4.悪巧み
「…何やらお考えのようですが、自己紹介をしてもよろしいですか?」
今村はメイド服を着た美少女の声掛けで現実に帰って来た。
「あ…あぁどうぞ?」
「失礼いたします。私は悪魔族の月美と申します。今村様のお付きとなりますので望むことなら何でもさせてもらいます。日常の業務としては掃除、ご主人様が「幻夜の館」にいる際のお風呂の補助、洗濯、食事、夜伽、その他雑務を申し付かっております。」
「洗濯以外要らんな…」
今村は呟いた。それに月美は微かに動揺したようだが表情には出さず続けた。
「…ご不満がおありなら仰っていただければ姿形は自在に変えることができます。あと処女ですが色々な技は…」
「…ん~…その辺は後で説明する。」
祓はその言葉に少なからず動揺した。少なくとも今村が月美を抱くなんてことは考えたくなかったのだ。そして結果心を見てしまう。
―――駄目だ。俺のアレに関しちゃ絶対に使用不可なんだよな~…最悪過ぎる媚薬だから…こんな弱い存在相手だと廃人になる。…というより弱い存在とかそう言う問題じゃねぇか…全異性に通じるから…アレだったしな。「呪式照符」の構想危険値ERRORだったしな。―――
そして今村の表情を伺うと何とも言えない顔をしていた。ついでにまだ思考が入ってくる。
―――まぁそれはそれとしても軽々しくヤるのは趣味じゃねぇしなぁ~古いかもしんねぇがこちとら爺なんでね。ヤるのは結婚した後。…無理か。―――
自身で無理と断定。そして話を元に戻しにかかった。
「で、メイドね。じゃあ用があったら声かけるわ。…で、そこの時代錯誤。」
今村はローブで折れた刀を見て未だに呆然としている痛い男を吊し上げて自身の目の前に連れて来た。
「お名前と幾つか言えるかな?」
「…名はない。『ソードマスター』を名乗るときに捨てた。
男はそう答えた仕方がないので今村は顎に手をやって少し考えてみる。
「…じゃあ略して相馬で、歳は?」
「今年成人した。」
「15か。」
(オッケー祓と一つ違い。十分十分。)
その心の声はもちろん祓にも届いている。今村はそこで自分の紹介を始める。
「俺は今村。…別に言いたいことはないな。」
訂正。名乗った。良い玩具を見つけたとはいえ寝不足で寝起きなのであまり気分が乗らないようだ。そして祓に目線を送る。
「…天明祓。私も特に言いたいことはないけど…あなた達に興味はないからあまり目の前をうろつかないで。」
祓は今村の策に予防線を張っておく。
―――珍しい。初対面から気に入らないって…何らかの感情を持つってことは脈ありか…?―――
だが今村の解釈は斜め上を行っていた。祓は微かに眉を顰めると何かを思いついたかのように今村の方に近付き、腕を絡めた。そして上目遣いで今村を見る。
―――何だこいつ。―――
今村はそうとしか思わなかったようだ。遅れて、
―――人見知りとかするタイプだったか…?いや…俺は初対面であんなだったしな…―――
今村の脳裏に思い出される祓の姿を見た祓は赤面を禁じ得なかった。
(…こんなんだったから…今の私が苦労する…)
自身の感情無しで接近を強要する姿を客観視して軽く苛立つ。だがそこでふと思う。
(…じゃあどうすればいいんだろう…)
初恋、周りに人がいなかった祓には相談する相手もいないし今信頼して話せるのは初恋の相手だけだ。流石に本人に訊くのはどうかと思う。
(…こいつは何やってるんかね。まぁいいけど…)
「さて、相馬はいつまでもメソメソするな。試作品くれてやる」
今村は祓が離れないので2階にローブを伸ばして家探しさせると刀を持ってきた。
「ほれ、試作品だが結構いい感じに仕上がってる。」
相馬は刀を取り刃を見ると目を見開いて震える声で尋ねた。
「こ…これは…何と言う銘の刀ですか…?」
「…特に考えてない。出来が微妙だしな。」
「こ…これを頂いてもいいので…?」
何故か敬語になっている相馬の問いに今村は適当に頷いた。
「おぉ…こんなにいい刀を…よし、名が無いなら『ソードマスター改』と…」
(…それは止めてほしいなぁ…)
興奮している相馬を微妙な目で見ていると月美が祓の居ない方から今村に声を掛けて来た。
「スミマセンが今からここに着いたことと契約内容についてアラストール様に報告に行ってまいります。」
「…相馬はいるのか?」
「おそらく。許可無しにこの学園に入っているわけではないでしょうし…」
刀にキスをしている相馬を引き気味に見ながら今村は顔を近づけて月美と小声で相談する。そうすると逆方向から腕を引かれた。
「…何?」
今村がそちらを見ると少し不機嫌そうな顔をしている祓。だが何も言わない。何だこいつ…と思いつつ顔を月美の方に戻し、話を続ける。
「あのどっか逝ってる奴…任せた。」
「初仕事ですね…」
「嫌な初仕事だなおい。」
苦笑いする二人。それを見て祓はますます不機嫌になって行く。
(…私と話していてもそんな風に笑ってくれないのに…)
祓と今村は普段そんなに話をすることがなく、事務処理のような会話しかしていないのだ。
(…もやもやする…ルカと言う人と知らない間に仲良くなっていたときと同じ…私の方が長い間一緒だったのに…)
そんな祓の胸中など知らず今村はへらへら祓と相馬をくっ付けようとするのだ。今も心の一部では策を張り巡らせている。
(っつ…先生は一体どんな頭をして…)
更に思考が増えて祓では処理できなくなり、テレパスを切ってしまう。そうすると相談は固まったようだ。
「じゃあ相馬!痛い思いしたくなかったら自力で理事長室に行け!」
「そんなこと言われなくても刀の恩がある今村さんの命令には従いますよ!」
「えっ…じゃあ…案内しますので…」
拍子抜けしたらしい月美と今村。そんなことを知らない相馬は月美について「幻夜の館」を後にした。そして今村は呟く。
「ちょろっ…」
「…白水様。失礼いたします。」
理事長室に月美が行くと理事長は偉そうに椅子に深く腰掛けていた。
「…遅かったですね。」
そう言って軽い威圧を放つ。これが理事長の裏の顔だが正直先程いた今村に遭ってからでは何の痛痒も感じない。寧ろ相馬に至っては刀の試し切りが出来るか…?などと考えた。
「…到着してすぐに今村様に縛り上げられましたので…」
「…それは…」
何とも言えない雰囲気になるこの場。理事長は咳払いして雰囲気を作り直して話を進めることにした。
「…『ソードマスター』君だったね?君は…」
「あ、さっき今村さんに相馬って名前を貰ったんでそっちで。」
せっかく作った雰囲気をまたぶち壊された。そして理事長は諦める。
「あ~何か報告書にあった性格とはずいぶん違うみたいですけど…?」
「まぁ自分が井の中の蛙って知ったんで…」
少し恥ずかしげに答える相馬。「それに」と付け加える。
「いや…それに完璧に負けたのに言い訳するとか恰好悪いじゃないですか。そんな姿可愛い子の前で見せられないですよ。…まぁあの子は今村さんに惚れてるみたいでしたけどやっぱそれでも男ならいい顔見せたいですよね。」
「…可愛い子?」
「えぇ…確か天明祓って…」
「天明祓!?」
理事長はいつもの作った口調を忘れて叫び、立ち上がった。
「…月美。今村君を呼んできてください。」
理事長は動揺を押し殺しつつ席に着いてそう言った。
ここまでありがとうございました!




