32.川
無言での激しい戦いが続く。
戦い方としては一方は攻守をバランス良く行い、舞のような優雅な戦い方をしつつも自身への攻撃を一切通さないというもの。そしてもう一方は自身への攻撃を無視して攻撃にのみ専念して早く勝負を決めようとする荒々しい戦い方だ。
(ちっ……仁なら何があっても大丈夫と思うが……こいつ、面倒な……いっそ声を出したいわ……)
優美な戦いをしていた方―――チャーンドはどんな攻撃を加えてもすぐに回復して反撃してくる祓に日本刀で斬りかかりながら思考の一部で今村がいなくなったことに気付き苦々しく思った。
彼は前世である過ちを犯してしまったので戒めとして声を出せないのだ。
しかし、チャーンドはそんなことを考えながらも攻撃の手を緩めることは一切なく、防御の手を休めることもない。
(早く……先生を……)
一方、祓の方は思考に割く余裕が殆どなく、必死にチャーンドと「氣」で強化した素手で切り結ぶ。
しかし、均衡は崩れてしまった。割いた分の思考で祓の攻撃に粗が出てしまったのだ。当然その隙を見逃すチャーンドではない。祓の腕を日本刀を持った腕とは逆の左腕で腕で掴むと「死之川」の川幅が広い下流の中央に向けて投げつけた。
(……これでいくら再生しようとも溶けて……?)
あらゆるものを溶かす「死之川」に投げ入れれば再生しようとも溶けていずれは消えるだろうと思ったチャーンドは跳ねた水を避けながら上手く祓を投げることで勝負を決めたと思った。しかし祓を飛ばした川の方を見て初めてチャーンドは「死之川」の異変に気付く。
(水が……澄んでいる……?)
「せやっ!」
一瞬「死之川」でなく「三途の川」に投げたか……? と思っていると無傷の祓が川の水の中から立ち上がり、その場から術で攻撃してきた。チャーンドは一瞬逆側の「三途の川」を確認してしまっていたことで反応が鈍り、左手に攻撃を掠らせる。
微々たるダメージだがチャーンドの混乱は深まっている。
(どういうことだ……? やはりこちら側は「死之川」だ。なのに、ダメージがゼロ……? おかしい……それに「死之川」の水が……いつもなら水の色は赤……いや、この赤は濃すぎる!)
祓の攻撃で跳ねた水を見てそう思ったチャーンド。
疑惑を抱いたチャーンドは原因解明のために情報を集めようとして祓をあしらいつつその周辺の水を注視する。すると祓の足元に何かが流れてきた。それを見てチャーンドの血の気が引く。
(まさか……そんなはず……だがあの『呪氣』は……それにこの水の匂いは……水ではない……血の……)
時を同じくして祓も自分の足に何かが当たったのを感じた。
(邪魔っ!)
祓はそう判断して蹴飛ばそうとし、チャーンドが施した何かの罠ではないかと危険度だけ「氣」で探る。その、「氣」での簡単な検査の結果それが何なのか知り彼女は絶叫した。
「い……いや……いやぁぁあぁぁああぁぁあああぁっ!」
それはボロボロに溶かされた上、体の半分以上がなくなって「氣」で判断しなければ何だか判断できないほど各部位が損傷した今村の体の残骸だった。
短いですけど……キリが悪かったので……




