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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二章~最初の一年後半戦~
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4.八つ当たり

(…何故俺は三賀日すら学校に行かされるのか…事と次第によってはあのくそ理事殺す。)


 今村は1月3日に理事長に呼び出しを受けていた。それで気を悪くしていた今村は殺意をばらまきながら自転車で学校に向かう。


(あ~やる気でねぇ。帰りてぇ…)


 学校に着くと今村は理事長室に直行し、部屋に入った。


「…今村君。来ましたか。」

「何か用ですか?アラストール先生。」


 その言葉に理事長はほんの一瞬だけ固まった。


「…何を言ってるんですか?」

「あなたの種族ですけど悪魔長。で、そんなことはどうでもいいんで、早く要件を言ってもらえませんか?」


 どうでもよくはないことを平然と言ってのけるものすごい棘まみれの今村。一方の理事長はばれたく無かったことを面と向かって言われて汗まみれに答える。


「え~…ちょっと祓君と初詣に…」

「空調は壊れてないようですけど、どうしたんですか?あと、何で俺が初詣に?…大体何か叶えたいことがあるなら創造神に直接言いに行くんですけど?」


 行く気なしの今村は容赦なく疑問点を突き付ける。それに初詣ならすでに二日の時点で済ませている。とも加えた。理事長は苦虫を口いっぱいに噛み潰したような顔をする。そんな理事長を見て今村は諦めた。


「…はぁ。経費はそっち持ち、現金寄越せ。」


 端的に敬語もなしでそれだけ伝えると生徒に敬語を使われていないというのに理事長は一気に顔を明るくさせ、現金を渡した。それを受け取り今村は退出する。理事長は一人呟いた。


「何故私がこんな目に…それに祓君に自我が芽生えたのは良いことなんですが…今村君のことを好きになられては…今村君が何とも思っていないのが救いですがね…」


 色々な難題に頭を抱えて理事長は書類に目を落とした。












「あ、理事長に新しい先生のこと言うの忘れてた。」


 理事長を苛めて少し心にゆとりを取り戻した今村は「幻夜げんやの館」に行く途中でこの前した約束を思い出した。だが、代わりの人間を見つけていないのでまあいいかということにして歩を進める。すると薄い山吹色の着物を着ていつもより艶やかになっていた祓が今村を出迎えた。


「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしますね。」

「あぁ暮れましておめでとう。…そんなことはどうでもいいが。お前『氣』の流れがおかしいぞ?」


 挨拶もそこそこに着物姿を褒めることもなく今村は祓にそう指摘した。祓は少し驚きつつも今村の問いかけに答える。


「えぇ。でも大丈夫です…早く行きませんか?」

「却下。とりあえず治療だな。『飛髪ひはつ操衣そうい』」


 今村は問答無用で祓をローブで縛って抵抗できなくして担ぎ上げると館の中に入った。


「さて、『呪式照符じゅしきしょうふ』…ふむ。発熱、悪寒、眩暈、幻覚ってとこか。これじゃ初詣どころじゃないと思うんだが?」

「大丈夫です。」


 今村の質問にベッドに貼り付けにされた祓は気丈に答える。今村は全く祓を見ずに呪式照符の内容を読んでいく。


「フェデラシオンじゃ治せなかった病ねぇ…キュアモーラルは外傷専門だから効かないし…」

「行きましょう…」

「うるさい黙れ。五分待ってろ。」


 今村は若干キレ気味になると祓の部屋を出て行った。

 そして五分後、今村は実に良い顔で湯呑に何かを入れて帰ってきた。


「出来た出来た…」

「…何ですかこれ…」


 湯呑の中では濃緑色のドロッとした何かが異臭を発しながら泡立っていた。


「薬湯!苦くて不味いし飲むとやってられない気分になって時には死にたくなる奴もいた気がするが…まずその病は治る。」

「…えっと…」


 それは今罹っている病よりも危険な状態なのではないかと思う祓だったが今村はローブで祓の上体を少し起こすと容赦なくしかしゆっくりとそれを口に流し込んだ。


「さあ飲め」

「んぐっ…」


 まず祓を襲ったのは強烈な酸味、レモン百個分はありそうな酸味に舌を焼かれる気分を味わった後、次に来たのは苦味だった。

 洒落になっていないその苦味は祓から正気を奪い、体は今までに負った精神的苦痛からか現実からの脱却を図らせようと強制的に苦味などを無視して祓を眠らせようとする。だが次にやって来たものが祓を寝かせない。

 辛味だ。ハバネロが飴の様に甘く感じさせるその激烈な辛みは最早味ではなく単なる痛みとなって祓の口内を襲い、祓を嫌でも覚醒させた。


 そんな物体を飲まされた祓は薬という名の劇物を咳込んで吐き出しそうになるが今村はそれを許さない。ニッコニッコしながら「マリオネットデイズ」といって湯呑を支える手の片方をローブに任せて左手を何かの形を象ったものにすると祓に何らかの術をかけた。祓はその瞬間口の機能を奪われ、味だけが脳に伝わる。

 いや味だけではない、次に強烈な生臭さが祓を襲った。怨みでもあるのかと思って祓はその空色の美しい目を涙目にして今村の方に向けるがその視線に気づいた今村はにっこり笑って視線に答えた。


「今お前が罹ってる毎年1月に起きるフェデラシオンの名医の誰もが直せなかったこの病気はお前の中にある高エネルギー体がお前自体の素体に侵食することによって起きるんだ~…で、今飲んでるお薬はそれをしっちゃかめっちゃかにして散らすタイプのもの。だからすご~く短期で治るよ~」


 今村は説明中とても良い顔をしていた。そんな気休めにもならない説明を受けている祓の口の中には新たな感覚が来ていた。

 甘味だ。暴力的に何の意味もなさない唯々甘いだけのそれ。そしてその甘味が来ると何故か今まで感じたすべての味が復活し、それら全ての味が混ざり合って訳の分からない、知りたくもなかった最悪のハーモニーを祓の舌の上で奏で、その曲に合わせて匂いが踊り狂う。その新感覚が来るころには今村の言う「高エネルギー体」が断末魔を上げているのか祓の体が痙攣し始め、祓の目の焦点が合わなくなっていた。




 そしてそんな数分間に及ぶ―――祓にとっては永遠とも感じられる―――治療が終わった。そして飲み終わらせたのを見て今村は「マリオネットデイズ」を解き、湯呑を手元に返した。すると祓がうるんだ瞳を今村に向け、自由になった口でやっとの思いで訊く。


「し…しぇんしぇ…お…りまひ…りぁ?」

「終わりっ!後は十五分ぐらい寝てろ。その後はその後で決めな。」


 今村がそう告げると祓の意識は限界だったのか闇に落ちて行った。そして今村は呟く。


「…そういや人間・・には俺らより辛いのかなこれ。別のにすればよかったかなぁ…流石に全種類の味を感じてもらう「五重造ごじゅうづくり」は酷かったか…敵じゃない奴にこんなことすると何か犯罪者の気分になったぞ。…でもまぁ休日出勤させられてるんだからささやかな復習ということでいいか。」


 言い訳がましい言葉をつらつら並べつつ、流石に少し酷いかなと思った今村は少しのお詫びの気持ちを込めて「結界方陣」と「呪氣還元」を唱えて祓の周りに結界を張って安全に眠れるようにし、口の中も治してそっと部屋から出て行った。






 ここまでありがとうございます!


 ここは書くのが異常に早かった…

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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