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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第三章~異世界その1~
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14.異世界1から帰る

「…で?どういうことなんですか?」


 料理が並んだところで祓は今村の横に座り今村に尋ねた。


「…どこから説明すればいい?ルゥリンに刺されても大丈夫だった点か?」

「全てお願いします。」


 一同の視線が今村に集中する。今村はあさっての方向を向きながら答えた。


「刺されたのは俺じゃない。木偶だよ。で、俺自身は『王・行方不知ゆくえしれず』でちょいと閉鎖空間に飛んでた。」

「…それで一瞬『氣』が消えるけど驚かないように言ったわけですね?」


 祓の言葉に戦場にいた元同級生とルカが固まる。


「…え?ってことは…今村は刺される前提で戦場に…?」

「…まぁそういうことになる。因みに『王・行方不知』はあんまり細かい座標設定ができないからナイフの刃の部分は飛んだ。…それに違和感を持たれないようにちょっとルゥリンの前で俺の体液についてしゃべっておいたんだがな。」


 縛られているルゥリンの方をちらっと見るとルゥリンは憎々しそうな顔でこちらを睨んでいた。今村は肩を竦める。


「で、隙を作ってやってさくっと。…まさか自分が裏切ることを知っていてわざと隙を作るなんて思ってもいない馬鹿王女は油断した!好機!とばかりに俺を刺したわけ。で、こっちからしてみれば自分でタイミングを作るんだからまず失敗はないわけ。」


 今村は食事を続けながら微妙に得意げにそう言った。ルカは難しい顔で今村に訊く。


「…お師匠様はいつからルゥリンさんが裏切るって思ってたんですか?」

「最初から。ってか、お前は知らんだろうが王女であることもこいつらに知らせてなかったみたいだし。実際にことを起こそうとした時に止めて来たし。」


 今村は初めて革命軍と合流した時にいた元同級生の言葉や訓練を終えた後の奇襲に反対したルゥリンのことを思い出しながらそう言って笑った。


「まぁそんな小さなことよりもこいつが能力ワープホールで敵軍に頻繁に通い出したのと。あと、この世界に転移する時の召喚陣の対象を見ればすぐにわかった。…というより多分あれ間違ってるんだよな。」


 その言葉にルゥリンの横に転がされた女神の目が見開かれる。


「ロストワードの一つで『強く、軍略に富みし裏切られ慣れている者』ってあったんだが…多分この文の『裏切られ慣れている者』は基本動詞抜いて『裏切り慣れている者』なんだよね~…どう?」


 突然講義を始め、全員に見えるようにモニターを出して女神に確認した今村。誰もその文字は読めなかったが唯一女神は顔を赤く染めた。


「図星っと。…で、おそらく目的は今のローゼンリッターどもが治める世界に反感を持つ者のあぶり出し、そしてそれが程よく集まったところで皆殺しだな。そん時に率いるものが裏切れば難なく目的達成と。」


 全員が黙って聞いている中今村は楽しげに続けた。


「だがその目論見は滅茶苦茶な化け物の到来で崩壊した。…何せ初日で城を落とすは人が集まる前に首都落としに行くわ。…これなら裏切るまでもなくこの化け物は世界を手に入れる…その前に殺さないと!ってことで今回の事件が起きました。」


 今村はそう言って酒をあおった。そして続ける。


「以上推測でした。…さて、答えはどうかな?『ドレインキューブ』」


 今村は記憶を吸い取りにかかった。そして答え合わせを済ませるとそれを返す。


「…80点か。目的に一つ追加。この戦いで今のロリの王族皆殺しの予定だったらしい。ルゥリン独裁政治が目標の一つだったか…」

「…何で…そこまで分かっててこの世界に…」


 女神が呻くように呟いた。隣にいるルゥリンですら聞き取れないほどの音量だったのにもかかわらず今村は普通に聞き取って答えを返す。


「あぁ、どうせどこにいても結果裏切られるんだし。面白そうなところだったからな。まぁ…本がないし娯楽無くて期待すら裏切られた形になってるが…まぁしゃあない。」


 何でもない事の様に言ってのける今村。それを横にいる祓が腕を引いて諌めた。


「…私は裏切りません。」


 今村は一瞬目を細めたが笑った。


「はっは!期待しておくよ。」


 口調はあくまでも軽く、その目には見ていた祓が思わず目を背けたくなるような狂気が宿っていた。


(何で…?少しも信じてない…寧ろ怒ってる…?)


「…それはいいとして、何で死んだふりをしたのか説明がないんだけど…」


 微妙に白けた雰囲気の場でおずおずと小野が手を挙げて発言する。今村はあぁと言ってから答えた。


「これも簡単。これまで全部おれの命令に従って動いたけど俺帰るから次に指導者がいるからね。有能な奴を上に据えたが言いなりで動く奴が指導者じゃ駄目だろ?だから俺が死ぬことにして咄嗟に判断できる奴を探した。」

「…それで混乱して多くの人が死んだ…」


 小野は今村の行動に躊躇いがちに反論をしようとするが今村は最後まで言わせなかった。


「普通戦争って多くの死人が出るんだよ。…今回は俺がいて死者は限りなく0に近付けたが…これはおかしい事なんだぞ?敵だけが死んで味方は死なない。そんなことがあり得るわけないだろ。死は平等だ。…で、その件で一個。美川と小野は俺の『夜壊傀儡』に助けてもらったんだから貸一、蜂須賀は戦闘自体から遠ざけてやったんだからこっちも貸一な。」


