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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二章~最初の一年後半戦~
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2.クリスマスイヴ

「お、お帰り。どこ行ってたんだ?」

「少し話があったので…それで…あの…明日…」

「あ、帰るんだろ?で、ちょっと悪いんだがここ使わせて貰いたいんだが…」


 今村は自身の中では既に決定された事項―――祓の帰省のこと小型カメラを整備しながら軽く告げ、本題に入る。祓は予想外の今村の言葉に反応に困らされる。


「え…あの…」

「え?無理?うーん…ちょっと困るなぁ…」


 今村はそう言いながら左手から呪刀の切っ先だけを出して横に振り、空間に裂け目を入れるとその中にカメラを乱雑に投げ入れる。その作業を終えると何もない所に急に画面が浮き上がった。


「…ん~映りが悪いな。『呪具操作:移動』!」

「あ…あの。私明日ここに居ます…先生も来ます…よね?」

「え?うん…開いてるなら…よっし配置完了!けっけっけ…あ、これ不味いやつだ…見なかったことにしよう。」


 画面を消して―――録画はしたまま―――今村は祓の方を向いた。


「で、…居るんだ。何かごめんね?あいつはこの日帰ってたから帰るものかと思った。」

「…あいつ?」


 祓は可愛らしく小首を傾げた。今村は何でもないと首を振って話を続ける。


「じゃ、よろしく。…一室借りるぞ?」

「はい。どうぞ。」


 今村はそう言って一日部屋に籠った。



 ~翌日~


「クカカカカカっ!徹夜明けのテンション最っ高!」


 今村は壊れかけの状態で祓に呼ばれて昼食を取りに祓の部屋に行く。部屋の中の祓は不満を持っていた。


(何か…違う。もっと…こうじゃなくて…恋人同士じゃないんですけどそれに近いことを…せめて一緒に過ごす位は…)


 元々そういう事をされるのは嫌いなのだが気にしているのに会話すらあまりしない態度をとる今村に祓は痺れを切らしていた。だが祓の方も一度今村を殺しかけて話をするのが難しく感じている。今回祓はそれを打破しようと二人きりでクリスマスを過ごすことを決めたのだ。


「あっはっは!ハロー!」


 そんな祓の心境など一切知らない一日機械製造をぶっ続けで熟していた今村が壊れ気味に現れた。


「元気!?俺は死にかけ!あっはっは!」

「だ…大丈夫ですか?」

「知らん!ケラケラケラケラケラ!…ふう、よし。」


 急に元に戻る今村。祓は付いて行けない。


「食っていい?」

「え…はい…どうぞ。」

「んじゃいただきましょうか。」


 祓が呆けている間に今村は食事を済ませる。テンポよく行動する今村を祓はただ見ているだけだ。


「ご馳走様。美味かったよ。」

「ありがとうございます。」

「…風呂どこだっけ?」


 今村は食事を終えるとすぐローブから風呂のセットと思われるものを取り出した今村。祓は呆気にとられながら風呂場の方を指す。今村は軽く礼を言うとそのほうに歩いて行った。その後ろ姿を見て祓は食事を一瞬で終えた。そしてかつての作戦が頭の中を駆け巡った。


(裸のお付き合いっ…)


 祓はすぐに行動を起こした。


















「…広っ。これ全部あいつ専用なのか…貴族め…っと?」


 風呂場にローブ姿で入った今村は入ってすぐなんとなく違和感を感じた。体を調べると魂を極々微量に盗られることにレジストしているようだ。そこで「異化探知」を使用し、終えると苦笑いを浮かべる。


「カメラですか…誰がって…まぁあいつナルシストじゃねぇしここに来るのはもう一人だよな…どうするか…って俺の姿なんざ見たくないだろうし切っとくね~」


 今村はローブを伸ばしてカメラの電源を落とした。そしてローブの右にシャンプー、左にボディソープを一滴垂らすと自動で洗わせた。それはものの十秒で終了する。そして洗剤を垂らしてローブ自体の洗浄も終える。


「はぁ~…ローブ便利すぎてダメ人間になるな~」


 終わると湯船に浸かる。その時扉が開いた。


(…カメラ直しに来たのか?)


