お互いゆっくり、勉強していきましょ
「じゃ、行ってきます!パパ、ママ、一緒に暮らすのは、また6年後ね!」
「ああ、気をつけてな。たまに手紙書いてくれよ」
「ルームメイトと仲良くね」
俺たちはアカデミーの制服を着て、入学式へ向かうマリルを見送る。
父兄の参加、という文化はこっちにないらしく、生徒と学校関係者だけなんだとか。
寂しいもんだね。
俺はすっかり父親の目になってマリルを見て、泣きそうになってしまう。
マゴリアもちょっと涙ぐんでいた。
「これが父さんと母さんの気持ちだったのかしらね」
ヘイネル村にいるという両親を思い出したのか、マゴリアは言う。
「そうだ、ヘイネル村へ挨拶に行かないとな……。や、その前に4本目の納品か」
「そうね」
俺たちはマリルを見送りに自宅のある東区域から王都ベルロンドの北区域まで来ていたが、ついでにそのまま王城のある中央区域まで進むことにした。
その途中でマゴリアは言い出した。
「4本目で一旦、伝説武器の納品は、お終いにしようと思うの。5本目は……ふふ、マリルにあげちゃったしね」
「そっか。……でもまさか、5本目の武器として『伝説の杖』を……しかも、王宮じゃなくマリルのために作るとは思わなかったよ」
そう、マリルが入学するタイミングと5本目の精製、更に4本目の剣の納品は偶然にも同じスケジュールで組んでいた。
ならば、とマゴリアは一念発起し、全魔力を『5本目』に注ぎ込み、なんとマリルのための『伝説の杖』を作ってあげたのだった。
因みに、俺がイメージしたのは天使の羽がついた可愛い魔法少女っぽい杖。
性能的には、聖なる加護を持つ『天賢の杖』とかいう、天使だか賢者だかの名前を冠する伝説の武器を模したもの、らしい。
因みに、伝説武器の納品を辞めようと言い出したのにはこんな背景がある。
「これ以上『伝説の武器』による収入が莫大になっても税金とか『お得意様との付き合い』を続ける上でも色々面倒だし……それに何より、あたしの幻想具現化魔法の異常な精度に王宮から目をつけられて変に勘繰られたり、スカウトされたりすると面倒でしょ」
「そうだなあ。その危惧は、正直ずっと俺もあったよ」
そう、余りにも秀でた能力にはあらゆる悪意が付きまとうものである。
先日はマゴリアの才能を見出してくれた恩師であるディクシオさんが水際で止めてくれたから助かったが。
ディクシオさんのあのスカウトはつまり、王宮に対するポーズだったのだろう。
王宮からの命令に正面から逆らうわけにもいかず、旧知の仲を利用してマゴリアに近付いたのも、悪意じゃなくマゴリアを守るためだったというわけだ。
ホント、役者が違うよな、あの人。
ま、そんなわけだから、『伝説武器についてはこれが限界です』という素振りを見せて終わらせよう、というのがマゴリアの意見だった。
マゴリアと離れたくない俺も、同意見だった。
「過ぎたるは及ばざるが如し……ってやつだな」
「ロクに扱えなかった魔法なのに、アンタが来てから見違えちゃったからね。アカデミー時代の友達、シェリルくらいしかいなかったから、外には漏れてないと思うけど」
マゴリアが最後の『烈風の剣』を王宮へ納品し、魔法具管理局から帰ろうと俺を促した時だった。
中庭に見知った長身の魔道士がいた。その精悍で知的な顔つき、落ち着いた様子は……。
「や、マゴリア。元気かい?オスオミ君も」
「あ、ディクシオさん!」
神出鬼没だなこの人……。
「ども、先日はありがとうございます」
俺はビビりつつも、礼を言っておく。
「んん?僕がなにかしたかい?」
そらとぼけてディクシオさんが言った。
マゴリアをかばってくれたくせに。全く、謙遜なんだか人が悪いんだか。
俺は苦笑し、まぁいいや、と思って、
「いや、何でもないっす」
と言った。
そして、ほんの少しだけ逡巡するようにして、マゴリアは言った。
「―――ディクシオさん。あたし、オスオミと結婚するんです」
俺はギョッとした。
まさか、ディクシオさんにそれを明かすとは思わなかったからだ。
別に不都合ではないが……既婚者とはいえ、かつての想い人にそれを言うのか。
いや……だからこそ、なのか?想いを、完全に吹っ切るため?
