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第肆章 狼煙 幕章 一 竜翼の騎士の受難

 焼け焦げた匂いが風に乗って嗅覚を不快にさせる。思わず重厚な兜の奥で顔をしかめたその男は、いまだ黒煙が立ち昇り炎上の跡が生々しい葉華(ようか)の街並みを望める神樹(しんじゅ)城の大浴場でひとり佇んでいた。


 否、正確にはひとりではなく()()と言うべきか。


 浴場の石畳には、先刻自らの外套(ローブ)羽織らせた見目麗しい乙女――(おぼろ)が疲労の色が克明に刻まれた面持ちで気を失っていた。


 その下は当然に一糸まとわぬ裸身であったが、今の男にそれを意識するような余裕は微塵もなかった。むしろ、疲労の色は朧以上と言っていい。


 ――間一髪だったな。危うくこちらまで諸共に吹き飛ぶところだったぞ。


 そう思うと大きな嘆息を禁じ得なかった。


 ――まったく……これはどうしたことなのか?


 思わず兜を被った頭に右手を当てて途方に暮れる全身甲冑(フルプレート)をまとった黒鉄の騎士――アイアコスは困惑の体だった。


 突如、暴力的なまでの神気が瘴気さながらに吹き荒れるのを感じて辿ってみればこの有様ときたものだ。


『ひとまず体内で暴れまわっていた天魔は抑えこんだわ。ついで乱れていた妖力と気の流れも正しておきました』


 左手にはめた全面が鏡の手甲からの声に「ご苦労だった」と返す。己に仕える刻鎧神威(グレイル)の一柱・ツクヨミによる刻神(アインヘリヤル)だ。


 刻神化した腕を通して彼女の気脈に干渉し、あふれていた天魔の神気を鎮静化させたのだ。あのままではこの城どころか、この都市一帯が吹き飛んでいた可能性もあったろう。


 巻き添えなどご免被る上に、むやみやたらに無辜の民を死なせる道理もないとすぐさま処置を施したのだ。


『それにしても……敵情視察のはずがとんだところに出くわしちゃったわねぇ、ご主人様。それもピンポイントでこのお姫様と早速会敵(ランデブー)だなんて。どういう巡り合わせかしら? お・ま・けにお風呂でなんてねぇ~~?』


 どこか明るい声音で茶々を入れてくるのは、これまた自身に仕える刻鎧神威の一柱・アフロディーテだ。冷厳なツクヨミに対し明るくも軽い性格だ。


「からかうな……。僕だって想定外だ、こんなこと――」


 そう。自身は扶桑(ふそう)で軍備と兵站を整える中、単身で應州(おうしゅう)へ斥候を敢行し今に至る。


 はっきり言うが、一軍を預かり率いる将の取るべき行動ではない。


 それは自身も百も千も承知ではあったが、どうしても今回ばかりは自身の眼と肌で戦うべき敵を――あの雄々しくも傲岸な輝きに満ちた生命力を放つ若武者の姿を見定めたかったのだ。


 何故だかそうせずにはいられなかった。自分でもこんな衝動は初めてのことだ。


 倒すべき敵にこれほどの拘りを抱くなど。


 当然だが、リュカを除いて部下には告げていない。告げれば反対されるのは目に見えている。


 そもそも最終的には渋々了解してくれたリュカさえ開口一番に反対したほどだ。


 それを押してでも敢行した単独斥候だが、当然ながら難航した。


 ほぼ勝手知らぬ土地であるが故に地理も不案内。加えて、ただでさえ目立つ長身巨躯は隠密行動には不向き。ローブを頭から羽織ってこそいるが、かえって怪しさを数割増しにするのがせいぜい(結局、ツクヨミの鏡による屈折迷彩で切り抜けた)。まあ、倭蜃語は既に習得済みであるから言語での情報収集は一切苦労しなかったのが唯一の救いだった。


