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1話 隣の席の女神様 ★

 春風に教室の喧騒が混ざっている。まだ少し肌寒い外とは違い、教室の中は熱気が籠っていた。


 教室には新入生が集められていた。今日は入学式で、式が始まる前に指定の教室で待たされているのだ。


 そこではすでに友達作りが始まっていた。中学が同じだった者、席が近くだった者で話をしていた。


 その小さなまとまりはどんどん大きくなって、一つのグループになっていた。


 杉菜火鷹も近くの男子生徒と話を弾ませて友達になっていた。


「火鷹って言うのか! よろしくな!」


「よろしく」


「その赤メッシュカッコいいな!」


「ありがとう。高校に入って髪色を自由に出来るって聞いて、染めてきたんだ」


「いいねー! 気合入っているー!」


 火鷹は高校への進学を機に、黒髪に赤のメッシュを入れたのだ。好きなバンドのボーカルの真似だった。火鷹はこの髪を気に入っていた。


 そんな火鷹の元に一人の女子が近づいてきた。それはクラスの中で、いや学校の中でも一二を争うレベルの美少女、秋扇夜露だった。


 夜露は濡羽色の美しい黒髪を長く伸ばした、清楚な美少女だ。そして夜露のスタイルは目を見張るものがあった。


 体の凹凸がはっきりしていて、まるでグラビアアイドルのようだった。制服の胸元は大きく持ち上げられていて、山になっていた。


 そんな夜露は火鷹に話し掛けた。


「火鷹くん、中学の卒業式ぶりだね。高校でもよろしくね」


「あぁ、よろしく」


「一緒のクラスで嬉しい。火鷹くんがいるおかげで安心できるもの」


「俺も夜露と一緒で嬉しいよ」


 火鷹は夜露と同じ中学から進学していた。


「その髪、とってもカッコいいね! 『Burn it All』のボーカルみたいで!」


「おぉ! わかってくれるか! そうだろ! 俺もかなり気に入ってるんだよ!」


 夜露は火鷹の髪色がバンドのボーカルの真似をしているとすぐに理解した。それが火鷹は嬉しかった。


「火鷹くん、とってもカッコいい」


「そうだろ? この髪のおかげで自信が湧いてくるんだ」


 夜露は火鷹をうっとりと見つめていた。その視線の意味に火鷹は気付いていない。


「そうだ、連絡先交換しようよ。スマホ買ってもらったんだ」


「いいぞ、交換しよう」


 夜露と火鷹はスマホを取り出した。火鷹のスマホの背面にはバンドのステッカーが貼ってあった。夜露のスマホはシンプルなカバーに覆われていた。


「これでいつでも連絡できるね!」


「あぁ、そうだな」


 夜露は火鷹の連絡先の入ったスマホを大切そうに大きな胸で抱きかかえた。


「それじゃあ、またね」


「また」


 そして夜露は女子グループに、火鷹は男子グループに戻っていった。


 火鷹が男子グループに戻ると、他の男子は羨ましそうな顔をしていた。


「火鷹、夜露さんと友達だったのか!? いいなぁー。俺もあんなかわいい女子と友達になりたいぜ!」


「火鷹はどうやって夜露さんと仲良くなったんだ?」


「中学のとき、ちょっとあってな」


「ふーん、昔からの友達なのか。なぁ俺のこと夜露さんに紹介してくれよ」


「普通に話し掛ければ友達になってくれると思うぞ」


「いきなり自分から話し掛けるのはハードルが高いって……」


 夜露はすでに高嶺の花のような存在に思われていた。綺麗で可愛らしいため、自分たちが触れたら汚してしまいそうだと感じていたのだ。


 男子が火鷹から夜露の情報を聞き出していると、教室の戸が勢いよく開いた。遅れて教室に入って来たのは女子だった。


「おはよーう!」


 教室中に響く大きな声だった。とても可愛らしい声だった。


 クラスの視線が入り口に集まる。そこには大きな声とは対照的な、小さな女子がいた。


 さっそく着崩した制服に、太もものほとんどが見えている短いスカート。そして圧倒的なまでに可愛らしい顔。


 陽の光を閉じ込めたように輝いているツインテールに結ばれた白金の髪、意志の強さを感じる大きな瞳、その瞳に引かれたアイラインは妖艶だった。


 まつげは影が落ちるほど長くバサバサで、鼻梁はスッと通っていて、唇は小さくピンク色で潤んでいた。


(すっごい可愛いギャルだ!)


