第18話 清楚なあの娘とデート
今回は留美とのデート回です。お楽しみに!
「山田……ですか?」
「ああ、そいつが堕悪苦寝棲を雇ったらしくてな。『良い金づるが出来た』とキャバ嬢相手に自慢しとったらしい」
早朝ジョギングの途中で寄った和泉モータースで俺は和泉のおっさんから情報を仕入れる。外国人組織と取引するだけあって裏社会の情報には詳しかった。おっさんの話を纏めると俺が壊滅させた暴走族堕悪苦寝棲はどうやら山田なる人物に雇われて村に嫌がらせをしていたようだ。そういえば堕悪苦寝棲のヘッド林 孝もそんなこと言ってたな(あん時はその場のノリで雄介に任せてぶっ殺しちゃったが…)。山田か……一体何者なんだ?『学園0』はおろか他の『学園シリーズ』にもそんな名前の人物は登場していない。俺が原作改変をして現れたイレギュラーなのだろうか?いや、違うな暴走族事態は原作でも存在して居たんだ。矢鱈と設定に拘るユートピアが製作したゲームだ。本編では登場しない裏設定の存在なのかもしれないな。
「それで山田という男の正体は?」
「わからん、奴等の自慢話にしか出て来ないから聞いたキャバ嬢も奴等のホラだと思って聞き流してたからな」
おっさんの情報網をもってしても山田の正体はわからないか……そもそもコイツは何の目的でこんな寒村に嫌がらせをする?話によると警察にもコネのある人物らしいが、謎は深まるばかりだ……。
「おっと、長居してすみません、貴重なお話ありがとうございます」
俺は謝礼金の入った茶封筒をおっさんに手渡す。
「おう!気を付けて帰れよ」
俺はおっさんの声を背にガレージを後にした。
ジョギングから戻り着替えて軽く朝食を食べた俺は学校に向かう。まだ夏休みなので学校そのものに用はないのだが、学校の校門前が今回のデートの待ち合わせ場所なのだ。
「良かった。留美はまだ来ていないな」
今日のデートの相手は留美である。今日も10分前に来たが幸い薫と違って留美はまだ来ていないので安心する。俺は人を待たせるのが嫌いなのだ(ただし重要人物限定)。
「ワンワン!」
俺が校門で待っていると犬の鳴き声と共に一匹のゴールデンレトリバーこっちに駆けて来た。
「ハチ先輩!?」
犬の正体は留美が飼っているゴールデンレトリバーのハチだった。ハチは尻尾をパタパタと振りながら俺の胸に飛び込むと俺の頬をペロペロと舐めてきた。フフ、うい奴じゃ
「ハチ先輩、どうしてあなたが此処に?」
ハチが単独でこんな所に来れる訳がない、よく見ればハチの首輪にはリードがついているではないか、まさか……。
「ハチ〜〜待ってよぉ〜!」
ハチが来た方向から一年前にも聞いた台詞が聞こえて来た。
「やっぱり……飼い主を置き去りにするとは感心しませんよハチ先輩」
「クゥ〜〜ン」
俺の注意を聞き尻尾が垂れ落ち込むハチ、どうやら久しぶりに俺に会えるとわかりテンションが上がって飼い主ホッポリ出して俺のところに来たようだ。
「ハチ〜〜待ってよぉ〜〜……あっ、征男!おはよう!」
しばらくするとハチの飼い主こと留美が小走りでやって来た。
「おはようございます。留美さん、素敵なワンピースですね」
留美の服装はノースリーブの白無地ワンピースに花の刺繍がある手提げカバンとバスケットを手に提げ、麦わら帽子を被りオシャレなヒールを履いていた(よくヒールで走れたものだ)。彼女の清楚さを引き立てる服装でとても良い……おっ!薫と同様に早速三日月のネックレスを着けているじゃないか!?いや〜嬉しい限りだ。
「フフフ、ありがとう征男君」
服装が褒められて嬉しいのか留美も満更でもなさそうだ。
「ところでこちらのハチ先輩は………」
「そ、それがね……」
留美の話によると留美が家から出ようとしたら留美が俺に会いに行くと思ったハチが自分も連れてけとばかり留美にすり寄って来たそうだ。ハチの懇願に根負けし、そのまま連れて来てしまったのだ。
「ごめんね。征男君……二人っきりのデートの筈だったのに……」
「いえいえ、私もハチ先輩とは久しぶりに会えたので構いませんよ」
申し訳なさそうな留美に俺は気にしないように促す、実際ハチとは久しぶりに会いたかったので嬉しい誤算だ。
「ありがとうね征男君……」
「礼は不要ですよ。それよりデートを楽しみましょう」
そんなことを言いながら留美に手をかざす。少しキザだったかな?
