3.新入り
「…ここがそうか…」
「…ここですね。」
朝早く、「幻夜の館」を訪れる二人の姿があった。片方は腰に二振りの刀を携えた黒髪短髪のイケメン。そしてもう一方はメイド服に身を包んだ黒髪ストレート、赤目の美少女だ。
そんな二人は入り口付近で顔を見合わせていた。
「…?お前が俺を越えるという『今村』という人か?」
「…『今村』様なら私がこれから仕える方ですが…」
どちらも今村に用があるようでとりあえずは中に入ることにした。
「たのもう!」
「失礼いたします…」
威勢のいい声と礼儀正しい声が混じって誰もいないホールに反響する。すると2階からこの世のものとは思えない美少女が現れた。
例えるなら雪の化身。白髪に白い肌。そして大きな空色の目で見られた男は瞬時に固まった。そして女が睥睨して隣のメイド服の美少女を見ると形のいい眉を顰めたようだ。
「…今何時だと思っているのですか…?5時ですよ?」
白髪の美少女は澄んだ綺麗な声で訪問者にそう告げた。刀を差した美青年の方は何も言えない状態で、メイドの方が一歩前に出て言い返した。
「…これは失礼いたしました。私は今日よりこの館に仕えさせていただく月美と申します。今日から全館の掃除、また主様である今村様のお世話をさせていただくに当たって準備をする為このような早朝の来訪となりました。…失礼ですがあなたは…」
メイドが白髪の美少女の素性を訪ねる。その次の瞬間、2階の別の部屋のドアが勢いよく開かれて黒い髪をぼさぼさにした人が出て来た。
「うるっさいわボケェッ!ぶちのめすぞゴラァッ!」
男は出て来るや否やそう大声で叫ぶと「αモード」と呟いて2階の手摺にローブをかけて飛び降りた。そして―――
「『グレイプニル』っ!…これでいい。『αモード』解除…寝る。」
訪問客を鈍く金に輝く鎖で縛り上げて口にも猿轡を噛ますとそのままローブに掴まって上に上がって部屋に帰って行った。
「フグ…はひほ…」
もがく二人に白髪の美少女―――祓は告げた。
「…先生は3時頃まで何か作っていたみたいなので寝不足なんですよ。しばらく静かにしていてくださいね。」
そう言って二人を放って置いたまま自身も部屋に帰って行った。
「…何だこれ…」
今村は起きて部屋から出るとメイド服を着た美少女と刀を差し、浅黄色の着物を着た時代錯誤の美青年が玄関先で縛られているのを発見した。
「…コスプレして縛られて…今日はここでそんな趣味の持ち主のパーティーが…?」
それなら巻き込まれたくないし、今日は久し振りに教室でも行こうかな…と思っていると祓が部屋から出て来て今村の方に来た。
「おはようございます。朝食いかがですか?」
疑問形だが断られるとは思っていない柔らかい口調で今村に尋ねる。今村もそれを断るということはしない。実家の朝食は今頃式神のエネルギーになっているだろうからだ。
「うん。くれるなら。」
「じゃあ部屋に…」
祓が今村を招こうとした時、下の階の男の方が激しく悶えはじめた。
「うおっ…興奮するようなことでもあったんか!?それとも…見られて興奮してイった…いや、何でもない。何も見ていないな俺は。」
ひどい扱いだ。それが聞こえたのか下の階の男も激しくのた打ち回った。今村はそれを見て何やら思案しているようだったので祓は少し覗いてみることにする。
―――もしかして何かの持病を持っていながらもこのパーティーに出るために頑張って出て来たとか…?今壮絶にのた打ち回ってでもここに来る意味が…?―――
祓は自分で縛り上げたのを覚えていないのか…と思いつつも朝食が冷める方が個人的に問題だったのでそっとしておくことにした。
