17.雨
梅雨の季節になり、その日は朝から雨が降っていた。
そんな日にも当然ながらいつも通り学校はある。しかし、学校の放課後を知らせるチャイムが鳴ると、いつもならばここから二時間半は学校に残るはずの今村は急に札の複製を止めて片付けを始めた。そんな今村を見て祓はどうしたのか尋ねる。返事は簡単だった。
「……あー……今日は用があってな……」
何となくテンションが低い今村。そして片付けが終わると帰る準備をして雨の中帰って行った。祓はその後ろ姿を見送り考える。
(先生は能力者ってこと隠して生活してるらしいけど……どうしてるんだろ……知りたいな……)
こうして祓は今村を追いかけることにした。
今村を追いかけると今村は一度ご丁寧に結界を張って雨を弾き何か歌いながら自転車に乗って家に帰っていた。
(何かこの世に恨みでもあるのかな……?)
今村の歌う歌詞の内容に祓は首を傾げながら聞いている。何気に上手い今村の歌に何故か通行人がハモると今村は歌うのをやめた。
少し郊外にある赤い屋根の一軒家。
その前に着くと今村は自転車をガレージに停め、家の中に入って行った。祓はその中の一室に強力な結界が張ってあるのを感じとり、そこに近付けば一瞬でバレるだろうなと思いつつ出てくる今村を待つ。
今村はローブの視覚情報を征服から雌伏にして出て来ると結界を解いて傘を差し、学校とは逆方向の繁華街に向かって歩き出した。
祓は当然それを追う。
祓が今村を追いかけていると今村は目的の場所に着いたようで傘を閉じて店に入った。祓もそれに憑き従い、そこに入るとそこでは今村がおそらく年上の女と並んで歩いていた。
(え……? 嘘……)
その光景を見た祓の心に言いようのない重みといやな気分が圧し掛かり、胸が苦しくなる。今村はそんな祓に気づくこともなくその平凡な顔立ちの女との買い物を続け、店の中にある変なぬいぐるみを選ぶと今村が金を出し、それを女にプレゼントした。
その光景を見て祓は更に嫌な気分になる。
今村と女が買い物を終えると二人はカフェに入り、そこで彼らは夕食のようなものを取った。それも今村が金を払い、祓はその場に入って邪魔をしたくなる。
しかし、つけているのがバレるわけにはいかないとその感情を押さえつけて尾行を続けると今村は女を駅に送り、そしてトイレに入ると何故か式神を女につけた状態で女と別れた。
女と別れた今村は駅の裏通りの細い路地に入って行く。それを追う祓は急に動きが速くなった今村において行かれないようにスピードを上げる。そして、角を曲がったところで祓の目の前には無数の凶器が迫っていた。
「っ!」
「……何やってんだ? 殺気はなかったけど……」
今村はそう言って両手に持った刀のうち右手の大きな金色の太刀―――『絶刀』の切っ先を祓に付きつける。祓は正直に謝った。
「……すみません……あの、彼女との……デー…………ト……だったんですよね……知らずにその……」
認めたくない気持ちがあり若干突っ掛かってしまう祓。そんな祓の言葉に今村は凍りついた。
「……お前今、なんつった? あれが……彼女?」
「……え?」
戸惑う祓に今村は祓を逃がさないように肩を掴んで凄い剣幕になり大声で否定した。
「お前俺を妹と付き合う変態と思ってんのか? あぁん? 事と次第によっちゃあ八つ裂きにして埋めるぞ? マジで。……何であんなのと……あれと付き合うぐらいならミトコンドリアと付き合った方がまだマシだっての……」
後半は吐き捨てるように祓から離れてなかなか酷いことを普通の声の音量で言う今村に祓は確認する。
「い……妹? ……どう見ても年上では……」
祓の問いかけに今村の頬が引き攣る。
「……それは俺がガキに見えると? それともあれが老けて見えるって言ってるのか?」
「あ……後者です……」
「……ならよし」
本当は両者とも祓の感じた事実だが、空気を読むことを覚え始めた祓がそう言うと、おそらくエネルギーを溜めていたと思われる刀を今村はローブに仕舞い、ローブ自体の硬質化も解く。
そして髪も元通りにしたところで今村が祓に確認し直した。
「あーつまりお前は俺がアレと付き合ってるんじゃないかと思って尾行したわけね? ないから。」
頷く祓。それに満足したような今村は何度も「ないわー」と呟く。その為祓の「よかった……ほんとうによかった。」という声は聞き取れなかった。