 クラスの意思が一致した。


 そのギャルは天真爛漫な笑顔を浮かべて教室に入ってきた。そしてすれ違うクラスメイト一人ひとりに挨拶をしていった。


 人懐っこい笑顔でどんどんクラスのみんなを懐柔していった。


 そしてそのギャルは火鷹の隣の席に座った。


「おはよう! これからよろしく! あたしは高原舞!」


「俺は杉菜火鷹。よろしく」


 火鷹への挨拶を済ませると、舞は女子グループに突撃していった。


「ねえ、あたしも混ぜてー!」


 舞は臆せずに女子グループに入っていき、すぐに輪に混ざった。そしてすぐにそのグループは舞を中心に話が回り始めた。


「舞ちゃん可愛いねー! それどこのリップ?」


「どこの中学出身なの? 家はどの辺?」


「スカート短すぎじゃない? 攻めすぎー!」


 舞はあっという間に女子の中で人気者になった。


 男子たちも会話をしながら舞の様子をうかがっていた。


「うわ、パンツ見えそう……」


「めっちゃ可愛いな。夜露さんと同じくらい可愛い……」


「あんな彼女がいたら、幸せだろうなー」


 男子たちは天真爛漫な舞に魅了されていた。


 そうこうしていると担任となる教師が教室に入ってきて着席を促した。


 そして体育館に移動して入学式が行われた。


 火鷹のクラスが入場すると、視線が集まった。他のクラスの生徒も舞と夜露に目を引かれていたのだ。


 見ずにはいられないほどに、二人は可愛らしかった。


 そして入学式は終わって、ガイダンスを受けてその日は下校になった。


 舞と夜露のいる女子グループはそのまま街に繰り出して遊ぶようだった。火鷹たち男子グループはカラオケに行って騒ぎ倒すのだった。



          ※



 そして入学から一週間が経った。授業も始まり、高校のリズムに慣れ始めた頃。火鷹は舞と仲良くなっていた。


 キッカケは舞が教科書を忘れたことだった。舞はかなり適当な性格で、教科書や資料集などをよく忘れていた。


 そのたびに火鷹が机を寄せて見せていた。


「いやー、ごめんね!」


「別にいいよ、このくらい」


「今度なんかお詫びするから!」


「気にしなくていいよ、舞さん」


「舞でいいよ!」


 そして火鷹は舞のことを呼び捨てるようになった。舞は距離感が近いため、人のパーソナルスペースにすぐに入り込む。そのためすぐに仲良くなれるのだ。


 さらに二人の音楽の趣味が同じことも仲良くなるキッカケの一つだった。


 あるとき火鷹がイヤホンで音楽を聞いていると、舞が勝手に片方のイヤホンを取って聞いたのだ。


「あー、あたしの好きなバンドだ! 『Burn it All』でしょ!? 火鷹も好きなの!?」


「結構好きだ」


「えー、嬉しい! 女子グループだとこのバンド知っている子いなくてさー。もしかして火鷹の髪色って、ボーカルの真似?」


「そうだ」


「めっちゃ好きじゃん! いいね! めっちゃカッコいいよ! 似合ってる!」


 舞のテンションは爆上げだった。火鷹も同じバンドが好きな人が近くにいて嬉しくなっていた。


「ね、一番好きな曲なに?」


「そうだな……」


 それから舞と火鷹はより一緒に話すようになった。そして舞は女子より火鷹と一緒に話すようになっていた。


 話のネタが尽きずに、楽しく話せるからだ。


 火鷹も美少女の舞と一緒に過ごすのは悪い気がしなかった。二人は昼食も一緒に食べるようになっていた。


 そんな二人の関係はクラスメイトから見ても親密に見えた。


「なぁ、火鷹って舞ちゃんと付き合ってんの?」


「そんなんじゃない。趣味が合ってるんだ」


「本当にそれだけか? 抜け駆けして付き合ってるんじゃないよな?」


「ただの友達だよ」


「そうか、なら俺らにもワンチャンあるよな! 火鷹、舞ちゃんの好きなもの教えてくれよ!」


「舞が好きなのはこのバンドだけど……」


「おし、なら俺も聞いてみるぜ!」


 男子たちは舞と話すキッカケを得るために音楽を聞き始めた。火鷹としても自分の好きな音楽を聞いてくれる人が増えるのは嬉しかった。


 それが舞に近づく口実だとしてもだ。



          ※



そしてある日の放課後、火鷹は街の中心のCDショップに来ていた。好きなバンドの新シングルが発売されたのだ。


 今はサブスクでも聞けるが、火鷹は現物でも持っておきたかった。収集して飾るのが楽しいからだ。


 ほくほく顔で店を出る火鷹。


(明日にでも舞に貸すか)


