14.執事 前半
視点は女性陣になります。
「さて…本心ごと偽り倒せ。『アクトイフバトラー』」
訓練の翌日の明朝。今村は「傾世の美」を魔改造して飲むとローブの状態を変化させた。
「『錯視錯覚:燕尾服』…さて、参りますか。」
そして今村は自室の扉を開いた―――
Side ~ルカ~
「お早うございますお嬢様。」
目を覚ますと知らない人が目の前にいた。燕尾服を着ているもの凄い格好良い人だ。お師匠様の特訓のおかげで寝ている時でも誰か来ればすぐに分かるのに眠っていた辺りからしてもの凄い実力者だと思う。
「…誰?」
私は警戒心を剥き出しにその侵入者を睨んだ。するとその人は一瞬私をドキッとさせるような笑みを浮かべた。
(…お師匠様一筋のこの私を一瞬でも揺らがせるとは…)
戦慄しているとその人は一歩下がり一礼して名乗りを上げた。
「これは異なことを仰られる…お嬢様の半日執事今村ですよ?先日の件。お忘れになりましたか?」
「へ?」
思わず間抜けな声を漏らしたのは仕方がないことだと思う。お師匠様を自称するその人は私が納得していないのを見て燕尾服を黒いローブに変えた。
「…禍々しい氣…間違いないですね…」
私が納得したのを見てお師匠様は燕尾服に戻った。…お師匠様なら甘えモードでいいか。
「えへへ~お師匠様ぁ着替え手伝って~今は執事だもんね?拒否しないよね~?」
「畏まりました。」
え?ホントに?冗談のつもりだったんだけどあっさり受け入れられてしまった…
「本日のお召し物はどのようになされますか?」
「え…えっと…お師匠様のお好みで…」
「畏まりました…『呪具招来』〈ウェアーアップフレーム〉それではお嬢様失礼致します。」
お師匠様は木でできた大きめの額縁のようなものを私に通した。すると私は黒い簡素ながらも見事な意匠が施されたドレスに身を包まれていた。
「ふぇ?」
「大変お似合いですよお嬢様。」
呆然としている私にお師匠様からの微笑み。ぐっはぅ!や…鼻血出そう…
「ん?」
鼻を押さえていると肌が妙にすべすべなのに気付いた。…そういえば顔が寝起き直後に比べてさっぱりしてる気が…
そんな私の行動を見ていて察したのだろうか。お師匠様が声を掛けて来た。
「差し出がましいと思われるかもしれませんが…洗顔等は先程、〈ウェアーアップフレーム〉を使う際に済ませております。何かお気になる点がございましたら仰って下さい。」
「え…どうやってそんなことを…?」
触られた感覚もなかったし普通の手入れじゃこんな肌に出来ない!
「執事の嗜みにございます。」
「…えっと?どうやったのか知りたいんですが…」
「執事の嗜みにございます。」
「…教えてくれないんですね…」
にっこり笑って返される返事にうっかり心を打ち抜かれつつ私は追及を諦めた。
「それでは朝食の方に参りましょう。」
「あ、はい。」
私は素直に執事お師匠様に付いて外へ踏み出した。
そして目に入ったのは驚くべき光景だった。とりあえず廊下は昨日通って来た時に比べてえっらいことになっていた。綺麗過ぎて歩くのをためらうくらいだ。くすんでいた木が外からの日の光を反射…いや、光を増幅して輝いている。
「えぇと…これはお師匠様が…?」
私が廊下を指すとお師匠様がこともなさそうに頷いた。
「はい。お嬢様がお通りになられるに相応しい道になったと思います。」
「え…と踏んでもいいんですかね…?」
「…歩きたくないのですか?仕方ありませんね…」
お師匠様はそう言うと私をお姫様抱っこして…ってえぇっ!?