 ただ樰永(ゆきなが)と朧の兄妹が鬼灯国(ほおずきのくに)へ赴いたと聞いて些か頭を抱えた。


 扶桑での一件の後、鷹叢(たかむら)兄妹の身辺――鷹叢家を筆頭に應州の情報や情勢は一通り調べ把握している。


 鬼灯国は国の九割が言霊が宿る神聖な樹木に守られた永世中立地帯だと聞く。


 その上、領主の大樹(たいじゅ)家のみが出入りできる結界に守られ入国は領民以外は厳正に制限されている。ましてや、自分のような西界人(せいかいびと)はなおのことだろう。


 結界の揺らぎから国境付近まで近づきこそしたが、結界の精度から見ても自身の空間転移をもってしても侵入は困難であるばかりか密入国など不可能と判断する他なかった。


 その結界は、森林や土地そのものから霊脈を汲み上げて張ったものらしく神気に等しい力に満ち満ちている。


 自身が持つ刻鎧神威の中でも最強の一柱・スーリヤの最大火力なら必ずしも破れないことはないだろうが、すぐにやめた方がいいと判断した。


 この結界は守り以上に守護神たる言霊の意思の具現だ。“森に害を為すものを赦さぬ”という絶対の総意が結界の端々から感じた。


 おそらく結界に傷ひとつ付けただけで森の敵と認識され、極大の呪詛が当人は愚か親類縁者に至るまで降りかかることになる。


 これでは、できることはせいぜい国境で行きかう行商人たちからの情報収集や二人が出てくるのを待つ程度だと思ったのだが――


「それがこんな始末になって侵入が容易になるとはな……」


 そう。長期戦になることを覚悟して張っていたのだが……。



 ▲




 数刻前――


『ねえ~~、ご主人様~~? いったいいつまで粘るつもり~~?』


 アフロディーテが欠伸まじりに詰問するのを「当然あの兄妹(ふたり)が出て来るまでだ」と一蹴すると当然不満げな呻きが返ってくる。仮にも女神がだらしないと思う。


『ねえ、ご主人様さあ……。すご~~く言い難いんだけど、他人から見たら今のご主人様あれよ? いくらツクヨンの迷彩で見えないといっても完全に偏執的かつ倒錯的なストーカーだからね。ものすご~~く残念で怪しいひとだからね』


 こっちはまじめに任務に従事しているというのに酷い言い様だ……。そりゃ今の出で立ちを考えればあながち否定できないのが心苦しい。


 だが、それでも言い切る。


「これも仕事だ。そのようなものと同列にされる謂れは一切ない」


『そりゃそうだけど~~~~』


 いまだに不満を隠さない美の女神を諫めたのは月夜の女神だ。


『アフロディーテ。主を困らせるものではないわ。私たちがすべきなのは主を支えることであって茶化すことではないはずよ。それからその妙な呼び方止めて』


『は~~い。もうツクヨンは相変わらず生真面目さんなんだからな~~』


『だ・か・ら……! その呼び方は止めてと何度言えば……!』


 刻鎧神威たちの雑談をよそにアイアコスは再度見張りに集中する。


 ――そりゃ自分でもどうかしているとは思う。いかにアフリマンに史上初めて選ばれた王とはいえ、相手はたかだか一地方領主の子息だ。いや、そうでなくとも軍の総指揮官が単独で斥候など本来ありえない。


 仕事だと豪語はしたものの……。実際のところは完全に職務と責務を履き違えていると糾弾されて然るべき行為だ。


 いや、そもそもからして一軍を預かる将としての責任を放棄していること甚だしい。叔母がいれば怒髪天を衝いているところだろう。


 ――それでも……もう一度あいつの姿をこの目で見たい。


 味方などとうてい望めぬ四面楚歌の窮地で衰えを知らぬ生命力の輝き。


 それどころか敵をも含めてすべてを巻き込んで突き進む嵐のような王器。


 出逢った時は、わずかに数刻。


 だというのにこれほど惹きつけられて止まない。


 まるで恋焦がれているとすら言える執着だ。我ながら……。


 そんなことを考えかけた自分を叱咤するように頭を大きく横に振る。


 ――本当にどうかしている。そんなにまであの男を討つことに迷いがあるとでも? いや、それとも戦う時を待ち焦がれているのだろうか?