「うん……そうだね!」
留美は微笑むと俺の手を取るのだった……こうして二人と一匹のデートが始まった。
俺が彼女の案内で来たのは秋穂で唯一の公園、秋穂公園に来ていた。公園と言ってもブランコと滑り台しかないシンプルなものだ。俺もこの公園は日も出てない早朝にトレーニングの為に来るが日が出て明るいこの時間帯には来たことはなかったので別の場所に来たと錯覚する程だ。
「この前は賑やかな刈穂でデートしたから、今回は静かな秋穂で……って思ったんだけどダメだったかな?」
「いえいえ、私も静かなのは好きですのでお気になさらず」
不安そうに訪ねる留美に問題ないむしろ嬉しいとばかりに答える。四人でのデートと薫とのデートが人ゴミばかりの所にいたので公園で静かなデートというのはとても新鮮に感じた。それに留美は落ち着いた雰囲気が好きな少女だ。公園というデートスポットのチョイスは彼女らしくて好感が持てた。
「そう言って貰えて良かった」
「ワンワン!」
嬉しそうに笑う留美と尻尾を振りながら鳴くハチ、留美は持ってきた手提げカバンからフリスビーを取り出す。
「今日は天気は良いし、ハチもいるからフリスビーしよ!」
「良いですね!」
「ワンワンワン!」
フリスビーか、懐かしいなこれを投げたのは前世で中学の友達が飼っていた柴犬以来だ。ハチも嬉しそうに俺の周りをグルグルと尻尾を振りながら回っていることだし久しぶりに投げるか。
「ソレッ!」
「ワフゥゥゥ!」
俺の投げるフリスビーを走ってキャッチし、尻尾を振りながら戻って来た。
「よしよし、流石ですハチ先輩……次は留美さんの番です」
ハチを撫でながらハチからフリスビーを受け取ると留美に渡す。
「うん、じゃあ……いくよ。それ!」
留美もフリスビーを投げる。留美は運動は苦手だが、ハチ相手に何度も投げているお陰か綺麗なフォームで投げていた。
「ワフゥゥゥ!」
ハチは走って飛んでそのフリスビーを口にくわえる。そしてまた尻尾を振りながら戻って来た。
「ありがとうねハチ……はい!征男君の番だよ」
留美もハチを撫でてからフリスビーを受け取り、俺に渡して来た。
「もう一回行きますよ。ハチ!」
「ワン!」
こうしてしばらくの間、俺達はフリスビーやこれまた留美が持ち込んだバドミントンで遊んだ。
「征男君そろそろお昼だからご飯にしようか?」
ハチとじゃれていたら留美が声を掛けてきた。見れば彼女は公園にある大きな木の木陰でレジャーシートを広げて手招きしていた。
「この前のデートは外食だったから今回は私が作ってきました」
そう言いながら彼女は手提げカバンと一緒に持ってきたバスケットを取り出すこれに昼飯が入っているのだろう。
「それは楽しみですね。おお、サンドイッチですか」
留美が開けたバスケットの中身はサンドイッチだった。玉子サンド、ハムサンド、チーズサンドと様々なサンドイッチが敷き詰められていた。
「うん、お外でも手軽に食べれる物って言ったらこれかなって思って……あっ、遠慮しないで食べて良いよ」
ハチにドッグフードを与えながらそう言って俺にサンドイッチを進める留美、俺もさっき体を動かしたせいか小腹が減っていたので有り難く頂くとしよう。
「それではいただきm――「ちょっと待って!」はい?」
早速サンドイッチを食べようとバスケットに手を伸ばそうとしたら、留美に止められた。よく見れば彼女はサンドイッチを持ちこちらに突き付けていた……って、こ、これはまさか………!?
