20.蹂躪
オークション会場に近付くと急に雰囲気が変わった今村の様子に祓はすぐに気が付いた。しかし気付いたのは祓だけで空気を全く読めない乱入者たちが二人に近付いて来る。
「こいつか? お前らのことを無視した女は。」
「そうです! お頭ぁ、こいつに礼儀ってのを教えてくだせぇ。」
「ふーん。……確かにいい女だ。」
舐め回すような視線を祓に向ける男。そんな男にオークション会場から目を離した今村は指を指して祓に訊いた。
「知り合いじゃなさそうだが……これがさっきテンション低かった原因?」
実は祓の様子が沈み気味だったことに気付いていて流していた今村が祓にそう尋ねる。しかし、祓が何か答える前に取り巻きの男が大声で遮った。
「てめぇっ! この方をディオス・デ・ラ・ムエルテのお頭、ガニアン様と知ってその口叩いてんのか!?」
「あぁ、わかりやすい説明ありがと。」
今村には緊張感の欠片もない。それどころかガニアンをおちょくる方法を考えている。
(えーと、あーボケてんのかな。ディオス・デ・ラ・ムエルテは……死神、ガニアンは勝利者って意味だったよな……ならばっ)
「で、そのぜんぜんまんの尾頭付き勝君は何の用があって」
「あぁっ!?」
「そんなに怒るなよ~痛~い名前をちょっと変えただけじゃん。」
「てめぇっ! お頭っ! こいつ殺っちゃいましょう!」
「ぼ~りょ~くは~んた~い!」
そう言いながら今村はローブから金色に輝く大太刀『絶刀』とそれとは対照的に一切の光を反射しない黒い小太刀『絶牙』を出すと集団に襲いかかった。
「てめぇっ! 言ってることとぎゃあぁっ!」
「……なんかあんたさっきから『てめぇっ!』ってばっかり言ってるけどそう言う役なの?」
今村は口の端を歪めながら次々に取り巻きを襲っていく。ガニアンはその様子を見て傲慢に笑っていた表情を少し改めた。
その間に今村は『髪』も使い取り巻きを全部倒す。
「ふーっ。まぁ、殺しゃしねぇよ。今日は気分が良いんでな。で、勝君いっくよ~?」
「フン……その程度の実力で俺に……」
どこからか出した銀色の鎌を構えるガニアン。だが、その直後に勝敗は決していた。
「……ん~全盛期の一微弱ってところか……まいったねぇ。」
「何言って……っぐぁ……」
「え……今のは……」
両者その場から動いていないのにガニアンは袈裟切りに斬られ、その場に倒れた。今村は不満げに刀をしまうと顎に手を当て考える。祓には何が起きたのか全く見えなかったので考え中の今村に何が起こったのか尋ねる。
すると少しだけこっちを向いて今村は先ほどの技の名前を告げる。
「『白礼刀法』十五の型 始終」
そうとだけ言った今村はまた考え事を始めた。そんな今村の考え事は強制的に中断させられる。
「お……お頭っ?」
「こ、こいつがやったのか? ……いやどうでもいい。『転移陣』を使え! 舐められちゃお終いだ! 『ディオス・デ・ラ・ムエルテ』一家全員でこの化物を殺すぞ!」
その声の後続々と魔道具や銃火器で完全武装した人間が集まって来る。……しかし今村はそいつらを意にも介することもなく呟いた。
「……来い。」
今村がそう言うとオークション会場から一本の黒い大きな鎌が飛んできて武装集団と今村の中間の地面に刺さる。それを見て武装集団は怯えだした。
「ひぃっ!ガニアン様の大鎌コレクション……」
「うわぁああぁぁぁあっ! や……やめてくれぇぇええぇぇっ!」
突如来たそれは辺りにいる人間のナニカを吸収し始めた。そしてそれは祓も例外ではない。
「せ……んせっ……それ……危な……」
息絶え絶えにそういう祓に対して今村は満面の笑み……それもとびっきり歪んだ笑みを浮かべていた。
「……タァナトス俺の歯に何してくれてやがる……」
今村は無造作にそれに近付くと引っこ抜いた。すると祓の体からナニカの流出は止まる。
「……はぁ。まぁ大体わかるけど、『呪式照符』」
今村は札をかざす。そしてきっちり十秒後、精神に本日一番のダメージを負った。
「……『死神の大鎌』って……あいつ俺が元通りになったら覚えてろよ……」
「せんせ……大丈夫なんですか……?」
「……あ、ごめん。こいつ放置してたから勝手に『ウォドゥオション』やってたみたいだ……生命力返せば治るから安心して。『配素氣流』」
今村がそう言うと祓の体に今村からナニカが流れ込んできて数秒後には祓は元通りになったいた。それを見て今村は『死神の大鎌』を戦利品としてローブに突っ込んでから言った。
「じゃ、帰るか。」
「……はい。」
こうして二人はマジックアーケードを後にした。
ここまでありがとうございました!
一微は一千万分の一です。今村君は今記憶は戻ってますが体は弱いです。なのでハーレム美男子(タナトス、トーイ、イグニス)と今戦ったら負けます。殺し合いの場合は別なので、向こうはそう思ってません。




