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厨二病、圧勝――!

 塚原つかはら向日葵ひまわりの戦闘を醒めた目で眺めながら、賽子だいすがポツリと呟いた。


「あれがミスルム国の剣客か」


 賽子の独り言に気付いて、レイも塚原と少女の姿を確認する。


「ハイランド国の塚原武という人物もかなり強かったが、彼を相手に一歩も退かないというのは称賛に価するね。それに、闇属性の魔術も使いこなしているようだ」

「爺さん相手に一歩も退いてないっつーか爺さんが孫みたいな年齢のやつ相手に本気を出しきれていないって可能性もあるぜ? まあ、俺もあの爺さんからすれば孫みたいな年齢だろうけどよ」


 賽子は前回の塚原との戦いを思い出す。あの時の塚原は今よりも俊敏に動いていたはずだ。

 戦いが長く続いて疲労しているのか、ただ手を抜いているだけなのかは今来たばかりの賽子には分からなかった。

 少し考え込んでいた賽子にレイが声を掛ける。


「そういう可能性もあるかもね。俺たちも他国も若すぎる兵士をほとんど使わないから迷いが出るかもしれない……それ以前に、あのスピードで動かれたら対処出来ないか。君はその辺どうなんだい?」

 同じ世界から来た者――それもほぼ同年代の少女を迷いなく倒せるか、という問いに、賽子は表情を全く変えずに答える。


「この程度のスピードなら十分ついていけるし、迷いもないさ。どうせ異世界なんだ。人を一人……いや、六人殺しても罪に問われるとは思えない。戻ってからの心配をする必要がないなら安心だ」


 レイは少し目を伏せて、苦笑した。


「その意思は味方として頼もしくはあるが、人間としてどうなのかとは思うけどね」


 だが、賽子はその意見を一笑に付しただけだった。


「ハッ、長年戦争をやっている人間から言われても何の説得力もねぇな。……それに、他の奴らも俺と似たような考えをしていたら、そこから先はやるかやられるかの地獄だぜ?」


 レイは自嘲の笑みを浮かべて、少し賽子と距離を置いた。

 じわじわと行軍し、塚原と少女に見つかったことを確認した後、レイが叫ぶ。


「我々はラスター軍である! これよりミスルム軍に宣戦布告する! そして、我々の後ろをついて来ているシュロス軍は、ハイランド軍との戦闘を所望のようだ! いざ、参る!」


 大音声を上げたレイを見ながら、賽子が苦笑いを見せた。


「擦り付け方が俺の想像の斜め上だったわ……てか、それ信じてくれるの?」


 論より証拠、と言わんばかりにレイが指差す方向を見ると、ハイランド軍が移動しているようだった。

 さらに、塚原と少女も二言三言語り合って完全に背を向け合った。

 両者ともに不意打ちをするような性格ではないのか真っ直ぐに自分達の軍の中枢に戻る。

 恐らく、突然の乱入者を相手にどう対応するかを参謀たちと協議しているのだろう。


 賽子は剣客召喚の影響か、かなり遠くの音まで聴きとれるようになっていたが、音の情報量が多すぎたため、情報収集を諦め、馬から降りた。

 馬に乗り続けていると、目立ってしまう。賽子自身の戦闘力は皆無と言っても良かったので、早めに歩兵たちの間に紛れることにした。


「後方はどうなっている?」

 レイの声に、すぐさま応答が返ってくる。


「未だに我々の後ろを追いかけて来ます! 混戦になるまでは退路の確保は困難かと!」


 流石に、すぐに想定通りに事が運ぶわけではなかった。

 賽子は、簡易的な机と椅子を持った兵士の近くを歩いていた。

 その近くには、さらにメアリや数人の魔術師も控えている。


「今回は相手に魔術師が多そうだからな、そっちの対応は任せる」

「はい!」


 賽子の言葉にメアリが元気よく返事をした。賽子と部屋で会話している時とは大違いのテンションである。


「ミスルム軍はプラモンド大陸七か国の中でも優秀な魔術師が多いことで有名なのですよ! 慧眼ですね、賽子さん!」


 メアリの言葉を聞き流しながら周囲を観察していると、ハイランド軍の先鋒がシュロス軍に肉薄している様子が見えた。

 どうやらレイの言葉通りになっているようだ。ミスルム軍とハイランド軍は共闘するつもりはないが、他の三国に囲まれるつもりもない。よって、囲みに来た連中を先に倒して仕切り直そう、という魂胆なのだろうと賽子は適当に推測した。


 そして、ハイランド軍とシュロス軍が接近しているということは、ラスター軍とミスルム軍も距離を縮めていることに他ならなかった。

 ハイランド軍とシュロス軍の戦闘に巻き込まれそうな場所を避けて、身を隠せそうな森林に机と椅子を配置する。護衛は目立たないように最小限に。しかし実力者を優先的に配備した。


「警備は任せた。サクッと相手の剣客を倒してくる」


 やはり笑顔を浮かべてアバターを出現させる。

 賽子のアバターが自軍の人垣を超えて、前線まで駆ける。

 まだ戦闘は始まっていなかったが、一触即発の空気が張りつめている。

 それを敢えて無視して、アバターは視界に捉えた少女目掛けて最短距離を走り出した。

 賽子の突撃が開戦の合図となった。


「クハハ! メイジ隊、焼き払え!」


 ゴスロリ服の少女がノリノリで叫ぶ。


 さらに、自分の左腕に暗黒の炎を宿し、

「我が手ずから葬ってくれてやろうではないか! 感謝するがいい!」

 と叫んでミスルム軍の魔術師たちの放った魔術の総量にも匹敵しそうな闇の塊を放つ。


 ちょこまかと他の魔術師の闇魔術を避けていた賽子のアバターに上空から弓矢による攻撃も降りかかってくる。

 弓矢が何本も刺さり、アバターがどんどん減速していく。


 数えきれないほどの傷を負いながらも、未だに倒れず前に進み続けていたアバターに、少女の放った闇が覆いかぶさり、爆風を巻き起こしながら消えていった。

 土煙が舞い上がる中、ミスリル軍の兵士たちが、賽子のアバターが居たであろう場所に向けて次々と得物を突き出していく。


 その結果を見届ける前に、ラスター軍の兵士が口々に「剣客様の仇」などと叫びながら突撃を開始した。



 一方、少し離れた場所でミスルム軍兵士に厳重に囲まれた少女は、馬の上に仁王立ちして高笑いを続けていた。


「フハハ! ラスター国の剣客、恐るに足らずッ! 闇の神に愛された我に掛かれば秒殺ッ! やっぱり我がナンバーワンッ!」


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