20、目覚めは痛みと共に
ブックマーク&評価、ありがとうございます!
明けましておめでとうございます。
更新が大変遅れ、申し訳ございません。
また、作者の都合により、一年ほど更新を止めさせていただくことと致しました。
予定では来年の三月か四月から更新が再開できそうですので、それまでお待ち頂けたら幸いです。
痛い。とにかく、身体中が痛い。筋肉痛と頭痛のヤバいのを混ぜたものをさらに増幅させたイメージだ。インフルエンザに似ているかもしれない。
「ぁ、う」
「殿下、お気付きになられましたか?!」
僅かに発した呻き声に、聞き覚えのある声が反応する。
目蓋を開け閉めする筋肉にさえ筋肉痛が生じているらしく、薄目になるのも一苦労だ。
一瞬視界全体に眩しさを感じた後、ゆっくりと焦点が合い、像を結ぶ。
「良かった……! このまま、意識が戻られないかと思いました……」
此方に駆け寄って来たかと思うと、脱力して床に座り込み、ベットの端に顔を伏せる。
……にしても、この娘なかなかに縁起でも無いこと言うよなぁ。
「みず、を」
「はい、只今お持ち致します」
命令一つで切り替えができる程度にはちゃんとしてるんだけどね。
さて。水を飲み、上体を起こして貰ったところで、やっと部屋の中を見渡せるようになった。
ジュリア曰く、私は意識不明な状態のまま3日間も眠り続けていたんだとか。
心配そうな面持ちでこちらをのぞきこんでいたのは、皇家専属の医師と、やけに痛そうに腫れた顔をした宰相だった。
「殿下、真に申し訳ございませんでした……。本来ならばお止めするべき、いえしなければならぬ立場ながら、判断を誤りました。如何様な罰なりとも甘んじて受け入れますゆえ…………」
「罰を下すつもりはありません」
「しかし」
「悪いのは政務を置いて好き放題をした皇帝陛下と、皆さんの反対を押し切ってロイの許へ行った私です。臣下に責を負わせる訳にはいきませんし、何より貴方は貴重な人的資源です。これまで通り、執務に励んで下さればそれで構いません」
「ですが」
「…………私を止めなかった事を罪とするのなら、私はこの件に関わった騎士たちをも罰さなければならなくなります。そして、そのような大規模な懲戒がなされれば自然とその原因が明らかとなります。自分勝手で身の程知らずで無神経で無自覚な行動の結果、大勢の将来有望な騎士に宰相、皇太子を巻き込むなどという醜行をした皇帝に、果たして臣下はどのような目を向けるでしょうね?」
「それは」
「王家の権威は失墜、対策として代替わりをしようにも適齢の皇位継承者は居らず、仮帝制度は内戦勃発の原因と成りかねない。それでも、罰を望みますか?」
誠実なのは良いことだ。自分に厳しいのも長所と言えるだろう。
だが、それらが常によい結果をもたらすとは限らない。
第一、屑親父のせいでこれ以上戦力を削られてはたまらない。
「望み、ません」
「ならば良いでしょう。引き続き、帝国の繁栄に力を貸して下さいね?」
「畏まりました」
「それでは溜まっている書類を持ってきて下さい。目を通してコメントするだけであれば今でもできま……」
「なりませぬ」
途中で話を遮ってきたのは先ほどから黙々と私の診察を続けていた侍医。
「現在、殿下のご体調はとても良いとは言えぬ状態でございますゆえ、出来る限りの安静になさるべきでございます。仮に政務をなさるとしても、最大で休憩を挟みつつ1日に一時間程度になさいませ」
「畏まりました」
「殿下も、お分かりですね?」
「……分かりました」
感激したのか、ボロボロと涙を落としつつ退出する宰相。
その後ろ姿を見送っていると、「殿下、少しよろしゅうございますか?」と深刻そうな声で侍医に呼ばれた。
「あ、はい。どうぞ?」
「殿下のお怪我についてなのですが、軽度の骨折や切り傷等は治癒魔法で治療済みでございます。ただ、左足の骨折は重症で、殿下の年齢では治癒魔法を使うとお身体に負担がかかってしまうため使用しておりません」
「はぁ」
治癒魔法? そんな便利な魔法もあるんだ。
「治癒魔法は怪我自体は治すことができますが、その分、自然治癒に必要なエネルギーが必要となります。そのため、余りに大きな怪我を治そうとすれば命の危険にも繋がり兼ねないのでございます」
なるほど。乙女ゲーの世界でも過剰なご都合主義設定は禁物らしい。
「いずれは治るのですか?」
「残念ながら、自然治癒は不可能でしょう。また、治癒魔法の効果は怪我をしてからの時間と反比例致しますので殿下のご成長を待ってからでは効果が殆ど望めません」
「……後遺症は?」
「左足がほぼほぼ麻痺状態になるかと」
マジですか。転生してから二年半。前世の記憶を取り戻してから半年で、片足が使えなくなりました。
その後、侍医がジュリアに服薬や看病の諸注意をして出ていき、「しばらくお休みなさいませ」とジュリアが昼食の用意をしに行き、部屋には私だけとなった。
まぁ部屋の外にはちゃんと護衛騎士と側仕えが控えて、枕元のベルを鳴らしたら来てくれるんだけど。
……あ、宰相さんの腫れた頬の理由聞くの忘れた。
「さて、と」
暇だ。
基本的に誰かの補助が無いと起き上がることも難しく、本棚まで行くのは無理なので読書は不可。
さらに普通に寝ているだけでも身体の各部が痛い。こんなことになったのも、あの屑親父のせいだ。てかアイツ最初は普通の父親っぽい感じだったのに何であそこまで態度が変わってたんだろう。
……私の事、どんな風におもってるんだ?
そういえば。3日前のあの戦闘(?)で私がロイを倒した(?)あの能力(?)はなんだったんだろう。
ひょっとして、魔術だろうか? あれが私の使える魔術だとしたら相当すごいチート能力になりそうだ。
でも原作のゲームでは『クラウス』にそんな設定はなかったはず。
あ、原作といえば。一番最初にたててた目標の「弟と仲良くする」作戦、全っ然進んでない。
アレクシスがガーネット家に居るって事はわかっているので会いに行くのはそう難しく無いだろう。
それから母上の状態も気になる。暫くは動けなくなりそうだし、かりに動けるようになったとしても左足が不自由になった件をどう説明しようか。
暇であるということは、考えるのが止まらなくなるのとほぼ同義である。
という訳で、懸案事項だのなんだのが次々に浮かんできて止まらなくなる。
とりあえず頭の整理をしようと思ったのだが。
………眠気には、勝てなかった。