 両方ともあるのかも知れない。


 もはや覆しようもないというほどの絶望的窮地にあって己を見失わぬ克己心。理想の未来を微塵も疑わぬ大志。惜しむ気持ちを禁じ得ないというのは正直ある。


 その一方で同じ剣士として剣と武を競い合いたいという欲も同様にある。初めて対面した時から総身に満ちた剣気。邪神へも果敢に立ち向かった技のキレ。終始武者震いで身体が震え闘争心に猛ってしかたなかった。


 あの猛る生命力を剝き出しにした剣に、自分の剣技がどこまで通じるのか試してみたい。そういう衝動が燻っていることもまた確かであった。


 ――だが、それ以上に――


 あの兄妹(ふたり)が邪神・黄泉津大神(ヨモツオオカミ)へと放った突き【麒辰天穹(きしんてんきゅう)】とともに流れ込んできた二人の歳月と想いの奔流――言語にできぬほどのひたむきで直視すら憚ってしまうほど眩い深く濃い血をも超えた純粋苛烈な愛慕。


 それらを朧に貸し与えていたスーリヤの鎧を通して問答無用で流し込まれたことで図らずも兄妹(ふたり)の禁断の関係をも知ることになったのは誤算にもほどがあったが……。


 しかし、それによってアイアコスが得たのは、弱みを握った優越感でも禁忌の関係に対する忌避感でもなかった。むしろ――


 ――なんなんだろうな。この圧倒的なまでの敗北感と焦燥感は……。


 あの戦いの後、何故だか自分は心底打ちのめされたような心地になった。まったく別の意味で深刻な衝撃を受けたと言っていい。


 彼らの仲は言うまでもなく近親密通。セフィロトをはじめ西界の国々や教皇庁の教義では容赦なく死罪に処される大罪だ。それは倭蜃(ここ)とて例外ではあるまい。


 にも拘らず、あの兄妹の想いには微塵も迷いがなかった。


 ただ真っ直ぐに互いを愛し抜く覚悟。


 未来を諦めず夢を現実に変えるために進み続ける情熱。


 今や昔日の夢すら惰性に成り下がりつつある自分には決してないものだ。


 ――本当にあの二人と会ってからどうかしているな……。だが、それももうすぐ終わる。


 しょせんは討つか討たれるかの関係でしかない。そこに感傷などが入り込む余地など元よりないのだ。


「そう。そのはずだ……」


 言い聞かせるかのようにつぶやくも心はまるで晴れなかった。むしろ、さらに大きなしこりが膨らんでいくことにいらだつ。


 

 だが、そんな無為な思考もそこまでだった。


 これまで一切の揺らぎがなかった森の結界に異変を感じたのだ。


 ――っ! なんだ、この妙な感覚……?


 それはまるで突如として堅牢なる城壁にわずかな(ひび)が生じたそれと似ていた。


 それは徐々に大きくなり遂には――


 パリィンッ!!