「え、えーと、留美さん?」
「恋人だからこれくらい普通だよね♪はい、アーンしてアーン……」
「あ、アーン」
有無を言わさぬアーンに俺は観念して口を開けて留美のサンドイッチを受け入れた。アーン自体は実は理子で経験済みだが、やはり気恥ずかしいことに変わりはない。
「どう?征男君、美味しい?」
「はい、とても美味しいです」
俺が食べたのは、玉子サンドでマヨネーズと胡椒の比率が絶妙でマイルドな玉子に良く合った。
「良かった次はコレね♪はい、アーン」
「え!?一回だけじゃないんですか!?」
「アハハ、当然だよ♪」
一回で済むと思っていたらまさかの二回目、理子の時は一回で満足していたので面食らう。勘弁してくれ、人に見られていないとはいえコレ結構恥ずかしいんだぞ……。
「……アーン」
しかし留美の有無を言わさね笑顔と留美からドッグフードを貰ったというのにそれに手を着けず『早く食えや』と言わんばかりに睨んでくるハチには逆らえる訳もなく、俺は素直に従うしかなかった。
「……ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様」
恥辱に耐え俺は何とか昼飯を食べ終えた。うむ、適度に運動してから昼飯を食べたので少し眠い、しかも今日は夏だと言うのに暑いというより温かいと言えるような穏やかな陽気なので余計だ。
「クウワァアア」
ドッグフードを食べ終わったハチも欠伸をかいてうつらうつらしていた。
「征男君眠いでしょ?横になりなよ!」
女の子座りをしている留美が自身の膝を指差しながらそんなことを言った……ハァ!?
「えっと……これは膝枕……ですよね?」
「うん、そうだよ」
オゥジーザス……薫にしてやった膝枕を今度は俺がされるのかよ……アーンですら恥ずかしかったというのに更に難易度の高い膝枕だと!?前世の頃から彼女のいない俺からしたら恥ずか過ぎて死ねるぞ……何とか断らねば。
「あの、留美さn――「どうしたの征男君?早く座りなよ」はい……」
無理でした。留美の笑顔とさっきまでうつらうつらしていたハチが何故か起き上がり『早く、寝ろや』と言わんばかりの視線に耐えられませんでした(俺はこんなに情けない男だったのか……)。
「し、失礼します」
「どうぞ♪」
留美の膝の上に後頭部を乗せる俺……おお!何とも言えない弾力のある感触が後頭部から伝わって来るではないか!!
留美の膝もとい太ももの感触によって俺の眠気はぶっ飛んだ。しかし太ももの感触に興奮して眠気が覚めましたなんてとても言えないので留美の膝の上で目を瞑り寝たフリを決め込んだ(ムッツリスケベ)。
「フフフ、征男君もう寝ちゃってる。お休みなさい征男君……」
留美がいとおしそうに俺の頭を撫でてくる。言えない……まだ起きてますなんてとても言えない……。
「普段は知的でカッコいいのに寝てる姿は可愛いなぁ〜」
こうして俺は太ももの感触を堪能する代償に寝たフリを一時間続けるハメになった。
「すみませんデートの最中だと言うのに寝てしまって……」
「気にしないで、征男君の寝顔見れたから」
あの後、目が覚めた(寝たフリをやめた)俺はハチを連れた留美と一緒に夕日が照らす村道を歩いていた。俺の寝顔が見れて満足そうな留美を見てると、複雑な気分になる。
「あ!征男君着いたよ」
俺の複雑な心境を知らない留美が明るく声を掛けてくる。もう着いたのか……。
「一年前から変わってませんね。ここも……」
俺達が訪れたのは、村の中心部の土地神を祀った社がある丘である。村が一望出来るこの場所であり、思い入れのある場所だ。
「たしか、ここで留美さんと初めてお会いしたのでしたね」
「うん……あの日、私がハチと散歩してたらハチが急に飛び出して追いかけた先に征男君が居たんだよね」
「ええ、今日みたいにハチがいきなり来たものですから、驚きましたよ」
