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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第六章~異世界その2~
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6.事情

「…よし!ここはべたに冒険者になろう!」

「はぁ…いいんじゃないですか?」


 逃げ込んだ先の洞窟でふざけにふざけ、ミーシャを疲労困憊状態に持ち込んだところで今村は結論を出した。みゅうは夜になると寝ており、祓は房中術の下りの後から黙らされたままだったのでミーシャは一人で今村の相手をすることで非常に疲れた。


「おいおい…お前亡命した王女様なんだから少しは気を遣えよ。」

「冒険者ギルドは中立の立場をとってますからその辺は大丈夫でしょう。」

「…まぁステータスとか改竄してなんぼだけどな。」

「真面目な話をしたと思ったらこれですか…」


 正直本当に疲れたので眠たいミーシャ。今村もそろそろ限界が近付いているのを見越してミーシャを手刀で物理的に眠らせた。


「…さて、【命を解く】」

「…こういう時は何か嫌ですね…」


(だからと言って術を解かせるようなことはしませんが。)


「…で、先生に訊きたいんですが…房中術は…」

「道教の一種の技だ。エロい事ばっかりと思われてるだろうが…本来は体の陰と陽の気の循環を弄るものだな。俺クラスになると触るだけで色々できる。」

「…どんな時に使ったんですか…?実生活では…」


 今村は鼻で笑った。


「主に女の尋問。あ、これ別に俺の趣味じゃなくて男は拷問した方が早くしゃべるからそうしてた。で、実生活?流石に気の循環ってのが目的だけどやりすぎると大変なことになるから使っていい相手がいなかったに決まってるだろ。」


 周りの反応を見るからにはそういう訳でもなさそうだったが、おそらく呪い抜きでも鈍いのだろうと祓は判断した。


「前世では結婚とか…」

「してない。基本遊びと戦争しかしてないからな…それに自称姉と自称恋人が美人過ぎたから基本そう言う感情を持ってた異性が来なかった。」


 これは一部事実で、少し事実とは異なっている。確かに大抵は追い返していたし、近づけなかった。だが、極僅かに抜けて来たそう言う人もいたのに気付いてなかっただけだ。

 だが、それはそれとして祓の関心は今別の所に行っていた。


「その…自称恋人さんってどうなったんですか?」

「…封印しておいた。第3世界の世界の果て、『ワールドエッジ』に。」


 今村はそこで言葉を止めると世にも奇妙なものを見る目で祓を見た。


「…何で俺の過去話とか聞くんだ?暇だからだろうが…彩りもない話を聞いても楽しくなかろうに…それともお前戦闘好きだったっけ?」

「…私が好きなのは…」

「ご飯!」


 今村が何だか祓から妙な雰囲気が出て来たな…と思っているとみゅうが勢いよく跳ね起きた。そして祓の鼓膜に直接小声で声を叩き込む。


「ちょっとお話良い?」


 今村に聞こえないようにそう言ったみゅうは洞窟から出て行った。


「…飯って…おい祓ちょっと探しに行くぞ。付いて来い。」

「…いえ。近くにいるみたいですし私一人で行きます。」

「…ふむ。まぁいいけど。怒らせるなよ?」


 今村に見送られて祓は洞窟から出て行った。



















「…それで…話とは?」

「パパから手を引いて?」


 洞窟から出た祓をみゅうは笑顔で待ち受けていた。表面上とてもかわいらしいその笑顔に膨大な負の感情が練り込まれていることを感じ取り祓は思わず怯む。

 それを見てみゅうは威圧を解いた。


「うん。この程度でパパと一緒にいるのは無理だと思うよ?争いごともしたことないんじゃない?」

「そんなの…」

「関係ないわけないよ?パパはせんとーきょーだからね。」


 みゅうは祓の言葉を奪って続ける。


「戦闘に入ったらスイッチが切り替わるからね。見たことないんでしょ?あはと・・・君が作ったぬるい世界にいたなら…一面しか見たことないなら幻滅すると思うよ?お互いの為にも早く諦め…」