 元同級生たちは何も言うことが出来なかった。今村は次にルカの方を向く。


「…もうすぐ帰るつもりで、お前たちとは別れる予定だったんだが…」


 今村の言葉に悲痛な顔になるルカ。今村は険しい顔つきで続けた。


「…3軍の2000とお前に関しちゃ訓練が足りなかったらしい。2000はここでの貴重な戦力で連れて行けないからローシに任せるが…お前は『円武術』をやらせてるし俺が鍛えるしかあるまい…」

「え!?」

「閉鎖空間に入ってろ。これから修行のやり直しだ…地獄を見せてやる。」


 今村の歪んだ笑みにルカは顔を明るくさせて頷いた。


「はいっ!」

「…何で嬉しそう…」


 今村は満面の笑みを浮かべているルカに変な扉を開いたか…?と疑惑の眼差しを向けた後、祓の方を見た。


「…あんまり楽しくなかったみたいだが…残るか?」

「残りませんよ…」

「…だよな。」


 一応聞いただけだったらしい。今村は次にルゥリンの方に近付いて行く。そして歪んだ笑みを浮かべながら頭に手を置いた。


「さて、行こうか。…『呪眼』」


 今村の目に無数の文字と幾何学文様が浮かび上がり、妖しく光りはじめる。ルゥリンはそれから逃れようと必死に体をじたばたさせようとするが縛られていて動けない。


「…よっし。後は…今回の功労者に任せるかね。『ドレインキューブ』」


 今村は封印術式を施していた札から呪力を取り戻した。その途端ルゥリンの顔に邪悪な笑みが浮かび上がる


「っ!先生何で…」


 祓がルゥリンが逃げることを阻止しようと縄を掴む。だがルゥリンは驚愕の顔を浮かべるばかりで能力を扱えなかった。


「探し物はなんだ?…『ワープホール』…見つけにくいものなら俺も探すの手伝うが…?」


 今村が底意地の悪い笑顔を浮かべてルゥリンを見下ろす。その横には黒い穴が。ルゥリンはそれを呆然と眺める。


「…あぁ。これ?『ワープホール』って技。クックック…便利でなぁ…で、何を探してるんだ?移動も楽だし手伝わないこともないが…」


 ルゥリンは涙目で今村を睨みつける。そこに盛大に着飾った2軍隊長の姿が現れる。


「…似合わんな…」

「はっ…何分こういったものを着るのは初めてでして…それで御用とは…?」

「はい魔力糸でこれ、操り人形にしていいよ。」


 今村はルゥリンを指さす。そのついでに口の猿轡を爪を伸ばして断ち切る。


「あ、ルゥリン自害したかったらもうしてもいいよ。今から死んでももう遅いから。で、この状況の説明するぞ。」


 混乱している2軍隊長に今村は簡潔に説明する。


「今流してる情報は嘘。ルゥリンは演技で俺を殺しに来たわけじゃねぇ。ガチで俺を殺しに来てた。」

「なっ…はぁ…?」


 唐突な言葉に2軍隊長は混乱する。今まで聞いていた情報と違うからだ。今村は顔色一つ変えず続ける。


「で、何で態々嘘の情報を流したかと言うとこれから傀儡政権作るんだがそのシンボル。」

「す…少しお待ちください…」


 2軍隊長は少し顔を伏せて今村の方を向いた。


「…つまり、相手を挑発するのが元々の策で、今村様が死んだとの演技はイレギュラーだったと…?」

「…まぁ正直に言うなら演技は本来の策で挑発はお前等に対するダミーだったんだが…」


 ややこしいかなと思いつつ今村はそう言った。だが2軍隊長はすぐに理解してくれたらしい。


「…つまり、死んだ演技で敵を騙して味方も騙した。そして今流れている死んだ演技自体は策と言うのはまた我々を騙しているのですね?…何故ですか?」

「人材の篩い分けとそこの神ごと騙すため。」


 ここまでの説明で彼は理解したようだ。今村が有能と銘打っただけある。その後色々細かい打ち合わせをしていると祓が今村の方にルゥリンを持ってやって来た。


「…先生…私この人が許せないんですが…殺さないつもりなんですか…?」


 話の流れを聞いていた祓が殺されないとわかって抵抗しないルゥリンを吊し上げる。今村は苦笑いでそれを見た。


「怖い怖い。たかが俺を殺そうとしただけじゃねぇか。殺されるどころか褒められることだぞ?…まぁ俺は褒めないがなぁ…」


 寧ろ褒めるとおかしい。そんな自身を軽んじる発言に祓は感情が高ぶる。


「何っで…何でそんなことを言うんですか…」

「はいはいその辺はどうでもいいから。で、ルゥリンは俺を殺したと思って油断したところに術式かけといたから魔力は一生入らない。『傀儡化』は楽だよ。その後は何してもいい。ただローゼンリッターじゃない奴との子供が出来るまで殺すな。」

「…はっ。」


 そこまで聞いて2軍隊長はルゥリンに近付いた。ルゥリンは祓に吊るされたまま今村に命乞いを始める。が、今村は無視。女神の方を向く。


「ここから出る。…許可を出せ。嫌なら俺が手伝ってやるよ。『マリオネットデイズ』…」

「ヒィッ!すぐに出します!」


 今村の左手に黒い蛇のような力が漂い始めると女神はすぐに今村に従った。

 そしてすぐに準備は整ったようだ。


「じゃあ帰るか。…後はよろしく。ここにある食べ物は自由に。これ位の世界間だったら連絡はこの呪具で簡単に取れるから。じゃあ皆行くぞ『ワープホール』」


 こうして今村の今世初めての異世界旅行は終了した。




 ここまでありがとうございます!


 大規模戦争についてはまた今度書きます。…大分後になりますが今村君は三国志(?)の世界に行きます。こっちもあんまり真面目じゃないですが、今回のより真面目です。


 それではこれからもよろしくお願いします。

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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