その頃のジジイと厨二病
今回は賽子以外の視点で話が進められる回です。次回からはまた賽子中心の視点に戻ります。
賽子たちがハイランド領に足を踏み入れる数時間前から、闇属性魔法を主力としたミスルム軍は、悲願のハイランド打倒を達成するために戦闘を仕掛け始めた。
ミスルム国の剣客、佐藤向日葵は、馬上に仁王立ちしながら進軍していた。数日にわたる行軍を経ても疲れを微塵も感じさせない。しかし、そのような姿勢に慣れていないからか、何度もバランスを崩している。その度に、召喚士のアイリスに怒られていた。
「向日葵、変な事をして戦う前から怪我をしてしまってはいけませんよ。普通に乗りなさい」
「マスター、我のことはマーセナリーと呼べと何度も言っただろう! それに、この程度のことで怪我をするほど我は愚かではない」
どう見ても馬鹿な行動なのでアイリスは頭を抱えていた。それに、向日葵の呼称についての謎のこだわりにもついていけない部分がある。
溜め息をついて、アイリスは無理矢理話題を変えて仕切り直すことにした。
「マーセナリー、これから我々ミスルムにとって最も重要とも言えるハイランドとの戦いが始まるのですよ。ここを乗り切れば他の国は我々の相手ではないのですから、ふざけた真似は今すぐやめて、闘いの準備に集中してください」
向日葵は、馬上から見下ろすようにして言葉を返す。
「案ずるな。これこそが我の精神統一のポーズよ……うわあっ!」
ドヤ顔で最後まで通そうとしていたのに、大きくバランスを崩して落馬した。向日葵は慌てて咳払いして、
「立って乗っても別に馬の速度が変わるわけでもないからな、これからは普通に乗ろう」
「分かればいいんですよ。我々はハイランドを最速で倒して一旦撤退。残りは消化試合のようなものですが堅実に進めて最終的な勝利を狙います。ここまでは昨日の夜にお話ししたので覚えていますよね?」
「うむ。宿命のライバルのような存在があると俄然燃えてくるな。ところで、邪魔が入ったらどうする?」
アイリスがすぐさま言葉を返す。
「我々とハイランド国は、これまで均等な戦力での戦いを行うという不文律の伝統を守っています。一見不合理に見えますが、この伝統のおかげで、他国の干渉を受けた場合、ハイランドに対して仕切り直しを求めることが出来るのです。ハイランドが干渉を受けた場合も同様に仕切り直しとなります」
「ほう。他国から干渉を受けた場合の流れはある程度分かった。だが、邪魔をして来た輩の扱いはどうする?」
「基本的に干渉を受けた側が処理して、もう片方は傍観・撤退ですね。出来るだけハイランドとは一対一で戦いますが、ハイランドが他国から干渉を受けたとしても、むやみに手出しすることもなければ、わざわざ助けることもありません」
「シンプルよな。分かりやすいことは良いことだ」
向日葵は軽く微笑んで馬に跨り直した。そのまま無言で遠くを眺める。
自分が今、異世界に召喚されているという状況を反芻しては悦に浸っている。人気アニメの真似をして正解だった。帰ったら友達にも自慢してやろう。
負ける気はしない。何故ならば、剣客召喚とやらのおかげで、この我がノートに書き散らした能力設定が反映されているのだから。二次創作に放り込めば読者から「メアリー・スー」と叩かれるであろうチートぶり。これで負ける道理などない。
それに加え、毎日考え続けた設定群なのだから、他の国で呼ばれてポッと出の能力を与えられた者どもとは熟練度が違う。
どうせ同じ人間が召喚されているのならば、体力勝負ではなく能力勝負になるのは必然。
この勝負、能力の習熟度こそが勝敗を分ける!