 火鷹は学校に持っていって舞に貸して、感想を聞きたかった。新曲の感想を言い合えるのは火鷹にとってかなり嬉しいことだった。


 スキップしそうなほどの軽い足取りで歩いていると、見知った顔を見つけた。


 それは舞だった。


 舞は制服を着た同年代の男たちに囲まれていた。火鷹は嫌な予感がしたので近づいた。


 すると舞と男たちの会話が聞こえてきた。


「なぁー、いいだろ? 一緒に遊ぼうぜー?」


「だからー、忙しいから無理だって!」


「そう言わずにさー、絶対楽しいからさー」


「もう! ウザいな!」


 舞はナンパされていた。しかもかなりしつこく。周りの人も心配そうに見ていた。


 舞は眉を吊り上げて、目を細めてうんざりとしていた。そんな舞の態度が男たちには見えていないようだった。


 男たちの目は性欲で濁っており、見つけた極上の獲物を逃がさないつもりだった。


「さぁ、行こうぜー」


 男の一人が舞に向かって手を伸ばす。舞を無理やり連れて行こうとしているのだ。しかしその手が舞を掴むことはなかった。


 火鷹が間に入り、その男の腕を掴んで止めたからだ。


「おい、やめろよ。嫌がってるだろ」


 ドスの利いた声で威圧する火鷹。


「何? 誰、お前?」


 男たちは急に現れた火鷹のことをヘラヘラと笑った。


「火鷹!」


 舞は火鷹の顔を見るとパッと表情を明るくした。そしてすぐに火鷹の側に駆け寄った。


「この子の彼氏?」


「友達だ」


「じゃあ邪魔すんなよ。お前には関係ねぇからさ」


 男たちは火鷹を無視して舞に近づこうとする。火鷹はその間に入って近づかせない。


「さっさと失せろ」


 火鷹は忠告する。


「彼氏気取ってカッコつけてんじゃねぇよ!」


 その態度にイライラした男の一人が火鷹の顔を殴った。拳は振り抜かれて、火鷹はすこしふらついた。


「火鷹!? 大丈夫!?」


 火鷹は再び男たちを見据えた。決して退かないという強い意志がうかがえた。


 そんな火鷹に男たちは気圧された。


「あ、あんま調子乗んなよ!」


 引けなくなった男たちは火鷹をボコボコにしようと拳を振り上げた。


 そのとき、男の一人に鋭い蹴りが刺さった。それは舞が放ったハイキックだった。固い靴が顔面にめり込み、男は倒れた。


「ぐわっ!?」


 足を振り上げたため、短いスカートからショーツが丸見えになっていた。しかし舞は気にしていなかった。


「こっちが大人しくしとけば、調子に乗ってさー。ほんとダサいな! ちょっとお仕置きしてやるよ!」


「あぁ!? このクソアマ! 優しくしてるうちに来ればよかったのによぉ! 泣いて謝っても許さねぇからな!」


 舞の発言に男たちは激しく怒った。


「舞!? 逃げよう!」


「大丈夫、任せて火鷹」


 火鷹はこの場から逃げることを提案した。しかしそれを舞は断った。


 舞は自信満々な様子だった。舞は足でリズムを取り出した。


 そして舞は男の一人に飛び込んだ。いきなり近づいてきた舞に対応出来ずに、男は舞の掌底を頭に食らった。


 勢いの乗った掌底が当たり、男が大きく揺らぐ。


 そこから舞は一回転してさらにハイキックをお見舞いした。流れるような動作で、男は防ぐことが出来なかった。


