第6話 私はまだ選べない
3/14 第5話の最後から大幅改稿しています。その為、以前の第6話とは全く違う話になります。
国王様に挨拶をしに、謁見の間行くことになった私たちは、謁見の間の隣の部屋で準備が整うまで待つことになった。
私はすごく緊張した。他国の王に謁見を求めるのはこれが初めてだ。
メイドが持って来てくれた紅茶を飲んで落ち着こうとするが、全く味が分からない程に緊張している。
するとリューン王子が私の手に手を添えて微笑んだ。私が緊張しているのが分かったのだろう。私は自然と笑みが溢れ、少し緊張がほぐれた。
するとドアをノックする音が聞こえ、扉が開いた。甲冑を纏った兵が私たちに一礼する。
「謁見の準備が整いましたので、こちらへどうぞ」
そう言われて私たちは席を立って兵についていった。謁見の間に入ると、正面には豪華な椅子に二人腰掛けていた。多分王様と王妃様だろう。私たちは椅子まで続く赤い絨毯の上を歩いていった。階段の前で止まり、深々と会釈する。
「父上、母上。リューン=フィラルドただいま戻りました」
オスクル=フィラルド。齢50のこの男こそ、この国フィラルド王国の国王。銀色の髪と紫の瞳、そして髭を生やしている。体つきは筋肉質でがっしりとしている。
体格は似ていないが、髪や瞳はリューン王子と同じ。
隣にいるのはユーナリア=フィラルド。オスクル=フィラルドの正妃。そしてオレとスグルドの母親である。深い緑の髪と瞳、長い髪は一つに纏めて結っている。優しそうな顔立ちはどことなくリューン王子を思わせる。
「ああ」
「こちらは、メイルディーン王国の第一王子であるカイナス王子とウェルメール公爵家令嬢のアデルリア嬢です」
「カイナス=メイルディーンです。突然の申し出、快諾してくださり感謝致します」
「アデルリア=ウェルメールです。療養の場所として王宮に住まわせて頂き感謝致します」
「二人の話はリューンから聞いた。お困りのこととかあれば、遠慮なく申して頂きたい」
「ありがとうございます」
「我が息子はから聞いたのだが、リューンはアデルリア嬢に好意を寄せていてな。先日のパーティーで結婚したいといきなり言いだしたようで。急な申し出で驚かれたことだろう。申し訳ない」
「いっ、いえ。そんな……頭をお上げください」
「しかし、アデルリア嬢は前々からカイナス王子と婚約するという噂があったしな。パーティーで婚約発表すると皆確信していた。実際カイナス王子はこの国に来る際、婚約発表する相手が心配で共に行くと申していたようだしな。息子は焦り、発表前に申し込み、結果的に婚約は発表されずアデルリア嬢は我が国に来ることになった。メイルディーン王国は王子の婚約者を奪取したと思っているものもいるやもしれぬ」
「そんな……」
「一人の親としては、息子の恋を応援してやりたいが、一国の王としては、隣国との関係を悪化させるような真似はしたくない。今回の訪問はアデルリア嬢の体調の関係だが、婚約を認めるわけにはいかないのだ」
「はい」
そりゃそうだ。国を背負う者の判断としては当然の結論だ。
「リューン、カイナス王子。二人に聞きたいのだが、二人はアデルリア嬢の意思を尊重したいと思っているのか」
「はい、勿論です。父上。アデルリアの事は好きですが、彼女の心が自分に向いていないのなら引き下がるつもりです」
「私もです。婚約予定というのを利用して、無理矢理推し進めるのは本意ではありません」
「そうか……。なら、来月行われる我が国の建国1000周年の式典の前日に、改めて話を聞きたい。勿論三人ともに。それまでに三人で話し合ってその結果を聞かせてほしい。三人とも、これからの国の未来を背負う立場にある者たちだ。恋を思うように成就させるのは難しい立場だろう。ただ、だからといってはなから諦めては欲しくはない。式典の前日まで思う存分悩んで話し合ってくれ。納得できる答えは出ないかもしれないが、後悔しないように足掻いて欲しい。その答えを聞き、私も君たちのことを考える」
「父上……」
「もし、アデルリア嬢がリューンを選び、カイナス王子が納得するのなら私は二人の恋を全面的に応援しよう。そしてアデルリア嬢がカイナス王子を選ぶのなら、もしメイルディーン王国が今回の件で婚約を白紙にする意向があった場合、二人が結ばれるよう助力しよう。ただ、出来うる限りの事はするが、確約は出来ない。そこは理解してもらいたい」
