13.訓練4
「さて…ラッシュ下は相馬傀儡が壊れたから無しにしよう。」
「えっ…」
今村の言葉にショックを受けたのは何故か相馬だった。そしてそんな相馬を見る女性陣の目は冷め切っている。
「はいはいこっち向け。次は軟体。関節の柔らかさを調べるから先に体をほぐしておくように。」
そう言うと今村は少し離れて準備し始めた。その間に相馬が視姦とはこういうものだ!と言わんばかりに女性陣を凝視していたので祓に軽く殺されかけたりした。
「…ん?何かあったんか?」
相馬の断末魔を聞いて今村は3人の元に戻って来るが相馬はすでに物言わぬ状態になっていたので放置することにした。
「…まぁいいや。流石にこっから筋トレ続行はキツいだろうし送り返しておくか…」
今村はローブで相馬の足首を掴むと「ワープホール」を形成。そしてその中に投げ入れた。
「ん。多分ベッドに着陸してるだろ。じゃあ今からこのポーズとって。」
今村はそう言って明らかに曲ってはいけない方向に関節を曲げてそれをするように求めて来た。
「え…と…それは流石に…」
「おし…おししょ様…股が…」
―――っと、やばっ!―――
真似しようとしたルカの股関節が外れたようだ。今村は立ち上がってルカの方に行くとゆっくり足を下ろさせて太腿を両手で掴むと一気に入れて関節を元通りにした。
「…よし。で、ちょっと悪いが…」
今村はそのままローブで足の付け根を触診する。
「ふぁうっ!くすぐったいです!」
―――関節は…大丈夫か。良かった。最悪こいつの介護に付きっきりで一か月位費やすことになるかと思った…―――
「…関節が緩んだりしてはないか…まぁすぐに入ってるし祓。一応『キュアモーラル』頼んだ。」
「…はい。」
祓は「キュアモーラル」を施した後、少し頑張ったら出来てしまったので褒められたが何となく悔しいようなそうでないような微妙な気持ちになった。
「それはおそらく無理です。」
月美は挑む前から諦めていたのでローブが動いた。
「まぁちょっと試しにやってみよう?」
「…い…いやちょっと…ってあぁぁああぁぁっ!い…痛いです!」
「…無理か。まぁでも大体分かった。」
しばらくすると月美は昇天しかけて体を痙攣させ始めたが今村はそれを軽くスルーした。
「じゃ、これを基に明日からのメニュー作るか。…さて、ところで3人。」
今村は3人を前にしてバインダーなどをローブにしまうと向き直った。ルカが顔をキラキラさせて今村に言った。
「お師匠様!ポイント溜まりましたよね!」
「…まぁ。…ってか本当にやるのか?って言うより少し待て、他二人にも説明を…」
「私がします!お師匠様は何らかのノルマを達成したらご褒美をくれるんです!因みにご褒美は溜めて後で使うこともできます!そして溜めてポイントを多くしたらご褒美のランクも上がるんです!」
興奮気味に二人にそう言ってルカは今村の方を上目遣いに見る。今村は頭を乱雑に掻いた。
「何でお前が説明したんだ?別にいいけど…」
「お師匠様はあっちへ行ったりこっちへ行ったりして話が進まないことがあるからです!」
「はっきり言ってくれやがって…」
苦笑する今村。そんな今村の心は今大量の思考に埋め尽くされていて読むことが出来なかった。
「あの…先生…ルカさんは何をご褒美に貰うんですか?」
「執事。」
「え?」
聞き間違えていなければ執事と言った気がしたのだがと思った祓は訊き返す。するとルカが輝くような笑みで祓に答えた。
「お師匠様を私の執事にする権利です!」
「あんまり無茶なことは聞かんからな?」
「勿論です!」
「え、それ何ポイントでできるんですか?」
「100。…でもあんまりしたくない。」
「長かった…女神の顔にキック入れたりして1ポイント1ポイント重ねてきてようやくここまで来た…」
