5.話し合おう
「…一応理由を聞いてやる。」
「貴様が我らが国の守り神を誑かしたからだ!」
急に槍を向けられた今村は冷たい視線を竜騎士に返していたが、その言葉を聞いてみゅうを見た。
「…そうか。お前急にこっちに来たのか。【護国龍】なのに…」
「そんなの知らないもん!私がいた所に勝手に来て勝手なことして勝手に崇めてただけだもん!大体パパとの思い出の所に勝手に世界を作る方が悪いもん!」
「守り神様…」
必死になって否定するみゅうに竜騎士は軽く目を伏せてその後もの凄い敵愾心を込めた視線を今村に向ける。
「貴様が誑かして…」
「ない。」
今村は断言する。それを見ていたみゅうは顔色を悪くしていた。
「あなたが誰だか知らないけどみゅうとパパを引き離さないで!」
「みゅ…みゅう様…私のことをお忘れで…?」
竜騎士は驚愕の声を上げている。今村はそれを外から見ていたが、二人の会話は平行線を辿っていたので神核合成でレベルアップしている「呪式照符」を行使することにした。
「…ライルとかいうやつで…お前の面倒を見ていたらしいけど…」
「知らない!」
幻視の過去の映像が結構な速さで流されているのを見て今村はみゅうの反論を訝しみながらもう一度聞いてみる。
「結構仲良かったはず…」
「知らないもん!」
みゅうは怒りの形相でライルと呼ばれる竜騎士の方を見ていた。今村は軽く困りながらライルの方を見る。
「あー…こいつが要るなら…連れて帰ってもらっても…」
「パパ!?」
みゅうが悲痛な顔持ちで今村の方を勢いよく見た。それを見て少々考えて術を使ってみる。
「…ふむ。気は進まんが…『通氣読』」
今村はみゅうの心情を見て判断することにした。基本的に他人の心を見るのは好きではないが、自身に対する恐怖でこんなことになっているのならばすぐに開放してしまおうと思ったのだ。…が。
(恐怖は恐怖でも…俺と別れることへの恐怖。不安感。絶望。…美味しそうとか思ったらいかんが負の感情が大きいな…こんなに懐かれるような覚えはないんだが…これ帰れとか言ったら国亡ぼす気だな…あと、ライルの事は本気で覚えてない。)
捨てられることへの恐怖心のあまり周りに目を向けていられる心情ではないのが分かって言葉を止めた。
「…あーうーん…言い辛いんだが…本気で覚えてないみたいだぞ?」
「んなっ!」
今村の言葉にライルが驚き固まる。みゅうがそれに追撃した。
「そうだよ!知らない人は帰って!さっき言ったでしょ!」
「みゅう様…本当に私のことをお忘れで…」
今村は言い争う二人を尻目に成り行きを見守っていた祓とミーシャに情報を渡してみた。ライルのいい感じに話をしていたという感じの情報と、みゅうの思っていることが入ると質問してみる。
「…どう思う?」
「…悲しいことですが…一方的な恋心補正というものですね…」
祓は今村が持っていた書庫の恋愛小説を思い出して首を振った。
「…みゅうちゃんは可愛いと思います。そして他の誰にも話をしていない状況の中で自分とだけ会話していたとなったら…勘違いしない方がおかしいです。」
「…それにしてもみゅうさん…の方は何と言うか…」
みゅうの思っていたこと、記憶の中にあったのは人間がペットに愚痴を聞かせているような感覚だった。
事前にライルの思っていたことを知っていなければ誰と話していたのかもわからないだろう。今村は祓の言葉続いたミーシャに頷く。
「…まぁ確かに生物としての種の格が違うからなぁ…でも夫婦になろうと思ったらなれると思うが…」
「いやっ!みゅうはパパのお嫁さんになるの!」
「ははは…」
その部分は許せなかったのだろうみゅうが鋭く否定する。だが、今村はみゅうの言葉を軽く流した。ライルはえも知れぬ表情になる。
「本気だからね!大人になったらみゅう頑張るもん!おっぱいだってそこの人より大きくなるし!スタイルだってアリスおば…もごっ!」