すると、ディクシオさんは心から嬉しそうに、
「おお、それはおめでとう。なにか祝いの品を考えなきゃね」
と言った。しかしマゴリアは何を要求するでもなく……
「いえ、大丈夫です。ディクシオさん。貴方からの贈り物こそが、あたしとオスオミを結びつけてくれる、何よりの宝物でした。
幻想具現化魔法……これがなければ、あたしとオスオミの絆は、きっと成立していませんでしたから」
そう言って、マゴリアはディクシオさんに深々と礼をする。
「本当に、長い間お世話になりました」
「……頭を上げなさい、マゴリア。本当によく頑張ったね」
にっこりと微笑むディクシオさんの顔は、なんだか絵に描いたような父親のようだな、と思った。
父親、か。
俺にそう呼べる人など、いなかったが。
そして、マゴリアはディクシオさんに手を振り別れを告げる。
「……それじゃ、またいつか!」
「ああ。……オスオミ君、マゴリアとどうか末永く、お幸せにね」
そんな様子を見た俺は、色んな意味を込めて、深く深く礼をした。
「はい。ありがとうございます。……お世話に、なりました」
◇
「やあご両人、今帰りかね」
東区域1番地、マゴリアの家……『俺たちの家』があるすぐ近くには同じくらいの大きさのシェリルさんの屋敷がある。
中央区域から戻ってくるとそこを通り掛かることになるので、彼女と顔を合わせるのも当然の帰結だった。
「あら、シェリル。うん、今ね、最後の伝説武器の納品をしてきたの」
「最後の?」
シェリルさんは最後という言葉に疑問を持ったようなので、マゴリアは親友であるシェリルさんにはその説明をしても良かろうと判断したのか、細かな理由を話しはじめていた。
俺は傍らでその様子を眺めつつ、
(ご両人って言い方、古いな……)
などと、かなりどうでもいい事を頭の中で思っていると、シェリルさんが俺の方を睨みつけて言った。
「……オスオミ君。言ってなかったが私が君を召喚する際に仕込んだ言語翻訳魔法は、君の脳や身体全体に浸透している関係で、君のそばに居るとある程度思考が読めるのだよ」
俺はギクリ、となった。
そ、そういう仕組みだったのかよ、シェリルさんが俺の思考を度々読んでいるみたいな感じだったの。
ってか、プライバシー侵害じゃねえか!?
「『ぷらいばしー』という概念は私と君の間柄に於いては無いものと思い給え。ははは、君らの夜の情事も、実のところ『あの夜』にあったのか、なかったのかすら、お見通しでね」
「ちょっとシェリル!いくら何でも、そこは一線を引いてよ!!」
真っ赤になって怒り出すマゴリア。
あまりにもズケズケと踏み込んでくるシェリルさんに、俺は真っ青になる。
マゴリアとの関係についてシェリルさんに相談していたことまで暴露しそうな勢いである。
俺とマゴリアがシェリルさんにギャーギャーと文句を言っていると、シェリルさんは俺とマゴリアを一言で黙らせる切り札を切ってきた。
「……ま、マゴリアの事を深く愛していた私からの、ささやかな復讐と思い給え。どうぞこれからも、末永くお幸せに、だよ」
俺とマゴリアは、硬直する。
まるで凍結魔法をかけられたように。
「しぇ……シェリル、冗談……」
じゃないことくらい、分かる。親友だから。
「マゴリアが女色の趣味がない事くらい、親友として6年間も一緒に暮らしていれば分かるさ」
だから身を引いたのさ。
と、面と向かってシェリルさんはマゴリアに言う。
「オスオミ君。私からマゴリアを奪ったんだ、幸せにしなきゃ容赦しないからね?」
いつか言っていたのと同じような事を、だが今回はまるで凄みを感じさせない、いつもの悪趣味なニヤニヤ笑いと共に言った。
俺は即答する。いつかと同じく。
「当たり前です。俺は、マゴリアの夫ですから」
それを聞いた瞬間、マゴリアは瞬間湯沸かし器の如く赤面し、湯気を吹き出す。
「お、お、お、オスオミ……!シェリルの前で、は、恥ずかしげもなく……!!」
いや、何を今更だろ……
俺はその反応には些か呆れたが、まぁ、俺とシェリルさんが『そういう相談』をしていた事実を知らないんだから、そんなものだろうな。
「ごめん。でも正直な気持ちだから」
俺はそう言うとグイ、とマゴリアを引き寄せて腕に抱く。
「ひゅー、あっついあっつい。もう秋だというのに、何だろうねこの残暑は。やれやれだよ」
そう言って服の裾をはためかせると、シェリルさんは腕を上げて踵を返し、屋敷に戻っていった。
「じゃあね、マゴリア。オスオミ君。私も友人としてたまには君たちの夫婦生活にお邪魔したいから、お茶くらいは出してくれ給えよ」
◇
「な、な、なんなのシェリル……なんであんな事、黙ってたのよ……ええ、オスオミがこっちの世界に召喚された時より驚いたわ……」
「……やっぱ、マゴリアって鈍いんだな」
