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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第五章~家庭の事情~
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17.笑顔

 あくる日、今村は新聞の紙面を読んで爆笑し始めた。それを見て不思議に思った祓が横から今村の読んでいる記事を覗く。

 今村の鼻に良い香りが届き、温かい何かがくっつくが、あまり気にしない。逆に祓の方が顔を顰めて驚いたように下がった。


「え…これって…」

「まさかの展開。これなら監視も帰って来ないわけだ!あっはっはっは!」


 新聞の一面には朗らかに笑う白崎の姿と今村が最近監視をすることで一方的に良く見た顔であるファエクスがでかでかと載っており、 『フェデラシオン第一公女婚姻確定!来月には結婚式も!』という見出しが載っていた。


「そんな…あり得ませんよ…だってお姉…ニフタ様は先生が…」


 祓が動揺する中、今村は笑いの波が引き始めたようで自分なりの考察を行う。


「あ~マジで笑った…もしかしてアレだったのかな。見境なく手を出してたのが嫌で、自身との結婚に集中して欲しくて弱みが欲しかったとか?なら言えよ!あっはっはっは!」


 もう一度笑い始めた所で今村の体が不自然に光り始めた。


「ん。人間不信度が上がった。」

「え…」


 祓が絶句する中、今村は不敵に笑った。


「これで神核合成が出来る…祓。離れてろ。巻き込まれるかもしれん。」

「ど…どういう事で…何するんですか…?」

「説明が面倒なんだが…とりあえずパワーアップする。」


 要点を簡潔にまとめるとそういう事になる。が、問題は色々あった。まず、発動時に身動きがとれなくなる事。次に3割の確率で死ぬこと。そして近くにいると合成の餌になるかもしれないこと。


(…一番面倒なのは説明だがな…こいつ俺が死ぬ確率が30%って言ったら止めそうだし…説明はなしで。)


 今村はそう決めたが、祓は当然テレパスで聞いている。しかし、止める手立てがない。


「…先生。危ないことはないんですか?」

「ない。」

「本当にですか?」


 何とか今村の口から今聞いたことを出させて、止めるための口実を作る必要がある祓はくどいまでに今村を問いただす。

 今村は面倒になったので祓を突き飛ばした。


「あっ…」

「『我ここに命を下し我が命を我が物にするために身命を賭した儀式を行わん!』」


 そう言い終わると今村を黒い霧が覆い始める。祓はその中に飛び込み、止めようとするがどうにも体が動かない。


「あ、一応お前に呪い掛けといたから。これに近付くことは出来んよ?別の所に行くことはできるけど…」

「止めてください!危ないんですよね!」

「…あ、そろそろ五感切れるから。今の時点で聴覚と視覚がないよ。何か言ってたらごめんね。」


 今村の顔の辺りにも霧がかかって周りから見えなくなる。そこで祓の感覚に嫌なものが走る。


「っ何!?」


 祓が嫌な予感がして後ろを向いた瞬間。今村目掛けて何かの光線が走った。祓はそれを見受けると止めに走る。


(っ!間に合わな…なら!)


 術を詠唱する暇も与えられない速さで迫るそれに祓は―――



















 ―――自分の身を盾にして、今村を守った。


「こふっ…先生は…」


 腹部に穴が空き、吐血しつつも祓は後ろを振り向く。今村に異常は無いようだ。


「よか…た…」


 祓はそのまま地面に倒れ込む。そこに光線を放った方向から男が出て来た。男はおぼつかない足取りで愕然としながら祓の方に歩み寄る。


「な…何で…なんでお前があの男を庇うんだよぉ!祓ぇ!」

「ど…して…なたが…」


 そこに現れたのは祓が思いもよらない人物。―――毘舎利。祓の許嫁で、フェデラシオン一の富豪の長男だった。


「お前!これは!どういうことだ!?」


 祓の意識が朦朧とする中、毘舎利は今村に向かって光線を乱射する。しかし、霧がそれを全て吸収していった。祓はそれを見て薄く。本当に薄くだが笑った。


(あぁ…流石先生ですね…私は無駄なことを…)


 本当に久しぶりに微笑んだそれは明らかな自嘲の笑み。朦朧としていた意識が痛みで再び覚醒する。


「くそっ!くそっ!出て来い卑怯者ぉ!」


 半狂乱になって攻撃を浴びせるが、霧は晴れない。祓はその様子を見て今村は安心できる状態だと判断して自分の状況を見る。


(…『キュアモーラル』では取り返しがつかないレベルですね…先生は人を回復することが出来ない…これで私は終わりでしょうか…)


