20話 晴天
「センラノミコト、そなたは封印刑を破り、あまつさえ人間界に逃げようとした。そこで力を取り戻して復讐する気だったと聞いた。何か間違いはあるか?」
センラノミコトは裁きの神の前で正座で座らされていた。横にはロウギノミコトも捕らえられていた。
お白州での裁判で、砂利の上に御座が敷かれていた。
「俺は、復讐しようだなんて思っちゃいないです! ただ自由になりたくて!」
センラノミコトはへりくだって減刑しようとしていた。
「マコトヒメ、今の言葉の真偽を教えてくれ」
「嘘が含まれています」
「裁きの場でさえ嘘をつくか……、反省の色はなし。封印の祠に百年の拘禁とする!」
「そ、そんな……っ!」
センラノミコトは嘘を暴かれて、そのまま判決を言い渡された。神の基準でも百年は長く、かなり厳しい刑罰だと言える。
センラノミコトは愕然とした。しかしこれ以上の発言は許されていないため、何も言うことが出来なかった。
「次いでロウギノミコト、そなたは自分の楽しみのためだけにセンラノミコトを解放して、人間に儀式をさせた。これに間違いはないか?」
「間違いありません……」
ロウギノミコトはつまらなさそうな表情で罪を認めた。嘘をついてこの場を引っ搔き回してもいいと思ったが、マコトヒメがいて嘘はすぐにばれてしまうため、無駄なことはしなかった。
「センラノミコトが起こす被害を想像出来なかった訳ではないだろう。大変悪質だと言える。そのため、ロウギノミコト、そなたは六十年、封印の祠で反省せい!」
二人の神に裁きが下された。センラノミコトとロウギノミコトはそのまま封印の祠まで歩かされて、中に監禁された。
この中でじっと反省するまで過ごすのだ。遊びの神であるロウギノミコトはもちろんのこと、センラノミコトにも辛いものだった。
そして儀式を行った人間たちにも裁きが下された。まずは記憶の神が今回の事件や神に関する記憶を消し去った。
神の存在を大勢の人間に知られたままでは、また良くない行いをするのが目に見えているからだ。神の存在は秘匿されるべきなのだ。
また儀式に関わった人間たちは、ロウギノミコトにそそのかされたとは言え、私利私欲のために神を降ろそうとしたのだ。
当分は神罰として不幸が訪れる。小さいものから大きなものまで様々な不幸に見舞われるだろう。
神の不興を買うのは恐ろしいことなのだ。
※
カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。その陽射しが顔に当たり、夜露は目を覚ました。
「うん……、ここは?」
夜露が寝ていたのは舞の部屋だった。
「あ、起きた! おはよう、夜露!」
「舞さん?」
「火鷹もいるよ!」
「え!? 火鷹くんも!?」
火鷹の名を聞いた夜露は飛び起きた。寝起きの締まりのない顔を見られたくないのだ。
部屋を見回すと火鷹はテーブルに突っ伏して寝ていた。
「ほら、火鷹、起きて。夜露が目を覚ましたよ」
「あ、あぁ」
火鷹は寝ぼけていた。そして普段より柔らかい雰囲気で夜露に微笑んだ。
「良かった……」
火鷹は安心していた。夜露が無事だとわかったからだ。
一方で夜露は火鷹のことを直視出来なかった。
「火鷹くん、その、あの……」
夜露は火鷹にキスされたことを思い出していた。それは緊急のためだとは言え、とても甘美なものだった。
夜露はキスのことを思い出して顔を真っ赤にした。
(私のファーストキス、火鷹くんにあげちゃった!)
もじもじとする夜露に火鷹は頭を下げた。
「ごめん、夜露! 緊急だったとはいえ、キスしちゃって!」
「ううん! 全然いいの! むしろ嬉しかったと言うか……」
夜露と火鷹は照れてお互いに顔を合わせられていなかった。
舞はそれを不機嫌そうに眺めていた。すると舞はおもむろに火鷹に近づいた。
「舞?」
舞は火鷹の顔を掴むと一気に距離をゼロにした。唇がくっつき、舞の舌が火鷹の口内
に侵入した。
「むぅ、舞!?」
動揺して腕をわたわたとする火鷹と、唖然とする夜露。夜露と火鷹の反応などお構いなしに舞はディープキスを続けた。
そしてキスをたっぷりと堪能してから、舞はようやく唇を離した。舞と火鷹の間には唾液の橋が架かっていた。
「あたしのファーストキスもあげたから!」
舞は夜露だけが火鷹とキスしたことに嫉妬していたのだ。
「火鷹のファーストキスは夜露に譲るけど、他は絶対に譲らないから!」
舞は夜露に宣戦布告した。
「わ、私も火鷹くんの初めて全部貰うから!」
夜露は怖気づかずに言い返した。火鷹はそんなやりとりを呆然と見ていた。
しばしの間、舞と夜露は睨み合った。しかし空気はすぐに柔らかいものになった。
「ま、今はそれは置いといて。これからのことを話そっか」
舞は夜露の前に座った。
「夜露はどこまで覚えてる?」
「えっと、家に帰ろうとして、それから体を何かに乗っ取られて舞さんと火鷹くんと戦わされて、それで火鷹くんにキスされたことは覚えてる」
「あたしの太陽を見たのは覚えてる?」
「うん、私を暖かく照らしてくれたのを覚えてるよ」
「それじゃあ、全部説明するね。あたしのこと。今回何が起こったのか」
舞は夜露に自分が女神であること、そしてセンラノミコトという悪神が夜露のことを依代に復活しようとしたことを説明した。
さらにそんな夜露を舞と火鷹で助けたことも話した。
話を聞いた夜露はすぐには信じられなかった。神の存在をいきなり信じろと言われても無理な話なのだ。
「本当に舞さんは女神なの? あれを見た後だけど、まだ夢としか思えなくて……」
「なら変身を見せた方が早いね」
そう言うと舞は光の粒子を纏っていつもの和服に変身した。
「すごい綺麗……」
「でしょ? 信じる気になった?」
「う、うん」
夜露は目の前で変身されて、その不可思議さから信じざるを得なかった。
「火鷹にも見せたけど、やっぱりこれが一番手っ取り早いね」
「火鷹くんも見たことあるの?」
「そりゃじっくり、あたしの裸を舐めるように見てた」
「火鷹くん……?」
「あのときは舞がちゃんと見てろって言ったから!」
火鷹は釈明した。しかし火鷹は今でも舞の裸が脳裏に刻まれていた。
「私、二人に助けられたんだね。ごめんね、迷惑かけて……」
「むしろあたしがすぐに気付けなかったのが原因だし! そんな落ち込まないで!」
「夜露が無事なら俺も命を懸けた甲斐があったよ」
「ありがとう、舞さん、火鷹くん」
夜露は二人に心から感謝した。
「そうだ、これからはしばらくこの剝ぎの妙薬を飲んでもらうから。センラの影響が残ってたら嫌だしね」
「うん、わかった」
そして夜露と火鷹はそれぞれ家に帰ることになった。
帰り際、舞は夜露に話し掛けた。
「これでお互い隠し事はなしだからね。正々堂々勝負できるね」
「そうだね。私、負けないから」
「あたしも。火鷹のこと大好きだから」
その後、朝帰りした夜露と火鷹は親からこっぴどく叱られた。しかしその顔は晴れやかだった。
そして学園祭の片付けをするために遅めに登校した。
暑い夏の陽射しが三人を照らしていた。
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