「そう……。じゃあ私のことも……アリスと同じくらい、愛してね……?」
「あ……、終わった?」
2人が部屋から出ると、廊下の突き当たりで椿が休んでいた。椿の顔は、少し赤くなっていた。
「……もしかして……聞こえてた……?」
美桜はロビンに縋り寄り、頬を赤くしながら椿に問いかける。
「さぁね…。ただ、特濃甘々の恋愛感情を見せられて、私の乙女心が疼いちゃっただけよ。」
美桜は顔から湯気を出し、ロビンの後ろに隠れる。
(絶対!聞こえてたやつじゃん……っ!)
美桜は顔を両手で隠しながら、心の中でそう叫んだ。
「そういえば、今は何時だ?」
「えーと……15時よ。」
「もうそんな時間かよ……。美桜、昼飯食いに行くぞ。」
「ちょっと待って……!まだ腰に力入らないから……!」
ロビンは縋り寄る美桜を引きずりながら、廊下を進んでいった。
「……若いわねぇ。」
椿は2人の後ろ姿を見ながら、独り言を呟いた。
「午前0時……。日が変わったようですね。」
アーロンドは夜空の下で、夜風に吹かれながら椿に話しかける。
「それで、神宮寺君を連れて行くのですか?」
「えぇ。でも送るのは、楽園までよ。」
「そうでしょうね。……椿。この戦いの勝算は、どれほどだと予想しますか?」
椿は目を閉じ、少しの時間考える。
数分後、椿は目を開けて息を軽く吸う。
「……2割ね。」
「なぜでしょう?」
「あんたには、言っておくべきかもしれない。」
椿は髪留めを外し、アーロンドの目の前に立った。
「私はこの戦いで、確実に死ぬ。」
「……ほぅ。」
アーロンドは唐突なカミングアウトに対して、平静を保った。
「一応聞きますが、避けることはできないのですか?」
「現状、不可能ね。」
「そうですか……。」
「ただ、私もどうやって死ぬのかはわからない。まっ、どんな死に方だろうと、大人しく受け入れるつもりよ。」
「……あなたがそのつもりであれば、私は特に言いたいことはありません。」
アーロンドの言葉からは、深い哀愁が感じられた。椿はそれに気づくが、特に言及はしなかった。
「それで、これからどうしますか?早朝まで、かなり時間がありますが…。」
「いつ何時も、警戒を怠ってはいけない。戦況が変わるのは突然だから。」
その時、1人の団員が2人のもとへ慌てて走ってきた。
「た……、大変ですっ!すぐに指令室に!」
「何かあったのですか?」
「はい……っ!先程突然、全ての最終兵器が動き始めました……っ!」
急いで指令室に向かうと、警告用のアラームが鳴り響いていた。モニターを見ると、5つの最終兵器の状態が表示されていた。5つ全てに、”要警戒”の3文字が表示されていた。
「これは一体……?!」
アーロンドはすぐに結界の展開の指示を出す。その数秒後には、5つの最終兵器全てが何重もの結界で覆われた。
「結界の展開完了!いつでも衝撃に耐えられます!」
「その状態を維持してください!」
「報告!全ての最終兵器周辺に、大量の魔獣の姿を確認!しかし……何やら様子が……!」
「構いません。すぐに討伐を!」
その時、5つの最終兵器に再び異常が発生する。
「まずいですね……。各自、爆発に備えよ!」
アーロンドが指示を出した数秒後、5つの最終兵器が一斉に爆発する。
「最終兵器……全て……爆発しました……。」
「すぐに被害の確認を!」
団員達は、すぐに各地の状況を調べ始める。
「報告!結界が完全消滅!近辺への被害は最低限です!」
「負傷者がいれば、すぐに手当てを!」
全員が各々の役割に努める中、モニターの通信機がどこかと繋がった。その直後、最終兵器があった地点に、謎のエネルギーの塊が表示される。
「今度は一体……?!」
「アーロンド!聞こえる?!」
「椿……?!今どこに?!」
「太平洋上空!最終兵器があった地点に、急いで人員を手配して!」
「一体何が……?!」
椿は通信機をセレストと繋げる。
「詳しいことは、セレストから聞いて!」
「あー、あー。聞こえるかえ?」
「繋がっております。そちらで、一体何が?」
モニター越しにセレストの声が聞こえるが、同時に、戦闘が行われている音がした。
「最終兵器が爆発し、それを結界で防いだ。そこまでは良かったのだが……どうやらあれは、爆弾ではなかったようじゃ。」
「どういう意味ですか?」
「最終兵器の中には………”怪物”がいた。」
セレストはモニターに、怪物の写真を転送する。モニターに送られた写真には、見たことのない生物が写っていた。姿は木彫りの人間の上半身のように見えるが、背中からは無数の木の枝のようなものが生え、触手のように動かしている。目は血のように真っ赤に染まっており、体は根で地面に固定されている。その大きさは相当なもので、10メートルは優に超えているだろう。
「すぐにあの怪物の解析を!」
「やってます!ですが……特徴と一致するデータが見つかりません!」
セレストは通信を切り、神妙な面持ちで戦場に飛び出す。戦場では、怪物が無数の枝を振り回して暴れている。その姿からは、異様な恐怖を感じた。
(此奴は一体なんじゃ?まさか此奴が、最終兵器の正体じゃと……?)