 男の一人はアスファルトに倒れた。


「な……っ!?」


 動揺するナンパ男たち。


「どうしたの? 帰る気になった?」


「な、舐めやがって!」


 舞に挑発されて男たちは一斉に襲い掛かった。しかし舞は流れる水のように捕らえることが出来なかった。


 そして隙を見て男たちに反撃を加えていった。


 男たちは舞に翻弄されて、一人また一人と倒れていった。そして最後の一人になった。


 舞は男の股間に渾身の蹴りをいれた。痛みで悶絶してその場に膝を付く男。舞はそいつにトドメの蹴りを食らわせて、男たち全員を倒した。


「ふぅ、スッキリした!」


「舞、すごいな……」


 火鷹は目の前で起こった蹂躙劇に呆気に取られていた。


 一方で舞はまるで体育の授業が終わった後のように晴れ晴れとした表情をしていた。


「火鷹、怪我は大丈夫?」


「あぁ、何とか」


「いや、結構腫れてるじゃん! すぐ治さなきゃ!」


 火鷹の殴られた頬は腫れてきていた。内出血もしていて青痣も出来ていた。


「うちに来て! すぐに治せるから!」


 舞は火鷹の手を取ってそのまま駆け出した。火鷹は舞に手を引かれるままに進んで行った。



          ※



 舞に連れられて着いたのは、大きなマンションの前だった。


「舞、もしかして一人暮らし?」


「ん、そうだよ。何、緊張してんの?」


「少し……」


「ふふ、さぁ入って」


 舞は蠱惑的な笑みを浮かべていた。そして舞は火鷹を家に招き入れた。


(女子の部屋に入ってしまった……。それも一人暮らしの)


 火鷹は女子の部屋に入るのが初めてだった。そのため少し緊張していた。走って来たこともあり少し汗をかいていた。


 この汗は緊張しているのも原因の一つだった。


「お邪魔します……」


 リビングに入ると、とてもいい香りがした。それは女子特有の甘い匂いだった。香水や芳香剤とも違う、本能に訴えかけてくる匂いだった。


 リビングは散らかっていた。物が散乱していて、床に物が溢れていた。読みかけの雑誌やお菓子の空箱、空いたペットボトルなど様々だった。


(これは男友達の部屋と変わらないな)


 火鷹の緊張が少しだけほぐれた。


「適当に座ってて―」


 舞はクッションを置くと、そこに座るように促した。火鷹が座ると、舞は棚を開けて探し物を始めた。


「どこにやったっけなー」


 舞は四つん這いになって、棚の低いところを探した。すると火鷹にお尻を向ける体勢になった。


 舞のスカートは非常に短いので、ショーツがチラチラと見えてしまっていた。


「うっ、おい、舞……」


「んー、何?」


「いや、何でもない……」


 火鷹は舞のショーツが見えていることを報告しようとしたが、黙っていることにした。指摘して変態だと思われたくなかったからだ。


 火鷹はせめて舞のショーツを見ないように、部屋の中に目を向けた。


 すると部屋には洗濯物が干してあり、そこには派手な色の下着もあった。紫やピンク、黒に青など色とりどりだった。


 火鷹はすぐに目を逸らして下を向いた。


(この部屋は刺激が強すぎる……)