「もう、一度ならず二度までもハチったら!」
「く、クゥン……」
「「アハハハハハ」」
申し訳なさそうに頭と尻尾を下げるハチに二人揃って笑ってしまう。そうだその後もここで花見もしたっけ……あの時は何人か酔っ払って大変だったな〜。
「ねぇ、征男君……」
俺が夕日に染まった村の景色を眺めていると隣で寄り添っていた留美が声を掛けて来た。
「はい、なんでしょう?」
「今日は、私に付き合ってくれてありがとうね」
「いえ、こちらこそ貴重な時間をありがとうございます。私も留美さんと遊べて楽しかったです」
留美の礼に俺は自分が一番良いと思う爽やか笑顔で返す(キラーン✨決まったな)。
「フフフ、征男君たら……」
そうして再び笑い合う俺と留美、俺達は日が沈むまでの間語り合った。話の内容は大したものではなかったがこの時間が俺には至福に感じた。
「さて、もう暗くなったし、帰ろっか征男君」
気づけば辺りは薄暗くなってきていた。そろそろ帰る時間か……。
「そうですね。そろそろ帰りましょうか………あぁ、そうだ今日のデートの礼をしなきゃな」
「え?征男くn―――ッ〜〜〜!?」
俺の口調の変化に気付いた留美が俺に振り返ったのでその唇にキスをする。
「これが俺の礼だ、どうだった?」
薫の時と同じように素の俺が出てしまったがやっぱりこういう大事な場面は偽りの俺ではなく本来の俺として言わなきゃいけないと思ったからだ。
「まさか、征男君からキスしてくるとは思わなかったな……少しドキッとしちゃった」
そう答えた彼女の顔は赤かった。恐らく夕日の光が反射だけではない筈だ。
「それにしても……征男君口調変わり過ぎだよ」
「こっちの俺は嫌いかい?嫌なら私に戻りますが?」
彼女が俺の口調の変化に驚くのも無理はない。原作再現の為に今まで前世の俺、澤村 健二の口調ではなく、俺の憑依先であるオリジナルの口調を真似ていたから本来の俺の口調は違和感が半端ないだろう。こういう場面は本来の口調で言わなきゃいけないというは所詮俺の我が儘でしかない、留美が違和感を感じるのなら彼女の前では本来の口調は出さないつもりだ。
「そんなことはないよ。私は皆が知らない征男の一面が知れて嬉しいかな……あ!薫ちゃんと理子ちゃんにもそっちの口調は見せてね。私だけ知ってるのはフェアじゃないから」
留美に口調のことを否定されないことに安堵する俺がいた。所詮は口調だろ?と思うかもしれないがあの口調はこちらの世界で本来の俺を証明する数少ない手段でありアイデンティティーと言っても過言ではない。それを否定ではなく認められるのはまるで本来の俺を認められたのと同義だからだ。
「ありがとう留美、君は優しいな」
俺は留美に感謝する。彼女からしたら口調なんてどうということはないかもしれないが俺からしたら充分に嬉しいことだから……
俺に呼び捨てされた留美はさっきよりも顔を赤くした。そういえば彼女の名前を呼び捨てにするのは今のが初めてだな。
「……ッ!?な、名前で呼ばれた時もそうだったけど……呼び捨ても結構クルね……」
彼氏に名前を呼び捨てにされるだけで煙が出そうな程、顔が赤くなるのだろうか?恋愛などしたことない俺にはわからなかった。
「次は理子ちゃんの番だよね?理子ちゃんのデートが終わったらまたデートしてね征男君♪」
そう言って俺に抱きつく留美、おお、積極的!
「ああ、俺に任せてくれ」
留美のたわわな、お胸様が俺の胸板に密着する感触を楽しみながらそんな仕草をおくびにも出さず真面目な顔で抱きしめ返してそう答えた。
ふと、視線を移せば丘の上で抱き合う俺と留美を嬉しそうに見つめるハチの姿があった。
「勿論ハチ先輩も一緒だからな」
「ワン!」
こうして二人と一匹のデートは終わったのだった。
次回はメイドなあの娘、理子とのデート回です。お楽しみに!