「ソール。慎重に行くぞ。どうやら此奴は、本部の資料に存在しないらしい。」
「承知した。それと、先程から攻撃を続けているが、手応えがまるで感じられない。」
「あい分かった。」
2人は怪物を挟み込むように、同時に攻撃を仕掛ける。その攻撃は苛烈であり、並の敵なら一瞬で討伐されるだろう。しかし、怪物は2人の攻撃に一切動じなかった。
(此奴……私達2人の攻撃に見向きもせんとは……。些か、気味が悪い!)
セレストは怪物の頭部を爪で切り裂く。しかし、手応えを感じられない。その感覚はまるで、無機物を切ったかのようだった。切り口を確認すると、恐ろしい速度で再生していた。
(果たして此奴は……生物なのか?)
セレストは怪物の胸部に連続で攻撃を行う。その時、胸部にヒビが入った。
「ソール、胴体を狙え!」
セレストはソールと共に、怪物の胸部に集中砲火を浴びせる。ヒビはさらに広がり、今にも砕けそうだった。セレストはトドメを刺そうとした時、両の爪に痛みを感じた。恐る恐る爪を見ると、信じられないないほどボロボロになっていた。
「えぇい、ままよ!」
セレストはそのまま、怪物の胸部を殴りつけた。その衝撃で、怪物の胸部が大きく砕ける。
「セレスト……!」
ソールはセレストを抱え、すぐに撤退する。
「お主に抱えられずとも、自分で歩ける。」
「それより、なぜ爪がこのような状態に?」
「わからぬ…。」
ソールはガレジスト達と合流し、医療班にセレストの爪を見せる。
「かなり酷い状態です。すぐに治療を行うので、しばしの時間を。」
「助かる。ところでガレジストよ。各地の状況は?」
「それなんだが、どうやら最終兵器があった場所に、あの怪物が現れたらしい。依然として、正体は不明のままだ。」
「そうか。私は奴を攻撃したが、手応えを感じられなかった。セレスト。君もそう感じたか?」
「左様。奴を攻撃した時、まるで、無機物を攻撃したように感じた。それと……奴の特徴が1つだけわかったやもしれん。」
「それはなんだ?」
セレストはフッと息を吐いてから、神妙な顔で話始める。
「奴はおそらく、”何かを吸収”しておる。その何かがわからなければ、絶対に倒せないじゃろう。」
「話は聞かせてもらった。」
突如、上空から椿が地上に降りてくる。
「あいつはおそらく、”渇望の樹”という魔獣よ。」
「”渇望の樹”……じゃと?それは本当か?」
セレストは椿に詰め寄り、目を見開いて問い詰める。
「えぇ。特徴からして、間違いない。」
「”渇望の樹”とは、どういう魔獣だ?」
「奴は他者の生命エネルギーを吸収し、それを糧にして自身の傷を癒す。生命エネルギーがなければ、星のエネルギーを吸収する。奴がエネルギーを吸収する限り、絶対に倒すことはできない。」
「奴は倒せないのか?」
「倒せないわけではない。倒すためには、エネルギーを吸収させる暇を与えず、蓄えたエネルギーが底をつくまで待つ必要がある。」
「となると、かなりの人数が必要になるな。」
ガレジストはアメリカ全土の魔道士に連絡し、招集を行う。しかしいずれも、魔獣の討伐に追われているようだ。
「セレスト。あんたは何か知ってるの?随分と驚いてたけど。」
「あぁ。旧友から聞いたことだが、渇望の樹の影響で、大量の死者が出たとのことだ。最初は罠のようなものかと思っていたが……まさか魔獣だったとは…。」
「報告!怪物の正体は”渇望の樹”と判明!」
「即急に、対処法の伝達を!」
全員が各々の役目に追われる中、ロビンは1人、準備をしていた。そこへ、美桜がやってきた。
「ロビン……。」
「なんだ、美桜か。」
「ロビンも……渇望の樹と戦うの?」
「……いや、俺は戦わない。その代わり、やらなきゃいけないことがある。」
ロビンは美桜に背を向け、足早に立ち去ろうとする。
「待って!」
美桜はロビンを呼び止める。
「私も行く。」
「……気持ちは嬉しいが、お前にも、やらないといけないことがあるはずだ。」
「もちろん、私だって渇望の樹と……」
「そうじゃない。」
ロビンの声が、美桜の言葉を遮った。
「お前がやるべきことは、紡ぎ人になることだ。」
「なっ……?!どうして……そうなるの?」
「……強くなるんだろ?だから紡ぎ人になって、戻って来い。それまでは、俺達だけで耐える。」
「それだと、あなた達の負担を増やすだけじゃない!私も戦う!」
ロビンは美桜に歩み寄り、優しく抱きしめる。
「俺達を信じろ。信じる勇気を持て。」
ロビンは美桜にそう言い残し、颯爽と飛び去っていった。
呆然とする美桜のもとへ、椿がやってくる。
「……行きましょ。もう、後戻りはできない。」
美桜はロビンの言葉を思い出し、自身を奮い立たせる。
ここまでご愛読いただき、ありがとうございます。100話の内容に関してですが……深夜テンションで考えてたらこうなってしまいました……。まぁそんなことはさておき、ついに「紡ぐ者(第1章)」が100話に到達しました!ですが……実を言うと、ようやく折り返し地点が見えたぐらいなんですよね…。つまり、まだまだ「紡ぐ者(第1章)」は続くということです。とは言っても、あと1つドデカいストーリーが終われば、ニグレードとの最終決戦です。まぁ、そのドデカいストーリーがかなり長いんですが……。この先もこれまで同様、2日空けて投稿しますので、最後まで楽しんでいただけたら幸いです。