大げさに泣く演技まで入れてくるルカ。何故か様になっている。
「え、女神の顔にキック入れればいいんですか?何回でも蹴りますよ?」
「お前は違う。各々難しいこととか嫌なことをさせた時にポイントが入る仕組み。因みに今回は相馬の餌だったので2ポイント。」
「101ですから執事ですよね!」
「…うん。まぁ何がお前をそこまで駆り立てるのか知らんが…そう言うことになるな。」
「ぃやったぁっ!」
喜ぶルカに対して冷静な月美が今村に訊く。
「2ポイントなら何が貰えるんですか?」
「ん~…結構いろいろ…因みにどんなことがいいんだ?」
「そうですね。…ご主人様の部屋の置物を一回全部撤去してもらいたいですね。」
「いいよ。『呪具招来』〈対侵入者用殺害グッズ〉及び〈対侵入者用毒物及び劇物〉」
今村がそう言うとローブが一瞬跳ねた。
「う…流石にちょっと邪魔いな…でも退けたぞ。」
「ありがとうございます。これで掃除ができるので…」
「…お前掃除好きだな…で、祓はどうする?」
今村の問いに祓は真剣に考える。考えに考えを重ねた結果。
「…とりあえず貯めておきます。」
「わかった。…そう言えば動体視力やってなかったな。」
ふと今村は思い出したが祓以外が帰りたそうにしているので諦めた。
「…さて、では失礼します。」
「ワープホール」を使用して元の世界に戻ってすぐ、月美は行動に移った。ルカも目を爛々とさせて今村を見ている。
「お師匠様!いつから執事ですか!?」
「…明日お前が起きてから12時まで。」
「わかりました!じゃあ早起きしたいんでもう寝ますね!あ、閉鎖空間に帰るんですか?それともこっちで執事になるんですか?」
「…こっちでいいよ面倒だし。」
ルカのハイテンションに対して今村のテンションは地を這うようだ。だがルカはそんなことを気にしない。
「では!部屋を借ります!」
「2階の奥の方が空いてると思うからそちらに行って下さい。」
「はーい!」
祓の案内に従って全力で駆け出すルカ。結果「幻夜の館」の廊下が大変なことになる。
「…あの馬鹿…『呪具招来』…」
「あ、大丈夫ですよ?勝手に直りますから。」
今村が廊下を直そうとすると祓が制した。祓の言葉を聞いて訝しげに思うが目の前の光景を見て納得する。
「…成程。便利だな…木造の理由はそれか…」
勝手に自己修復する館の廊下を見て今村はそう呟いた。
「…あの…」
じっと直ったところを見て魔方陣を覚えたりしている今村の袖を祓が引いた。
「ん?」
「私がポイントを貯めるとしたらどうしたらいいんですか?」
「ん~…」
考え込む今村。祓はそんな今村の思考にテレパスを使用する。
―――…俺を楽しませてくれればポイントはいくらでも渡していいんだが…なら相馬とくっついて欲しい…でもアレ完全に嫌われ役みたいになってたしなぁ~まぁでも最近そういう馬鹿少ないし逆に好感度上がるか…?いや、…祓は昔からそう言った思考を見せつけられてきたんだし嫌悪の方が…―――
途中から全く別の話に移動している今村の思考に祓は嘆息した。その溜息が聞こえたのだろう。今村の思考がポイントの方に戻った。
「…まぁとりあえず俺が何か頼みごとした時にポイントは言うな。それでいいだろ。」
「はい。」
「…じゃあお前がボコボコにした相馬の看病任せた。」
「何ポイントですか?」
「…いや…お前がやった後始末…」
「何ポイントですか?」
「…そんなに嫌か…」
今村はヤバいくっつけるどころの騒ぎじゃなくなってる…と思うながら苦笑する。
「あー…1だな…」
「わかりました。行ってきます。」
これから面倒臭そうだなと思いつつ今村は祓の後姿を見送った。
ここまでありがとうございます!
…訓練じゃなかったですね。




