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まだだ! まだエタらぬ! エタらぬぞ!
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
地響きを上げ、目の前の雷雲がカーテンのように左右に開いたかと思うと、
「我が名はビビアン! 古より伝わる生贄により、漆黒へと向かう扉は開かれた…………。だが、今一度問う。汝ら、地獄の使者である我と共に地獄を見る覚悟はあるのか?」
そこに現れたのは、真っ黒なローブで身を隠した、
「え? ずいぶんちっちゃい、地獄の使者さんなんですか! かわいい!」
魔力回復薬を片手に、空気を読まずに本音をぶちまけたマリアーナ。
いや、でも、
僕の胸あたりしかない身長と、ローブからはみ出る亜麻色の髪と黒い瞳の少女。
当然。
「あらあら? ずいぶん可愛い地獄の使者さんですわね!」
「ぐへっ!」
目にも止まらず姉上が、やや力加減を誤り、フードが外れて素顔をさらした彼女を抱きあげると、
「か、かわいい! 私にも! 私にも抱かせて!」
ミナが両手を広げて、
「うわ! 人間の姿してても、ドラゴンの子はかわいいね!」
メイリンが駆け寄り、
「大丈夫ですか? 擦り傷とかしてませんか? グビグビ! 今なら私が……」
はぁはぁと、なんだか鼻息荒く無駄に治療をしようとするマリアーナ。
さらに、
「おろおろ! 主殿とわっちの子も、きっとこんな風に可愛く……ぐぎゃ! なんじゃ? なぜわっちは近寄らせようとせぬのじゃ!」
姉上の指弾ドングリ攻撃で近寄れないヒルダがいた。
「あらあら? あなたのその妄想は、シュタイン王国法第十三条二節。『私の愛おしくて愛おしくて、愛おしいアルに向けて、私シルヴァーナ以外が妄想していい範囲』を、著しく越えていますわ!」
なんか、物凄く自分勝手で偏った法律だ!
でもそんな法律なんて…………。
「はい! 私も二ヶ月ぐらい前、聖女になった時にシルヴァーナ様が王に、脅迫……示談をして通った法律と聞きました!」
ちくしょう! 普通に法律になってたよ!
「姉上なにやってんだよ!」
思わず素でツッコむ僕に、
「あらあら、おほほほほ」
余裕の笑みを浮かべる姉上に、
「ぐぬぬぬぬぬぬっ! こうなれば、帝国憲法に『皇女の主人に懸想する者は、例え親族でも極刑に処す!』の一文をねじ込むのじゃ!」
「あらあら!」
「おろおろ!」
訳の分からない次元で睨み合う二人。
今は特に止めて欲しい。
なぜなら、
「うむむむむむ! 数百年振りに、扉が開いたのだぞ! もっと驚き慄け!」
ビビアンが、結構な殺気を込めて叫ぶ。
ちなみに結構な殺気とは、戦場を経験した数百の兵士を一斉に行動不能に陥らせるレベル。
当然のように姉上は右の眉を、わずかに動かしただけだが、涙目になる少女をこのまま放っておけず、
「うわぁぁぁぁ! すげえぇぇぇぇぇぇ! 扉が開いたよ!」
必要以上に棒読みだが大袈裟に驚く僕に、
「……うん。お前、良い奴だな」
少し嬉しそうに、でも全体的には寂しそうに笑う少女。
と、とにもかくにも! なんか、これ以上機嫌を損ねるのは悪手と僕の心が警告を鳴らした。
なのに、
「あらあらあなた! 私の最愛で最高で最凶に愛しているアルに色目を使ったのは…………万死に値しますわ!」
ああ。
うん。
ちょっと笑い掛けるって……そうなのかな?
すでに何をどう考えれば良いのか、ほとんど思考を放棄した僕に、
「お前ら! 私の最高に最愛で! キューティーで ビューティフルな愛娘ビビアンを! 何いじめてるんだ!」
ツアーコンダクターと名乗っていた正体丸わかりのナツミが、異常な殺気を孕んで迫って来たのだった。
「ぎざまら! わたじの! わだじのぉぉぉぉぉぉぉ!」
ナツミの黒髪が逆立ち、黒一色だった瞳の周りに紫煙のようなものがまとわりつく。
これは…………。
なぜか何回も体験している、魔力の暴走!
だから、さすがにこの規模の暴走は、ここにいる観光客も巻き込むと肌が感じていた!
さて、どうやって穏便に済まそうかと思った刹那。
どごっ!
「ふぎゃぁ!」
さっきまで、ここらを吹き飛ばすほど魔力を暴走させていた、ナツミの体がくの字になって吹き飛んだ。
「すごいな! この獲物を一撃で沈黙させるほどの攻撃。姉上に優るとも劣らないぞ!」
思わず漏れた言葉に、地面を転げまくって巨大な岩にぶち当たって止まるナツミ。
「む……むきゅう…………」
そんな意識の無さそうな彼女に向い、いつの間にか今まで竜の門に立っていたビビアンが、さっきまでナツミのいた場所で腕を組んでいた。
そして、
「この場所は私に任せるって言ったじゃん! なんで口やら手やら、殺気まで出してくるのママ!」
うん。
なんとなく分かってたけど、ナツミとビビアン。
どうやら二人は、古竜の親子らしい………………。
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