 火鷹は気持ちを落ち着かせようと深呼吸した。すると一息ごとに舞の部屋の良い香りが肺を満たした。


 そのせいで一向に落ち着くことが出来なかった。


「あー! あった!」


 火鷹が悶々としていると、舞はようやく探し物を見つけ出した。それは棚の奥深くから見つかった。


 舞は小さな陶器の壺を持っていた。綺麗な桜の絵が描かれていて、一目で高価だとわかるものだった。


 それは女子高生の部屋には不釣り合いなものだった。可愛らしさやきらびやかさのない渋いものだった。


「何だ、それ?」


「これはね、御神水! これを塗ればすぐに怪我も治るよ!」


「なんでそんなものが……」


 火鷹は御神水が何かはわからなかった。そして怪我がすぐに治ると言うそれを舞が何故持っているのか気になった。


 舞はタオルに御神水を染み込ませると、それを火鷹の頬に当てた。


「うっ」


 少し染みたが火鷹は我慢した。


「あれ……」


 御神水を染み込ませたタオルを当てていると、はっきりと痛みが引いていくのが火鷹にはわかった。


「すごい! 痛みが消えていく!」


「ふふーん! すごいでしょ!」


 舞は誇らしげな顔をしていた。そしてタオルを取ると、すっかり腫れが治っていた。舞は手鏡で怪我の具合を見せてくれた。


 火鷹の殴られた頬は元に戻っていた。青痣もなくなり、腫れもない。それどころか肌の質も改善している気がした。


「ありがとう、舞」


「どういたしまして!」


「こんな凄いもの、貴重なんじゃないか? 俺に使ってよかったのか?」


「全然大丈夫! 頼めばすぐに持ってきてもらえるから気にしないで!」


「そうなのか……」


 火鷹は御神水の出処が気になった。


「どうして舞はこんなものを持ってるんだ?」


「やっぱり気になるよね! 助けてくれた火鷹にお礼として、あたしの秘密を教えてあげる!」


 舞は立ち上がって腰に手を当てて大げさに言った。


「実はあたし、女神なの!」


 舞と火鷹の間に沈黙が流れた。静寂の中、舞の鼻息だけが聞こえた。


 その沈黙を破ったのは火鷹だった。


「ふっ、そうなんだ」


「あー! 信じてないでしょ!」


 火鷹は微笑んで舞を見た。それはまるで年少の子どもを見るような目だった。


「御神水を使ったのに信じてないの!?」


「だって薬でしょ?」


「神の御業の籠った薬なんだよ!」


「そうなんだ」


「あー、またその目!」


 火鷹は舞の言うことを全く信じていなかった。


「もー、じゃあしょうがないなー。とっておきを見せてあげる!」


 火鷹は何が見られるのか期待した。すると舞の体に光の粒子が纏わり始めた。


「な、何だ!?」


「怖がらないで、大丈夫だから」


 光の粒子は舞の制服を分解して発生していた。そして徐々に制服がなくなっていき、布面積が減って、舞の裸体が晒された。


「ちょ、ちょっと、ストップ!」


「ダメ、ちゃんと見て!」


 火鷹は恥ずかしさから目を逸らそうとした。しかし舞はそれを制止した。


「見てて」


 火鷹は舞の言葉を聞き入れて目を逸らさずに、瞬きもせずに舞の裸を見た。


 舞の裸はとても綺麗だった。肌は染み一つなく、白く透き通っていた。火鷹は舞の小ぶりな形のいい胸も、その頂点のピンク色も目に焼き付けた。


 さらに舞の引き締まった尻に、片手で掴めそうな細い腰も火鷹の脳裏に焼き付いた。


 そして舞の周りの光の粒子は徐々に形を取っていった。それは白い和服に姿を変えた。


 大胆に露出した肩は花魁のようだった。さらに袖は長く、舞が動かすとひらひらと動いて綺麗だった。


 足元はミニスカのように短く、舞の眩しい太ももがほとんど見えていた。


 そしていつの間にか舞の髪型も変わっており、いつものツインテールではなく、綺麗に結われていた。


 火鷹の目の前には神々しいまでに美しい舞が立っていた。


「どう、綺麗でしょ?」


 火鷹は無言で頷いた。


「あたしが女神だって信じる?」


「あ、あぁ」


「ふふ、鼻血出てるよ」


 舞はティッシュを火鷹の鼻に当てた。


「あたしのあまりの美しさに感動したでしょ!」


 火鷹は舞の神々しいまでの美しさもそうだが、それよりも変身中に見てしまった舞の裸の方が記憶に残っていた。


 舞の裸を思い出すたびに火鷹は顔が赤くなった。


「本当に神様なんだな……」


「そうよ、踊りの女神なの! 美しいでしょ! 可愛いでしょ!」


「すごい綺麗だ、舞」


「嬉しい!」


 舞は火鷹に褒められて飛び跳ねた。喜びを全身で表現しているのだ。


「どうして俺に神様だって明かしてくれたんだ?」


「言ったでしょ、助けてくれたお礼! それに火鷹のことがめっちゃ好きになったから!」


 火鷹は舞に好きと言われて思わず顔を逸らした。照れて恥ずかしくなって顔を直視出来なかったのだ。


 舞ほどの美少女に言われたら誰でもそうなるだろう。


「あんな漢気に溢れた人は久々に見た! 高天原でも最近じゃ弱腰の男しかいなくて、本当につまらなかったの! でも火鷹は違った! 自分が傷つくこともいとわずに守ってくれた! もう本当に素敵!」