 祓が諦めたその時だった。今村の霧が急に晴れたのだ。


「…何か外部から無駄にが入ったが…祓何した?」

「死ねぇっ!」

「…?お前が死ね。」


 何だか状況がよく分からないが、変なのが光線を向けて来たのでとりあえず容易く反射させて毘舎利の頭部を消し飛ばす今村。そして、状況に気付いた。


「祓!?」

「せ…ん…せ…」

「…とりあえず『ドレインキューブ』、後『神氣呼気』」


 今村が何か術を掛けた所で祓の痛みが急に引き、それで失われるかと思われた意識が覚醒する。


「何があった…ってアレがお前を撃ったんだろうな。『医眼』」


 今村の目の中が赤十字になり、顔を顰める。


「せんせ…これを…『我が願い聞き届けたまえ』…」

「はぁっ!?おま…今それ手放したら!」


 祓の下からルービックキューブのようなものが光り輝きながら出て来た。今村は焦る。能力の譲渡は通常かなりの力を使い、死に行くときに使えば死が加速するのは間違いないのだ。


「ちっ!間に合うか…?『ワープホー…」


 そこで今村のカースローブの袖が掴まれる。そして祓が涙を溜めた目で見上げ言った。


「行かないで…」

「行かないでって…俺は今白魔法使えねぇんだ!治せねぇんだよ!チャーンドか誰かを…」

「このまま…お願いします…」


 祓は自身の母親が自分が毒殺されそうになった時、「ディザイア」で自分の毒まで肩代わりをした時のことを思い出した。


(…今ならその気持ちが分かります…)


 あの時、彼女はこう願った。「我が命と引き換えに我が子にかかる悪意を知らせ、その身を守り給へ」と。

 祓は自分を置いて行った母親を心のどこかで恨むこともあった。だが、自分の目の前で愛する者の危機があれば見過ごすこともできないし、自分が死に向かうときに愛する者の心配でいっぱいになる事はこの身を持って知ることが出来た。


「『我が命と引き換えに…この者にかかる災厄を祓う盾と成れ…』」


 祓は全霊の力を持って最後の能力行使を行った。目の前の今村は気難しい顔をして固まっている。加護に気付いていないようだ。

 祓は言った。


「先生…無理だけはしないでください…どうか…お体を大切に…」

「…お前…それでいいのか?死ぬ気なのか?お前が死にたいなら止めないが…」


 今村は祓の一連の行動の意味が分からないらしい。好意を一切感じられない状態で、今の行動は自殺しようとしているようなものにしか見えなかったのだ。


 祓は目に涙を溜めて返事を返した。


「本当は…本当は…まだ、一緒に居たかったです。まだ…これからだったのに…」

「なら…」


 言い返そうとする今村の言葉を遮って祓は「でも…」と続ける。


「先生の手の中で逝けるなら…それも…悪くはないですかね…」


 祓はそう言って穏やかに笑った。生れて初めて、心の底からこれで良かったと思える会心の笑みだ。初めて見るその顔に今村は一瞬言葉に詰まるが、苦々しく言った。


「どこが…お前泣いてるじゃねぇか…」

「ですが…」


 今度は今村が祓の言葉を遮った。


「…いいか?これからやることは治療行為だからな。下手に塞ぎこんだりなんかはするなよ。」

「え…あ。」

「目をつぶれ。」


 祓の返事を待たずに今村はローブの中から何かを取り出す。祓は今村が何か言うまでもなく瞼が重くなっていたので自然と目を閉じ…







 唇に何か当たったのを感じた。


(え!?も…もしかして…)


 そして何かが口内に割って入り、口に何かが注がれる。それは飲もうともせずに喉の奥に入っていく。

 そこで意識が戻った。そして薄目を開けるとすぐそこに今村の顔が。


(き…ききき…キス…キスしてる…先生と!はわ…本当に死んでもいい…)


 今村は苦々しい顔をしたまま顔を離し、詠唱を行う。


「…『スレイバーアンデッド』プラス…あぁこっちはマジで使いたくなかった…『プリンスキス』それと『呪言発剄』、『我が名において命ずる。【れ】』」


 その言葉を言うとすぐに祓の傷が塞がった。


(!?治すことはできないは…)


 祓の意識はそこで断絶された。今村は祓をお姫様抱っこして「幻夜の館」に運びながら大きな溜息をついた。




 ここまでありがとうございました!


 これで一区切りですね。この作品は3部構成です。序破急ってやつですね。量は急>破>序。 という予定です。一応今村とヒロインたちの関係性によって部を分ける予定ですので…今後ともよろしくお願いします。


 あ、次章前に何話か入ります。そして次章からはやりたい放題と主人公最強のタグに大活躍してもらう予定です。

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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