「断ります。」

「は?」


 祓は毅然としてみゅうを見据えた。


「一面しか見れてないからと言って諦める理由にもなりませんし、戦闘狂の先生もそれはそれでいいと思います。」

「っ…何なの?パパのどこが好きで…」


 の姿しか見ていない癖にという意味で諦めるように言ったのに諦めないという祓に怒り気味でみゅうがそう言うと祓は口を開いた。


「まず、≪前略≫で実は優しい≪中略≫…」


 みゅうが創った仮想空間内で膨大な時間をかけ一つ一つ説明していく祓。頭の先から足の先まで全て褒めていく。今村がそこに居て、呪い抜きですべて聞いていたとすれば確実に最初の5分で黙らせていたことだろうが、みゅうは一々頷いたり同意したりして止めることがなかった。


「…で≪後略≫…なんですけど…」

「わかる!…けど…」


 後半に至るころには意気投合していたが、そこで不意にみゅうが顔を暗くした。


「話を聞いてたら分かるけど…祓さんはパパだから好きってことで、多分戦闘モードのパパでも大丈夫と思う…けど!」

「けど何ですか?」


 祓の質問にみゅうは言い辛そうに口を開く。


「…パパは相手にしないと思うよ?」

「あ、その辺は相手にして貰うまで頑張る予定ですから大丈夫です。」


 祓はきっぱり言い切った。みゅうはそれがどれだけ大変なのか言い募る。


「パパに関わると元の世界は捨てることになるよ?それに途中で死ぬかも…」

「あ、もう死んでます。」


 祓は胸を張って答えた。みゅうは頭を振る。


「分かりやすく死ぬって言ったけどその上、『消滅』されることもあるかもしれないんだよ?」

「…まぁ…でも私何があっても先生を諦めるなんてしたくないですし…諦めたら私は存在意義を失います。」

「…祓さんは…どうしてパパを好きに?」


 狂信とも言える祓の状態にみゅうは恐る恐る尋ねてみた。祓は少し考える。


「助けてもらったり、好きになる要因は結構あったんですが…気付けば好きになってましたね…何でしょうか…心に足りなかったピースを見つけたとでもいいますか…」

「一緒にいると安心できて、触れていたいと思うんだ。」

「…えぇ。」


 そこでみゅうは本当の笑顔を見せた。


「じゃあみゅうと同じだ!うんうん。じゃあ祓さんもハレムに入っていいよ!」

「…?後宮ですか?ですが先生は多分作らないと…」


 祓は首を傾げながらみゅうの言葉を訳した。が、みゅうは首を振る。


「ううん。これはハーレムって言うの!パパがどこに行っても付いて行く女の子の集団!パパはぜぇったいに反対するから隠れて作ってるの!」

「はぁ…私は先生にとってかけがえのないたった一人の人になりたいと思ってるんですが…何故そんなことを?」


 祓の常人が素面で言えないような甘い台詞をみゅうは駄目な解答をした生徒に教えるかのように説明する。


「パパにそんな人は出来ないよ。断言する。さっき頭撫でられた時に見た・・けど私でも絶対に勝てない絶世の美少女。アリスさんがずっと、ずぅっとずぅ~っとお世話して来たのに好きと思っているのが冗談だと思ってる上、面倒だなこいつとか思って下界に逃げたパパに特別なんて出来ない。」

「…そのアリスという人がどんな人か分かりませんが…」

「こんな人。『写し鏡』」


 みゅうは自身の記憶からアリスの全体像を具現化する。祓はそれを見て呼吸も瞬きも忘れた。


「…本人はこれに『魅了チャーム』の空気を抑えていても自然と出す位の美少女。光の化身で強くて家事も万能。頭脳明晰。性格も良くて…まぁパパ限定でもの凄い甘えてたけど。でもパパには関係なかった。」


 そこでみゅうは「写し鏡」を消した。祓が我に返る。


「べたべたして来てウザい。中途半端に近いからこんな感じなんだろ。本当の姉弟になったら落ち着くかな?って思って転生。…まぁアリスさんの方が本当に血が繋がっていたら結婚できないという事で土壇場で逃げたんだけど…」


 今村のかなり適当な転生事情が明らかにされ、祓は何とも言えない気分になった。




 ここまでありがとうございます!

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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