食事後。流石に触れないで置くにも問題がありそうだと感じた今村はとりあえず縛られているのを解くと理不尽な怒りに遭うかもしれないと猿轡だけ外してコミュニケーションを図ろうと試みた。
「…え~と、君たちが何故縛られてここに居たのかは触れないでおくが。」
まず今村はそう前置きして話を続けようとした。だが、着物姿の男が今村に猛反論した。
「縛ったのはお前だろ!」
突然。今村は重苦しい殺気を放った。
「…テメェにお前呼ばわりされる筋合いはねぇぞ…?」
「ウグッ…」
寝不足でご機嫌斜めらしい。そんなことで八つ当たりされたとも知らない縛り上げられた二人は震え上がった。今村は若干不満を残しつつ続ける。
「とりあえずさっき祓に訊いたがお前らのことは知らないらしい。それに縛られるのが趣味の奴らが集うパーティーもやってないとのことだ。」
勝手にM判定を受けて反論したいが先程受けた殺気のせいで反論し辛い。そこで今村の後ろから声がかかった。
「片付けが終わって来ましたが…この人たちを縛り上げたのは先生ですよ…?」
「…あ~俺ね。…俺?何で?」
完全に覚えていないことなので今村は祓にどういうことか尋ねる。祓は出来る限りしっかりと説明した。今村もその内容で頷く。
「成程。5時に来て五月蠅かったから縛り上げたと。」
「今が8時くらいですから3時間近く縛られてますね。」
祓が付け加えると今村は首を傾げる。
「…何で解いてあげなかったの?」
「解いたら五月蠅そうだったので。それに常識を知らない方々だったようでしたので解く必要もないかな…と。」
実際の所祓からしてみれば今村以外のために動く気がないので、知らない人を助けるよりも今村の安眠を助けるの方に重きを置いた結果、解かなかった。
「…ふ~ん…まぁどっちにしても解けなかっただろうしね…『グレイプニル』おいで。」
今村が手をかざすと二人を縛っていた鎖が今村の手元に向かい、そしてローブに消えていった。二人が身体の自由を確保した後とった行動は対照的だった。
「『剣神王一閃』!」
着物の男は今村に斬りかかって来た。今村はそれを何とも言えない表情で見る。
「…痛い。」
呪刀の刃が触れるとバターの様に斬れた刀の刃が落ちた反響音が鳴り響く玄関口で今村はそう呟いた。
「な…俺は『ソードマスター』と…」
「痛い。…ん?何か聞いたことあるな…あ!そーだそーだ思い出した!殺せって言われてたんだ…あ!ついでに思い出した。メイドも来るって言ってたな…昨日。」
愕然としている着物の男に生暖かい目を向けたかと思うと呪刀を肩にかけて思い出した今村。そして斬りかかって来た男とは違い一瞬で恭順の意を示し腰を折っているメイド服の女を見る。
「どーもどーも。昨日聞かされたばかりで今日来るとか聞いてなかったからね。文句はあの腐れ理事に言って。」
その言葉にメイド服を着た美少女は顔を引き攣らせ呟いた。
「…アラストール様に…そんな口を叩けば…いや、でもここに来るときにアラストール様は最大の敬意を払えって…」
「まぁあいつが雇ったんだし俺はあんまり口を出すつもりはない…が、仕事はやってね。」
そう言うと今村は未だ愕然としている痛い男の方を見た。そして少し考え込んでいるようで、祓は気になったので見てみた。
―――こいつなら調教次第で祓と良い感じになれるんじゃ…顔も良いし、能力的にも結構まだ入る…性格はまぁお話次第でどうにでもなる。それよりも、こいつ自身が祓に一目惚れしてるっぽいしな。―――
「え…」
祓は今村が本気なのを見て声を漏らした。だが本人は歪んだ笑みを浮かべて全力で試行中なので気付いていないようだった。
―――さぁ…作戦開始だ。―――
今村の思考の声が祓の頭に響いた。
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