18.驚き
「んぅう…うぅ…」
「…起きたか。」
祓が覚醒した時、目の前には今村がいた。そしてその顔を認識するや否や祓は顔を真っ赤に染める。
「…さて、とりあえず色々聞きたいことがあるが…俺が『神核合成』してた時に何があった?」
それは呪いの効果で見れない今村。普通に質問を尋ねる。祓も真面目に応じた。
「変なのが来て先生に光線を撃ったので庇おうとして、撃たれました。…そんなことより先生…」
「そんなことじゃねぇ…お前死ぬところだったんだぞ?その時は俺を見捨てて逃げろよ…俺は別に死んでも誰も悲しまねぇんだから…」
祓の言葉に呆れ混じりに言う今村。だが、その言葉は祓にとって鬼門だ。
「っ!まだそんなこと言うんですか!?」
祓は今村の言葉に憤りを覚える。本当にいい加減にしてほしいのだ。だが、今村はひらひら手を振って祓を落ち着かせる。
「まぁ…今ん所死ねないが…とりあえず説明入るわ。」
「今の所って…」
祓は不承不承ながら落ち着く。そして今村は説明に入った。
「あー…まず、あの治療行為だが…『プリンスキス』っていう一種の呪いだ。こんな顔しといてなにがプリンスだとか言うのはなしな。正直術名を唱えるときマジで精神ダメージが来てるんだ…」
(…先生は私の王子様ですから別に何もおかしくないんですが…おかしいのは別の所ですよね。)
「あの…何故治療出来たんですか?回復魔法は使えないって…」
「あー…こっちも言い辛いんだが…」
今村は言い辛そうに頭を乱雑に掻いて口をもにょもにょしていたが、決めたらしい。
「『スレイバーアンデッド』って薬品をあの時流し込んだ。その時点でお前は奴隷人形になってる。」
「奴隷…人形ですか…」
「名前の通り不死の奴隷。あ、語感がいいからこんな名前だ。文法等の指摘は受けない。…で、効果は要するに持ち主がいる限り死ぬこともできない人形になる薬品。」
「…ですけど、人形の割に私普通に…」
「それが『プリンスキス』の能力。相手に異常な位の付与効果が出来る。…代償がないのにおかしい位。いや、代償は羞恥心か…」
今村はそこでまた髪をガシガシする。
「あー…隷属をお前の力でキャンセルしてるんだ。…で、…その…効果は俺の気合の込め方によって変わるが…もって半日…」
「!ということは…」
「…半日に一回…やらないといけない…」
その時の祓の心境は生まれて来て初めての春が来たようなものだった。逆に今村の方は本気で恥ずかしがっている。
それとは別に祓は気になっていることがあった。
「で…ですけど、不死なら怪我なんて関係ないんじゃ…どうして治せたんですか…?」
そう、不死ならどれだけ傷を負っていても別に問題はない筈。なのに傷が普通に塞がっている。傷を塞ぐなら回復魔法を使わないといけないはずだ。
だが、今村は回復魔法を使えない。これがよく分からないのだ。
それに対して今村は顔を横に向けたまま答える。
「…人形だから…治すじゃなくて、直すってことになるんだ。俺の物であり、それに生命が宿っていない限り直すことは可能だ。」
自分から聞いておいて祓に説明は聞こえていなかった。一部だけが切り取られてリフレインされる。
「せ…先生のものなんですね私…」
「…悪いが…祓は俺の物だな…」
内心の喜びようはもう止まらない。踊り出したいくらいだ。庇って本当に良かったとあの時の自分に感謝だ。
「…で、これが今回一番の悪いニュースなんだが…」
「何ですか!?」
「…何でそんなに楽しそうなのか分からんが…これは本気で不味いし、悪いと思うんだが…」
祓のわくわくは止まらない。今村の言葉を待ち望んでいる。
「…離れると…術が切れるから…常に半径3メートル以内にいないといけない…」
「かふ…」
祓の幸せメーターが耐え切れずに壊れた。そして再び気絶する。
「いや…マジで神核がなかったらトイレまで一緒だったからこの点に関してはアーラムに感謝だな…ってアレ?祓?起きろ!」
「一緒一緒…ずっと一緒…」
「えぇい話が進まん。『我が名において命ずる【正気に帰れ】』」
祓の短いトリップが終了した。
「…で、この辺面倒だから改造したいんだが…いかんせんお前が寝てると俺は動けない。…だから解析等ができなかった。これは言い訳じゃないからな。」
「え?はい。…別に改造とか…」
「安全第一で行くから安心しろ。それに俺の命令に一切逆らえない状態とか嫌だろ?」
(…別にいいんですけど。それに先生の頼みなら何でも引き受けますし…)
「分かったか?じゃ、とりあえず…場所を変えさせてくれ。」
「…はい。」
「『ワープホール』」
今村は自分用の書庫に飛んだ。
「ふわ…」
そのあまりの膨大な本の量に祓は驚く。今村はそれを無視して手慣れた様子で大量の本の中から術で本を引き抜く。
「これじゃない…これは製造まで…」
そしてもの凄い速さで目を通す。開くと光や黒い靄などが湧き出て来る本たちは次々に入れ替えられ、消えていった。
「え…せっかく一緒になったのに…」
このペースなら本気で見つけるのではないかと思った祓が焦りの声を出すが、今村は本に没頭しており気付かない。
そしてものの数分で今村は出した本を全て漁り終わったらしい。
「…せんせ…」
「ない。」
祓は解除法を見つけたのかと声を掛けるが、今村の呟きで止まる。
「解除法が載ってない。」
「やったぁ…」
祓は安堵する…が、今村は例によって聞こえない。
「…仕方ない。術式を作るか。」
今村の言葉に祓が固まった。そんな事出来るはずがないのだが、…今村ならやりかねないと感じたのだ。
「え…無理しないでも…」
「大丈夫大丈夫。新魔法位簡単に作れる。」
常人が言えば頭おかしいんじゃないかと思われる台詞を何の気負いもなく言った今村。祓は話題を無理にでも変えなければ…と思い、別の話題を口にする。
「…っそ、そんな事より、『ディザイア』…どうですか?」
「…あぁ、アレねぇ…等価交換式の術式だったから…ちょっと色々付加してみた。」
嫌な予感がする祓。今村にかかればその辺の石ころでも国を崩壊させることが出来る物質に変える気がしてならないのに、「ディザイア」クラスの物を改造されたとあればどうなるのか分からないのだ。
「えーと…俺に対する攻撃をオートで反射。…攻撃をその内容によって倍増させて。俺らしく平和的だろ?」
祓はその後今村が呟いた言葉を聞き逃さなかった。
「弱ければ何百倍返し…強くても何倍にもして返す…『復讐法系』…誰かと縁が切れた時が楽しみだなクックック…」
できれば誰も今村と敵対しないでほしい…そう願う祓だった。
「…ところで先生。私お風呂に入りたいです。」
そして術の話に戻されると困るので、祓は別の話題を提供する。笑っていた今村が固まった。
「あー…術で何とかしてたんだが…それじゃ駄目?」
「はい。」
祓はにこやかに言った。そこで自身の変化に驚く。
(…笑えるようになってる…)
目の前の今村も驚きで固まっているようだ。
「あー…お前、俺の説明聞いてた?3メートル以内に…」
「先生も一緒に入ればいいんですよね?」
「…あぁ…まぁ…いいんだけどよぉ…」
笑っている祓を前に今村はそれ以上何も言えず、大人しく一緒にこの空間から出て行くことになった。
ここまでありがとうございました!