私は驚いた。一国の王が私たちの恋にそこまで心を砕いてくれるとは。
ちゃんと向き合おう、二人と。私は誰が好きなのか、誰と共にいたいのかちゃんと考えよう。政略結婚が当たり前の私たちだ。折角与えられた機会を無駄には出来ない。
私たちは深々と一礼し、各々お礼を述べた。
謁見が終わり、私たちはリューン王子の私室で今後について話し合うことにした。
「いや、先程のはビックリしたなー。まさか一国の王があんな事を言うとは……」
「私もビックリしました。父上が政治と切り捨てるのではなく、私たちの気持ちを汲み取ろうとしている事に。私もはもし父上にアデルリアとの結婚を反対されたら、駆け落ちでもと考えていました」
「駆け落ち⁈」
「ですが、それは私のエゴですよね。アデルリアとしても皆に祝福された結婚の方が良いに決まっているのに」
いや、私的には駆け落ちの方が命の危険が減りそうな予感がして良いのですが。でも、国王様もこんなに親身になってくださっているし、誠意でお答えしないとバチが当たるわ。駆け落ちの線は無しの方が良さそうね。
「取り敢えず、今のアデルリアの素直な気持ちを聞きたいんだが……」
カイナス王子は、話の核心をついてきた。なんて答えたら良いのだろう。やっぱり素直な気持ちを言った方がいいわよね。
「私は……その……。今の段階でお二人どちらかを選ぶ事は出来ません」
私は心の内を素直に話す事にした。
「以前の私は、カイナス王子のことが好きでした。しかし、あの事件で心が荒み、以前の様に純粋に好きではいられなくなりました。リューン王子はあの絶望的な状況の中で唯一の光でした。貴方の存在に私の心は救われました。感謝しています。しかし、恋愛感情かと聞かれると微妙でして。なんといいますか……。二人は私にとって大切な方には間違い無いのですが、今の私にはどちらかを選ぶだけの強い相手への思いがありません」
嘘偽りはない。前世の事を端折っただけだ。記憶では確かに二人の事は知っているが、前世を思い出し、私としては二人ともつい最近知り合ったという気持ちが強い。
そんなすぐには決められない。
まあ、来月には決めなくてはいけないが。
というか、二人が好きなのは前の私なんだよね。前の私と同じ様には行動出来ない。つまり私の行動次第では二人は私の事を好きではなくなるのでは?
なら今の内に、リューン王子が好きって言って駆け落ちを……っていかんいかん。つい打算的な事を考えてしまう。そんな事したってリューン王子には気持ちはバレると思う。
でも、リューン王子は優しいから、私の嘘に気づかないで駆け落ちしてくれそう。そんな事になったら私は後で後悔する。自分の事を許せなくなってしまう。
私は自分の心の悪魔の囁きを打ち消し、気になる事を言った。
「あの……。私はあの事件で心が荒み、性格が少々変わってしまったように自分では思います。ですので、お二人が好いてくださった私とは大分変わってしまったかもしれません。なのでこの期間に私の事を好きではなくなるかもしれませんよ。その時はちゃんと言ってくださいね」
するとカイナス王子は私の頭を撫でて微笑んだ。
「面白いな、アデルリアは。確かに変わった部分もあるような気もするが、気にする事はない。今のところオレの気持ちに変わりはないぞ」
「そうですよ、アデルリア。以前の私は貴方とあまり関わりがなく、殆ど見ていただけでした。その時に好きになった部分はきっかけに過ぎません。私はあの事件から短い時間ですが共に過ごし、前より好きになってきている。これからここで共に過ごし、もっと好きになるとワクワクしているのですよ」
二人とも私のこと過大評価し過ぎです。でも嬉しかった。私の事を受け入れてくれる人がいる事に安堵した。
「そこで提案なのですが、まずはそれぞれデートをしてみませんか?二人きりで親睦を深めて、私たちの事を色々と知ってもらいたいのです。そして少しでも今より好きになってもらいたい」
「それは良いですね。アデルリア、まずはオレとデートしよう」
「えっ」
「……提案したのは私なのですが。まあ良いでしょう。こちらには土地というハンデがありますし」
「あっ、あの……」
「よし、決まりだな。じゃあ明日デートとしよう」
こうして私はカイナス王子と、明日デートする事になった。