 それは流石に引くぞと思って見るとそこには自らの彫刻よりも美しい体を惜しげもなく晒している祓がいた。今村は弱視力ながら全部ばっちり見てしまい声を上げる。


「っ何やってるんだ!?なぁ!?」

「…裸じゃないんですね…」


 祓は残念そうに今村を見る。今村は体ごと顔を背ける。


「覗きか!?それこっち側の仕事!それに俺のなんか見てもしゃあないぞ!?」

「…?背中流したいので来てください。あと何で右手に氣を…」

「埒あかねぇからだよ!『水呪空印:操水風化・湯風煙』っ!」


 今村は浴槽の水に五芒星を中心とした魔法陣を描いて目の前で二本指をたてて術を発動した。すると祓の体は霧に包まれた。


「これで良し。はぁ…俺がカメラ止めといたのに感謝しろ全く…何で風呂入って疲れにゃならんのじゃ…」

「これ何ですか…?それにカメラ…?」

「これは水蒸気。カメラは理事長の仕業…裸で…知らないってことは…流石にアレだな。よし『遡及禍罰そきゅうかばつ』…………いったな。」


 何かをして満足げに告げると今村は祓に向かって言った。


「これからはちゃんと自力で覗くように言っとくから安心して撃退しな。…まぁ嫌だったりあんまりにも酷かったら言え。何とか・・・する。ククククク…」


 邪悪な笑みを浮かべ、祓の方を向く今村。祓の体は湯煙に覆われてうすぼんやりとしか見えないがこの状況もかなり悪いことに気付いた。そして速やかに外に出る。


「あ、まだ…」

「もう体は洗いましたので速やかに外に出たいと思います。ローブ。脱水。」


 呼び止める祓に何故か敬語になる今村。術を使いローブから水気をきり、自身についている水滴も蒸発させると風呂場の入り口に水が大量に流れ落ちる。


「では。」

「あ…」


 それだけ告げて今村は去った。祓は追おうとするも霧の一部―――足の部分が凍りついていたので追えない。


「何で…」


 祓の呟きが風呂場に反響した。







「『呪水:氷呪』…何で俺は風呂に入ってこんな技使ってんだ…?」


 脱衣所で今村はふと我に返ってそう呟いた。独り言だったその言葉に返事が返される。


「…というよりアレ…条件式なんですね。思いの外すぐに上がれて驚きました。」

「もう体洗ったのか…ってまた全裸!お前アホか!?」


 水呪空印 湯風煙の範囲は風呂場内だったので脱衣所の祓はまた全裸だった。今村はその状況を理解してすぐに顔を背けた。


「…危ねぇなぁ…気をつけろよ…人間辞めてる精神年齢爺の俺だったからいいものの…他の奴にそんな姿見せたらいかんぞ?」

「はい。先生だけにします。」

「…そういう…もういい…もう疲れたよ…」


 何かに迎えに来てほしい気分になる今村に祓はトーンを落として謝罪を始めた。


「あの…あの時はすみませんでした…」

「どの時…今?」

「いえ…先生が死にかけたときです…私の所為で…」

「この状況で話すことじゃねぇ…あと別に気にしてねぇ…俺は死のうがどうだろうがどうでも…」

「よくないですっ!」


 祓は鋭く否定した。そんな様子の祓を初めて見た今村は面食らう。そして見て全裸だったので何となく困る。


「そんなこと…そんなこと二度と言わないでください…私がどれだけ…」


(…個人的に死んでもアーラムの所に戻るだけだろうし…姉貴いねぇならすぐにでも還って寝たいぐらいある…あ、でも魂が劣化してるから今回死んだら終わりかな?)


 そんなことを間違っても口に出す雰囲気ではないので今村は黙って頷いた。だが祓は悲しげにそう言っても全裸だったので今村は黙ったまま呪具ウェアーアップフレームを通す。すると祓はネグリジェ姿になる。


「…先生は…私をおいていなくならないでくださいね…」


(え、無理じゃね?お前フェデラシオンに帰るじゃん。)


 そんなことは言わない今村。「善処する」とだけ答えると祓は満足したのか先に出て行った。今村は疲れたので寝ようと思い空いている部屋に向かって歩き出した。




ここまでありがとうございます!


 理事長変態説。…因みに「遡及禍罰」は過去の罪を加算して術者に報告する呪いです。判決は術者が決めます。今村は理事長が今回は思ったより酷かったので股間に赤銅を流し込むという罰にしました。…いったぁい。自分はタナトスにもっと酷い事してるなんて気にしない。あっちは犯罪。こっちは嫌よ嫌よも好きの内。


 あ、あとものすごく蛇足ですけどシャンプーもボディソープも今村以外が使うと皮膚が爛れる呪いつきです。呪具です。

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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