 舞のテンションはどんどん上がっていく。


「それに趣味も合うし、火鷹は優しいし、とってもカッコいい!」


「ど、どうも」


 舞からの称賛に火鷹はむず痒くなっていた。ここまで手放しに称賛されたことが人生でなかったからだ。


「そんな火鷹に全てを教えたくなったの!」


 舞は火鷹の手を取った。


「これからもよろしくね、火鷹!」


「よ、よろしく」



          ※



 舞は女神の姿から元の制服に戻った。また裸になったが、再び見るのも忍びないと思った火鷹は目を逸らした。


「別に見てもいいのにー」


「さ、さすがに女子の裸を見るのは、マズいだろ……」


「さっきも見たじゃん!」


「それは、不可抗力というか……」


 そして制服に戻った舞はテーブルを挟んで火鷹の正面に座った。


「舞は神様なのに、どうして人間の世界に来たんだ?」


「あたしたちのしきたり。人間の世界で人の機微を学んで、修行するの」


 舞のように若い神は人の機微を学ぶことで、調停する世界のことを知るのだ。


「それで、ただ人間界で過ごすのも退屈だから学生になってみようと思ったの」


「結構自由なんだな、神様って」


「そう、人間界で遊ぶ神も多いよ」


「神様ってそんなにたくさん人間界にいるのか?」


「たくさんいるよ。この辺だけでも十柱ぐらいいるし」


「多いな」


 修行中の舞のような若い神の他に、バカンスで遊びに来ている神もいるのだ。


「ていうか、舞は俺に正体を明かしても大丈夫なのか?」


「そんなに怒られることでもないから大丈夫。正体を明かしてもお咎めはないし。それに火鷹はあたしが神だって言いふらすような人じゃないでしょ?」


「もちろん」


「やっぱり! 信頼してよかった!」


 火鷹は舞の信頼に足る人物だった。


「それじゃあ、俺そろそろ帰るよ。神様とはいえ女子の部屋に長居するのも悪いから」


「えぇー、そんなことないのに」


「明日も学校あるし、そこで話そう」


「わかったー」


 そして火鷹は舞の部屋から帰っていった。舞はベランダから帰っていく火鷹の背中を見つめていた。


(最初は気の合う友達だったけど……)


 舞は火鷹とは友達でいようと思っていた。火鷹が隣の席にいたのも偶然で、人間界で好きになった音楽が一緒だったのも偶然だった。


(火鷹はとっても頼りがいがあって……)


 舞は適当で忘れ物が多い。そんな舞を助けてくれる火鷹の存在はありがたかった。


 舞にとって火鷹は良い友達だった。


(他の男子と違って下心を感じないし……)


 火鷹は舞に下卑た視線を向けなかった。性欲に振り回されない高潔さがあったのだ。


 趣味の合う最初の友達の火鷹という存在は、舞にとって特別だったのかもしれない。恋愛の駆け引きもなく、対等に話せる火鷹はとても貴重な存在だった。


 人間界で舞が好きになった音楽はメジャーなものではなかった。そのため話せる人がいなかった。


 火鷹がその音楽が好きだと知ったときは、嬉しくて飛び上がるほどだった。


(ただの隣の席の友達じゃなかったんだ……)


 舞と火鷹は運命的なまでに相性が良かった。舞がこれまで高天原で過ごした中でも、こんなに相性のいい神はいなかった。


 そして今日、火鷹に助けられたことで、舞の中で火鷹という存在が大きくなった。


(ピンチになったあたしを助けてくれるなんて、絶対もう偶然じゃない……)


 火鷹の漢気を感じる行動、そして神である舞を受け入れてくれたこと。そのどちらもが舞にとって嬉しかった。


 舞の中で、火鷹に対して心の中で燻っていたものが激しく燃え上がっていた。


 舞の情熱に火が灯ったのだ。


(もう誰もあたしを止められない。火鷹をあたしのものにする……!)


 神とは元来独占欲が強く、執着の強い存在なのだ。それを火鷹はまだ知らない。


 舞は火鷹をロックオンして放さなかった。


「好きだよ、火鷹」


 恋を知った若い女神は愛しの人間のことを想った。吐息は熱を帯びていた。

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