心の中で実況めいたことを叫んでいると、アイリスから声を掛けられた。
「向日葵、そろそろ戦闘です。その一撃で血路を切り拓いてください!」
両軍が衝突するまでには、まだそれなりの距離があるものの、向日葵は馬から降りて閉じたままの傘を頭上に掲げた。
向日葵が念じると、呼応するように傘の先に闇のエネルギーが収束していく。それに合わせて、ミスルム軍の先頭集団は巻き添えにならないように道を開け始めた。
十分にチャージが終わったところで、向日葵が傘を振り下ろす。
「闇の代弁者たる我が一撃、とくと味わうがいい――エンシェントダークフレイムッ!」
傘の先から一条の闇のビームが射出され、ハイランド軍に迫る。
ハイランド側は、魔術師たちが数多くの防御魔法を重ねているものの、じわじわと突破されつつあった。しかし、その間に塚原が到着し、手にした仕込み杖で闇を薙ぎ払う。
一息ついた塚原は、傍らにいた少年の頭に優しく手を乗せた。
「ふむ。ライト、お主の支援魔法があれば、このように魔法を剣で切ることも出来るのだな。的確な支援、感謝する」
ライトと呼ばれた少年が塚原に言葉を返す。
「ありがとうございます。でも、塚原さんをサポートするのが僕の仕事ですから当然のことをしたまでです」
二人がチラリとミスルム軍を見て、
「塚原さん、相手の剣客の相手をお願い出来ますか? 見かけによらず、かなりの実力者に見えますが……」
「まさか相手があのような小娘とは思わなんだ。しかし、これが戦だというのなら仕方あるまい。出来れば、殺さずに無力化したいものだが……行ってくる」
「はい。僕も出来るだけ支援するので頑張ってください!」
送り出された塚原が、瞬間移動能力を多用して向日葵との距離を恐ろしい勢いで詰めていく。
塚原の姿を視界に捉えた向日葵はアイリスの方を一瞥し、
「マスター、敵の剣客が来たぞ。あんな老いさらばえたジジイなど我の敵ではない。さあ、早く命令を」
アイリスは少し溜め息をついて、
「向日葵、どのような相手であっても油断しないでください。そのうえで、相手の剣客を打倒しなさい。よろしくお願いしますね」
「向日葵ではなく、マーセナリーと呼べと常々言っておるだろう? まあよい。そこで我が勝利を収める様子を目に焼き付けておけ。……行くぞ!」
叫びながら向日葵が戦場のど真ん中を突っ切っていく。
そして、二国の剣客が衝突し、爆風が戦場を吹き抜けていった。
鍔迫り合いをしている二人の均衡が一瞬にして崩れる。塚原が賽子との戦いでも多用していた瞬間移動能力が遺憾なく発揮されていた。
「ぬぅ……瞬間移動とは、また面妖な……しかし!」
向日葵は、塚原が出て来る位置に対して的確に剣を振り下ろしていく。
「ワシの動きについて来るとは想像以上の実力じゃな。これは少々厄介なことになったわい」
剣と魔法を組み合わせた向日葵の攻撃を、塚原が剣一本で捌き続ける。
「ええい、ちょこまかと動きおって……だが、我には分かる。貴様では我に勝てん」
「それはどういう意味かな?」
「そんなの決まっている。貴様には我を殺す気が微塵も感じられないからだ!」
「なるほど。敵ながら素晴らしい洞察力じゃのう。しかし、殺す気があるかどうかと、ワシがお前さんを倒せるかどうかについての関連性はほとんどないぞ」
問答を続ける中、塚原の鋭い一撃が向日葵に迫る。辛くも躱した向日葵だったが、バランスを崩してしまった。
そこを狙った追撃をどうにか打ち払いながら空中を回転しながら体勢を整え直す。
敢えてそれ以上の追撃をしなかった塚原が目を伏せて呟く。
「殺そうという気がなくとも、適切に使っていれば相手を殺せてしまう……それが武器の悲しいところよ。正直に言えば、ワシはお前さんのような小娘を殺そうと思えないのじゃ。戦争は悲しみしか生まないからのぅ」
「日和ってんじゃねぇぞ、老いぼれ!」
向日葵が剣戟と魔法を次々と繰り出したものの、塚原はそれら全てを最低限の動きで避ける。
今度は能力すら使っていない。向日葵のラッシュをある程度避けると、ようやく能力を使って距離を取った。
「もうお主の攻撃は大体読めるようになった。まだまだ剣の使い方が荒いのぅ。修行し直してくるがいい」
「フン、ならば戦いの中で成長していくまでだ!」
数時間戦っていると、塚原の視界に他国軍の姿が映った。
塚原が確認するような口調で切り出す。
「どうやら新たな勢力がここに到着したようじゃな。確か、ハイランドとミスルムの協約ではこのような場合、ワシらの勝負は仕切り直しになると聞いていたのじゃが……」
向日葵が悔しさを滲ませながら呟く。
「我もそう聞いておる。だが、マスターから撤退命令が来るまでは付き合ってもらうぞ!」
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