 己が諸手を挙げるほどに堅牢かつ荘厳な結界がその瞬間弾かれたように掻き消えた。


「なっ!?」


 だが、驚愕の声すら搔き消すように至るところから火の手が瞬く間に爆炎となって傲然と吹き上がる。


 その様に愕然としながらも尋常ならざる事態となったことを瞬で察した。


 もはや手を拱いている段階は終わった。急遽鬼灯国への侵入すべきだ。


 ローブを突き破って背から漆黒の竜翼を顕現させる。


『いいの? 極秘行動中なのに。あくまで様子見に徹するって選択肢もあるけど』


 アフロディーテの疑問に「もうそんな段階じゃない」と即答するや、翼をはためかせると結界にできた割れ目から突っ切るように飛び込む。


 そして、飛び込んだ先に広がったのは阿鼻叫喚の地獄絵図そのものだった。


 城をはじめ(たち)や社殿、長屋や市といった城下町の至るところから火の手が上がり、決して燃えないと謡われた森林が燃え盛って天にも昇る勢いだ。


 人々の悲鳴と狂乱が絶え間なく紅蓮に染まった夜空に響く。


 おまけにこの火はただの火ではないと一目でわかった。呪詛や魔性に近しい波動が否でも伝わってくる。少なくとも尋常な手段で消火は叶わないだろう。


 このままではここら一帯の森が数刻の後に灰の荒野へと様変わりするだろう。何より民の逃げ道も炎で塞がれかねない。


「アフロディーテ!」


『任せて!』


 得物の大剣(クレイモア)をアフロディーテの刻神(アインヘリヤル)をまとわせ、白と青の螺旋模様が際立つ円形の刀身という意匠に変えて森や城下町を飲み込みつつある炎へと向ける。


「貪婪なる焔災を鎮めよ――【美女神の息吹(ウェヌス・アフロス)】」


 刀身が回転し螺旋状に黄昏色の水流が炎へと注がれる。呪詛をはじめとした魔を払う浄化作用を持つ水の力を撃ち出したものだ。


 これならば大抵の火も呪いも立ち消える。が――


 黄昏の水撃は燃え盛る炎に直撃した途端に弾かれるように霧散した。


『嘘っ!? あたしの水が……!』


 アフロディーテもいつになく信じられないとばかりに愕然と戦慄を湛えた声で呻く。


 ――やはり、ただの炎ではないか。しかし、アフロディーテの水も通用しないとなるといよいよ唯事ではないな。


 見ると、大樹の武士たちや神官たち、一部の民草も同様に消火を試みているが、目立った効果はまるでないようだった。まさに焼け石に水だ。


 ――無理もない。そもそもからして刻鎧神威の水すら弾く炎だ。普通の水など小雨ほどの効果もあるまい。ならば――!


 これまで展開していたツクヨミの迷彩を解き、その力を両翼へと集中させ刻神を顕現させる。これで自身の姿も視認されてしまうが、このままでは自身の退路さえ失う。背に腹は代えられなかった。


 すると、漆黒の翼は一転して光り輝く鏡の翼へと様変わりする。


 鏡面から碧い光が満ち、アフロディーテの刻神となった剣に注がれる。


 二つの刻鎧神威の力を融合相乗させる秘儀――【神格融合(オラクル)


「月夜と金星の女神よ。汝らの慈悲と峻厳をもって」


 月光が刀身の螺旋に逆巻く泡状の水流へと吸い込まれるや黄金へとその色を変え、穂先に球体として集束していく。


「不遜なる焔災を薙ぎ払え――【遍く暁月天夜の慈雨アウラルナ・カエルムティア】!!」


 黄金に彩られた水球が紅蓮に染まりつつあった夜天(よぞら)に向かって矢のごとく撃ち出されると弾けて雨となって炎に包まれた森や都市そのものに降り注いだ。


 すると、アフロディーテ単独の水流すら弾いた雄々しい炎はみるみる勢いを弱めて淡く消えていく。


「これでひとまず全焼は避けられるだろう……」


『ええ。けれど――』


 安堵の息を漏らす主にツクヨミが忠言する間もなく地上から怒号と弓矢が向けられる。



「な、何者だ、貴様っ!?」


「間者かっ! もしや、この火も貴様が……っ!」


「おのれ……! 我らの神聖な森をよくもぉ!」


「この奸賊めが! 生きてこの地から出られると思うなッ!」


 当然、迷彩を解いた姿を視認した大樹の武士たちから隔意と疑心、敵意と殺意を向けられる。



『ぶー! ぶー! こっちはむしろ大恩人で感謝感激されてもいいくらいなのにー! ずいぶんな言い草じゃない! あたしたちだって余裕があるわけじゃないのよー!』


「しかたあるまい……。彼らにして見れば、緊急かつ危機的な状況で氏素性も知れぬ見るからに怪しげな輩が空から影も音もなく自分たちの土地に現れたのだ。これで疑うな、信じろという方が無理な話……」