俺の気持ちにも長らく気付いてくれなかったしな。
まぁ、そのお陰で俺も、ゆっくり決心できたんだけど。
「んもー、そうと知ってたら……いや、知っててもどうにもなんなかったけど……なんだかなぁ、シェリルって昔からああいうトコあるのよね……大事な事はずっと黙って、溜め込んじゃうっていうか」
「ははは」
それは付き合いの短い俺でも分かる。
シェリルさんの本心って、結構地雷めいているよな。
「ま、シェリルさんがああ言ってくれたんだ。変に遠慮はすんなよ」
「気持ちの整理くらいはさせて。んもー、次会った時、ぜーったいまたからかわれるわよ?シェリル、根に持つタイプだからね!」
そうだろうなあ。俺は苦笑して、散々にシェリルさんからの嫌味を聞いた思い出を振り返った。
◇
「ただいまーっと。マリルがいないと、ちょっと寂しいな、やっぱ」
「しょうがないわね。これから6年は、ずっとこうなんだから、慣れてかなきゃ」
俺たちは帰宅して一息。
そして、ヘイネル村へいつ行って、マゴリアの『ご両親に挨拶』するかの相談を始める。
「これから秋を経て冬になるから、寒くならないうちに行って、帰ってきたいわね」
「結構遠いの?」
「そうでもないけど。ま、往復で2週間もあれば」
「割と遠いよね」
「日本の発達した交通インフラの感覚で考えないで下さい~。限界集落よ?」
「あはは」
そんな風に俺たちは話し合い、両親に会ったらなんて言おうかな、なんて他愛ない事で笑い合うのだった。
◇
―――その夜。
「さて、明日からヘイネル村に出発だし、そろそろ寝るかな」
俺は、村への準備を万全に整え、ベッドに入ろう……としたところで。
コンコン。
自室のドアがノックされる。
「ん?どしたのマゴリア」
と、俺が言ってドアを開けると。
「……マリルの言葉を借りるわけじゃないけど」
薄い寝間着一枚で、そこにはマゴリアが立っていた。
俺はギョッとして、そして同時に期待する。
これは……そういう、事だよな?
「存分に、イチャついちゃいましょうか……」
マゴリアの色目に、俺は心臓が飛び出しそうになる。そして思わず、
「……こ、心の準備を下さい」
などと間抜けな事をのたまってしまうものだから、マゴリアはプッと噴き出した。
「……あはは!もう、普段からスケベな目で見てるくせに、いざとなると度胸がないんだから」
「……悪いかよぅ……」
俺はきまり悪くなり、指を弄ぶ。
すると、マゴリアは唐突に俺の手を取り。
どすん。
「……じゃ、あたしの方から攻めちゃう」
と言って、俺をベッドに押し倒してくるのだった。
余裕そうな表情を見せようとしているが、マゴリアも大分顔が赤くなっている。
「……あの、お互い初めてだから、お手柔らかにね?」
俺は散々、妄想の中で繰り広げてきた事がこれからマゴリアの手によってなされるのか、と思うと、期待と不安の入り乱れるような不思議な気持ちに囚われるのだった。
「……時間はまだまだ、あるからね。お互いゆっくり、勉強していきましょ」
マゴリアらしい、そんな言葉を皮切りに。
俺たちは、初めての夜を迎えるのだった―――。
妄想★マテリアライゼーション、48話!!
はい、つーことで諸々の伏線と展開をまとめたのでいつもより長いっす!
2000~3000文字以内で済ましたいんだけどなー!
この先の展開は直接は書きませんが(R-18になっちゃうしね)、まぁ、そういう事です。
雄臣君とマゴリアは夫婦になり、幸せに暮らしましたとさ……
って所で第二部・完!です!
いやー、好き勝手書き始めたこの話、行き着くところまで行き着きましたね。
大満足ですよ。主人公とヒロインがここに至るまで続くかー?エタるんじゃねー?
みてーな気持ちが結構ありつつ、毎回筆がスルスル進むんですよね。
趣味で書く小説、楽しい!!
勿論、これを楽しんでくれている人がいれば、もっと嬉しい!!
第三部は書くかは未定です。
いくらでもネタが浮かぶと思っていた第一部・完の頃から方向性が完全にスローライフで家族モノになってしまったので、考えていた『巨神兵の具現化!』みたいなアホ方向に振り切れなくなってきたなぁ!ってのが正直な所。
一番最初の構想では、そういう巨大ロボ的なのを召喚して魔王軍をけちらせー!わーい!
みたいなバカな話になるかなって思ってたんすよね。
なんでこうなったの???
僕の無意識がそれを望んだからなのでしょうかね。
ま、あるかどうか分からん第三部、あるとしたら『6年後』まで飛ぶか、マリルの『6年間』を描くか、はたまた時系列そのまま継続で『ヘイネル村のご両親への挨拶』から攻め込むか……多分その辺を基軸にしそう。
つーわけで、『一旦』完結です!お付き合い頂いた方々、ありがとうございました!!
完全に趣味の小説だけど、評価もしてくれると嬉しいな!!!