「これでよろしいですか?」
「ひゃ…ひゃい!」
スマイル近いよ!心臓が…ヤバい血が巡りすぎて血管が引き千切れそう…
私はじっとして一階へ降りて行った。
Side ~天明 祓~
(…えぇと…あれは一体どちら様でしょうか。)
「氣」は確かに先生。雰囲気も…いつもと多少違うものの先生。顔は…とりあえずいつも見ている顔ではない。まぁそれは先生であることを考えればどうでもいい。いつもよく見れば少し違う顔してるし。今日は何か心境の変化でもあったのだろう。
唯、明らかに言動がおかしい。今日起きたらどこからか良い匂いがしてきたのでその香りがする方に行くと何故かキッチンとそれに付随する食事を食べる場所が出来ており、先生がいた。そして私を見つけると言ったのだ。
「お早うございます祓様」…と。とりあえず何かの病気かと思った私はテレパスを使ったが弾かれた。次いで直接訊いた。すると簡単な説明があって要するに昨日の執事がどうとか言うのが原因だったようだが…
まず、二階でルカさんが起きたのを気配で察知して消えた辺りはまだいいとしても帰って来た時にお姫様抱っこというのはどうかと思う。
「それでは失礼して…」
目の前でそんなことをされると私だってムッとする。…が、ルカさんはそれどころじゃないようだ。ぽけーっと席に向かって歩くと先生が引いた椅子に座った。
「…これは凄いですね…ご主人様は一体どこでこういった作法を…」
音を立てずにルカさんを席ごと、それも不安定に動かすこともなくテーブルにつかせたことに月美さんが驚いている。
「…掃除の腕前といい…おそらくこの服装も手掛けたはず。」
月美さんはルカさんのチェックをしている。何故その辺が分かるのかは私にはわからないが先生が黒めのドレスが好きということは覚えておこう。
「それではお待たせいたしました。こちら〈天葱のスープ〉になります。」
そんなことを考えていると先生は私がここへ来る切っ掛けになった良い匂いのスープを3人前準備してくれた。因みに現在相馬は昏睡状態。「キュアモーラル」は使ってない。起きると五月蠅いしじろじろ見られるのは好きじゃない。…まぁ先生には見て欲しいのだけど…
そんなことを思いつつスープを口に運ぶと驚いた。玉葱とは思えないスープの味わい深さに起きたばかりの体を優しくいたわってくれるかのような絶妙な甘さがしっかり起きていたはずの体を本当の意味で起こしてくれた。
「美味しい…」
完全に料理家として負けている…この一口で私はそれを思い知った。そんなことを思いつつスープを口にしていると彩り豊かなサラダ、そして焼きたてのパンとバターが出て来た。
「ご主人様。このドレッシングとパンはどこのものですか?それに見たことのない野菜がありますが…これは一体…」
月美さんが料理に舌鼓を打ちながら先生に質問した。それは私も気になっていた所だ。…美味しい。
「全て私の手作りでございます。野菜は崩壊しかけていた世界で作ったもので名前は特に決めておりません。」
「えっ」
「強いて言うのであればそうですね。作っている環境から考えて『天野菜』とでも言いますか。」
…と言うことは先生が品種改良したってこと…?あと作っている環境から考えて「天野菜」ってどんな所で作ってるんだろう…
「『雲の欠片』というものを使って上空100メートル付近に浮かせた状態で栽培しております。培養地はミネラルやビタミンを含んだ雲で品質管理は万全でございます。」
「え…今言葉に出してました…?」
「いえ、少々お気になされていたようでしたので差し出がましいとは思いましたが説明させていただきました。」
(…そんなに顔に出てた…?)
「はい。」
そして先生は私に向けても笑みを…これ凄い。笑みで人ってここまで幸せにできるんだ…はぅ…そういえば私いつから笑ってないだろ…お城の生活がアレだったからなぁ…でもここに居ればいつか笑えると思うな。
全部諦めてたのに先生のおかげで色んな感情が戻って来たし。
「頑張ってくださいね?」
「はい。…ってあれ?もしかして声に出してました…?」
だとしたら…恥ずかしいけど…もしかして先生は私の想いに気付いて…
「いえ。何のことかよく分かりませんが…月美様が祓様の食事を…」
「え?あ!な…何やってるんですか?」
「はっ!あまりにも美味しくてつい…」
気付かれたというわけでもなく、月美さんが先生の手料理を盗ってることに対しての抵抗の応援だった…
ここまでありがとうございます!
今村君の執事状態なんて誰も求めてないと思いますが長いので二回に分けます…ごめんなさい。