 アフロディーテの憤慨した声に疲労がにじんだ声でたしなめる。


『そりゃそうだけどー!』


 納得しかねると憤懣が抑えられないアフロディーテを諫めたのは普段は寡黙なスーリヤだ。


『文句は後にした方がよい。喚いている内に来るぞ』


 その言葉が引き金だとばかりに法力仕込みの強弓の矢が数本乱れ撃ちで飛んできた。


 それらを背の尾でしならせて打ち払う。


『ぎゃー! 疑うどころか、まるっきり容赦なしじゃない! はなっから殺る気満々じゃない!? こいつら!?』


 アフロディーテの素っ頓狂な声をよそにアイアコスはその場を高速で離脱しながら、これからのことを思案していた。


 ――さて……これからどうするか? 先刻の剣幕を見るかぎり正直に事情を話しても十中八九信じてはもらえまい。


 第一、そもそも敵情視察なのだから仮に信じてもらえたところで自らお縄にかかるようなものだ。


 ――いや……それどころかこの火災の件も含めて身に覚えのない罪状まで勝手に加えられるのが目に見えているな。ここは不本意だが――


『撤退以外にあるまい』


 スーリヤが自身の思考に先んじる形で進言する。今回ばかりはうなずく他なかった。


 こうして姿を見せた時点で斥候はほぼ失敗したと言わざるを得ぬ上、こうなっては情報収集どころではないし、自身が下手に動けば邪推をますます深められるだけでしかない。そうなってはセフィロトの名にも傷がつく。


 それはセフィロト軍を指揮する立場として絶対に避けなくてはならない。


「止むを得ない。高高度に出て扶桑の仮陣に戻――」


 そこまで言いかけた時だった。


 頭から爪先まで全身をおぞましい気配が奔った。


 それは頭から冷水を浴びせられたなんてものではない。


 一気に身体から一切の体温が容赦なく奪われ心臓を鷲掴みされたかのごとき悪寒が奔り抜けたのだ。


『っ! ご主人様……!』


『これは……!?』


『主よ……!』


 三柱の刻鎧神威たちも警戒を促す声音を迸らせる。


 ――この感じは、どこかで……天魔かっ!?


 そう。この瘴気や化生とも見紛う神気には覚えがあった。


 アフリマンの王・鷹叢樰永の実妹である鷹叢朧……! その身に密かに宿していた魔性の刻鎧神威・第六天魔王波旬!!


 あの時の荒ぶる神気を今また感じたのだ。


「また暴走を始めたというのか? だとしたら、そんな時に奴は何をやっている……!」


 あのいけしゃあしゃあとした若武者の顔を思い浮かべ、ギリッと思わず歯軋りを禁じ得なかった。


『どうするの、ご主人様?』


 アフロディーテの確認するような問いに即答で返す。


「わかり切ったことを……! こんなものを放置しておけるものか!」


 ここから感じただけでもわかる。この神気の膨張はまずい! そもそも波動が遠く離れているここまで伝わってくるということ自体が既に異常事態だと教えている。


 下手をすれば、この都市は愚か鬼灯国の大半が吹き飛びかねない!


 それだけの強大で暴力的な力が出口を求めて荒れ狂っているのだ。おそらく朧はロクな制御すら儘ならない状態だろう。


 ――ともかく気配を辿らねば。手遅れになる前に!


 瞑目し神気を研ぎ澄ませ轟くように暴れる神気の先を辿る。その根源を――


「っ!?」


 ハッとなったように目を開けるや、後ろを振り返り大樹の居城・神樹城の居館の方角を見る。


 暴れる神気はそこから放出されていた。


『ちょっと、ちょっとっ! これ逆走しなきゃいけない雰囲気?』


『のようだな』


『しかたないわね』


 アフロディーテのいかにも嫌そうな声に淡々とにべもなく肯定の言を紡ぐスーリヤとツクヨミ。


 アイアコスも意を決し城へと狙い定めるがごとく身体の向きを変えた。


「行くぞ」


 その一言と同時――アイアコスの姿は掻き消えるように加速し葉華の街並みを置き去りにして空を疾駆する。

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