「それ以上噂をすると出て来るかもしれんから止めとこうね?」
今村は引き攣った笑みを浮かべながらみゅうの口を手で塞いでライルの方を見た。…が、手をもの凄いみゅうが舐めるので驚いてみゅうの方を見直す。
「…正直もうよくないですか?逃げません?」
そろそろ飽きてきたミーシャ。今村が本気を出せば…というより、自分よりも確実に弱いライルを相手にここで止まっている意味がよく分からなかった。
「みゅうさんは帰る気がないんですよね?今村さんはどっちでもいいんですよね?祓さんはどうでもいいんですよね?私もどうでもいいです。反対1票、棄権3票で反対可決。逃げましょうよ。それか殺しましょうよ。」
状況の打開をしたいミーシャ。今後の話を早くしたいのにこんな細かい事にとらわれていると落ち着かないのだ。
「…そうだね。燃やそう!」
「みゅ…みゅう様!?」
「…それは酷いと思うなぁ…『翔靴:絶式』」
今村が殺すなら別にいいけどまぁ態々殺さなくてもいいよという意味を込めて即座に離脱。それを追うようにしてみゅうもその場から離れて行った。後に残されたライルは視覚的にも心情的にもしばらくいなくなったことに気付かなかった。
「…と、いうことで、祓は今から鍛え直し。えーと…誰だっけ?突っ込みは…」
「ミーシャです!」
突っ込みとしての自覚が出て来たかと思ったが、口には出さずに続ける。
「突っ込みは恐ろしい訓練と死にそうになる訓練とおかしくなる訓練と気持ちいい訓練どれがいい?」
「ラインアップがおかしいですよね!?普通の訓練はないんですか!?」
「ないですね。」
今村の代わりに祓が断言した。
「…それと…気持ちいい訓練だけ聞いたことがないんですけど…何ですかそれ?」
「…ノリで言った。特に考えてない。」
するとミーシャがしたり顔で今村に言った。
「ふふん…なら私はそれにしますね。一度言ったんですからなしとは…ってアレ?何か地獄に片足突っ込んでしまった危機感が…」
「流石突っ込み。地獄にも突っ込むとは…で、ホントにそれにする?」
「そうじゃないですよね!…あぁもう!ろくなものがないんですからどれでも同じです!変えませんよ!」
追いついたみゅうが目をキラキラさせて今村に飛び乗る。
「聞こえてたよ!気持ちいいのってぼーちゅーじゅつ使うの!?」
「ん~…まぁ…どうかね…」
「みゅうにして!」
おっそろしいことを頼んでくるみゅうに今村はもの凄く意地の悪い顔を浮かべた。
「後悔しかしないぞ?『陰王発剄』〈姦邪手〉」
今村の手が妖しく光るとその手をそのままみゅうの頭の上に乗せた。その途端みゅうの顔が赤くなり、息が乱れ始める。
「んぁ…ふぅ…ぱぁぱぁ~やっ…らめ…」
体をくねらせて手にもっと触れようとするみゅう。目は蕩け、だらしない顔になり始めている。何となくこれ以上するのは不味いなと思った今村はそこでやめた。
「…終了!」
「あっ…な…何で…?」
「何か変質者の気分になったから。上位種だから大丈夫と思ったんだけどなぁ…さて、もう一度聞こうか。本当にこれでいいんだな?」
今村は体を摺り寄せてくるみゅうを無視してミーシャの方に向き直した。
「い…いえ…遠慮しておきます…」
「遠慮?遠慮はしなくていいよ?戦争のときは10人連続とかやってたし。」
「すみません!調子に乗りました!勘弁してください!」
ミーシャがどこで覚えたのか知らない見事な土下座を行ったことで鷹揚に頷いた今村は「姦邪手」を止めた。
「…因みに先生それは私に…」
「したら精神がいかれると思う。止めた方がいい。」
「『プリンスキス』で自我を構築し…」
「おいそれ黒歴史だろ黙れ。いや【黙れ】」
祓が余計なことを口にする前に今村が黙らせて今度は真面目に今後の事について考えることにした。
ここまでありがとうございました!




