3.魔神大帝
「…ふむ。要するにロリどもを撲滅したらいいんだな?」
説明を聞いた今村はローゼンリッターをロリと略し、微妙な視線を受ける。
「い…今村?その略し方は…」
先程恐ろしい目に遭ったはずの小野がいの一番に今村に控えめに突っ込みを入れた。そのメンタルには今村以外の皆が驚く。当の今村はそんなに気にしないで続けた。
「…まぁいいじゃん。で、その中のロリコンエルモソを潰せばいいわけね。」
「…何でロリコン断定…」
攻撃されないと分かった美川が今村に突っ込みを入れた。今村はしれっと言う。
「ローゼンリッターぜんこくしれいほんぶ統括長エルモソだろ?何か間違ってるか?」
「…悪意しか感じないな。」
「それに実際ルゥリン追っかけ続けてんだろ?アウト判定だろ。」
全員の目がルゥリンに集まる。そして皆が納得した。
「「「アウトで」」」
「だろ?」
「ふぇ?何となく酷い事言われてる気がするです…」
「?待て。」
ルゥランの言葉に今村の眉が跳ね上がる。
「…ロリータコンプレックスを知らんのか…?」
「ふぇ…?」
「…つまりこの世界に軽めの本はないと…」
「な…何言ってるの?」
周囲の話を全く無視して今村は考察していく。
「ボケ全の奴をぶっ殺した世界からできてるはずだからナボコフの作品はあるはず…ないわけがない。…だよな?」
ルゥリンに訊いてみる。ルゥリンは首を傾げた。
「なぼこふって誰ですか?」
「ちっ…アホ王女が…まぁいい。ここにある本ってどんなのだ?」
悪態をついて今村は周りの人に訊いてみる。だが皆も顔を見合わせる。
「本ってあったっけ…?」
「こっちに来てから訓練しかしてないからな…」
「と言うよりルゥリンって王女…?幼女の間違いじゃ…」
今村はルゥリンに視線を合わせた。ルゥリンはあわあわしながら今村の問いに答える。
「え…えっとですね…本は紙が貴重なので…」
「…最悪…文化レベル的にゲームもないだろうし…ファンタジー要素もすっくねぇし…ここに定住は無理…終わったら帰ろ…」
ここはあんまり面白くなさそうだな…と思った今村はさっさと戦争を終えることに決めた。
「…じゃあもう滅ぼすか…」
尋常じゃない氣が辺りを包み、敵対していないはずの四人すら死を覚悟した。そこに何事かと人が来た。
「ローシ先生!」
厳めしい古強者の風貌をした男が現れルゥリンが安堵の声を漏らす。そんなルゥリンに対してローシと呼ばれた男は顔を真っ青にしている。
「魔…魔神大帝様…」
「ちょい待てぃ!な…何でその名を…」
今村の氣が消し飛んだ。ローシの方は無言で五体投地を実行しながら話す。
「やはり魔神大帝様ですか…ご再臨なされて…昔、あの戦争の際にご尊顔を…」
「…似てねぇと思うけど…」
今の今村は前世と違って不細工だ。濁った眼位しか似ていない。そこの部分に今村が冷静に突っ込むが彼には関係ないようだ。
「氣の質です!」
「…今の状態じゃ前の1厘位しかない筈だけど?」
「それでもその量が分からなければ同じです!」
千分の一くらいの力でも構わないらしい。そんな彼の状態に周りの人々はドン引きだ。
「え…っと?今村…魔神大帝…?」
「言っとくけど自称は一回もしてないからな!?」
「我々が尊敬する仁様に厚かましくも付けさせて頂いた二つ名だ。虫けらども。そしておそらく今村様とは仁様のファミリーネームだな?…何気安く呼んでやがるこのゴミどもがぁっ!」
一気に雰囲気を変えて今村以外の全員を睨みつける。―――五体投地のままで。
その状態には皆が引いた。
「…それでどうなさったのですか?こやつらが無礼を?それならば魔神大帝様がお手を煩わせることはありませんよ?」
五体投地のままローシ君は今村に問いかける。今村は首を振った。
「いや…戦争しろって言って来るからちょっと偉そうな奴を殺って来よっかなって。」
「私めがやって参ります!いえ!やらせてください!」
「…やり辛いなぁ。」
「はっ!申し訳ありません!死んで詫びます!」
「…いらんいらん。全く…やる気を削がれたなぁ…」
そこで初めて今村は周りの空気に気付いた。
「え?どした?」
「…ローシさんは…俺たちの師匠で…とても厳しい…あれ?」
「ローシ様は今回だけ特別に招いている中立を保ち続けた最強のギルドの長…」
「い…今村って「様はどうした小娘ぇっ!」ひぃっ!今村様っていったい何者…」
「と…とにかく今村様…ローシ師匠を立たせて「この方を前に立つなんぞ俺にできるわけないだろうが!」あげて…」
尽くローシに台詞を潰される元同級生たち。今村は溜息をついてローシに命令した。
「立て。命令だ。」
「はっ!傀儡越しでない直接の命令!感謝の念に堪えません!」
「…号泣してる…」
さらに引く周り。とりあえず話が進まないので今村はローシに退場を命じた。
「…魔神大帝って…中二臭い…」
小野の言葉でものすごいダメージを負う今村。それでも反論した。
「だから俺が創った名前じゃない…俺を崇めてた奴らが勝手に…」
「それにしても…ローシ師匠とどこで…?」
「知らんけど…多分前世。あの呼び名を知ってるのは全って奴と戦った時の自軍だ。…まぁ敵軍も知ってたみたいだが…」
昔のことを軽く思い出して軽く頭を抱える今村。
「で!それはいい!少なくとももう自分で殲滅は…少ししかしない。」
少しはするのかと思う4人。今村は少し考えてから言った。
「…まぁ今回は軍師役やるよ。さぁて…今村式軍隊訓練はっじまっるよー!ルゥリン召喚陣に書いたぐらいだ。軍略使うことが出来るぐらいにはいるよなぁ?」
「ふぇ?も…勿論です!で…ですけど、仁様…軍師できるですか…?」
「まぁ…5000万体は動かしたが…あれは補佐いたしな…俺一人なら…その十分の一かな?」
「ご…ごめんなさいです…1万人もいませんです…」
桁違いの話にルゥリンは恐縮する。今村は少し難しい顔をした。
「…敵に会ったことないが…自軍と比べてどうなの?」
「…ローゼンリッター正規軍は神々の子孫ですから比べ物にならない位強いです…」
それを聞いた今村の笑みは筆舌に尽くし難いものだった。
「…じゃあ…いいよね…ルゥリン…全軍集めろ…」
その雰囲気には誰も逆らうことはできなかった。ルゥリンはすぐに全軍を一堂に集め始めた。
三十分後、大きなドーム状の部屋に男たちが犇めき合っていた。そこで今村はにっこり笑って呟く。そこにルゥリンが来た。
「仁様…これで全員です…」
「『我が世よ開け…彼らに七難八苦を与える場を…』…え?」
今村と元同級生、それとルゥリン以外のドームの部屋から全員消えた。今村はにこやかに残った人たちに伝える。
「…さて、30分後に手近な城でも落としますか。」
「皆さんをどこにやったですか~!?」
ルゥリンが涙目で今村に訴えかける。今村は呪具の紅茶セットのようなものを出して優雅にお茶会を始めて言った。
「じゃあその30分間で苦労話でも聞かせてくれ…あぁ飲み物は自分で用意してくれ…常人がこれ飲むと多分死ぬから。」
ここまでありがとうございました!




