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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第五章~家庭の事情~
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15.予定狂う

「…こ…これは何なのかしら…」


 今村がウェスタに出したものは料理とはいえるような外見をしていなかった。


 まず、色。肌色に紫が所々、それに赤いソースが下に溜まっている。そして料理自体にもソースが掛かっている。次に形、人間小サイズ(立体)。匂いはもの凄く良い匂いだが…


「シェフの気まぐれ料理レベル4です。」

「疫病にかかった人間みたいじゃない…」


 白崎の言葉がその料理のすべてを語っていた。


「味は保証します。」

「何で態々こんな形にしたの…?」


 ウェスタは期待していた分だけ怒りが大きいようだ。蟀谷こめかみに青筋を立てている。今村はそれに気付いているがしれっと答えた。


「気紛れです。レベル10が最大で今日のはまぁ…常人でも食べられる気紛れレベルで4なんです。さぁご賞味あれ。」

「…どうやって食べるの…」

「手を毟り取って。」


 それでも匂いに誘われて食べるようだ。ウェスタは恐る恐る手を取って…その瞬間赤いソースが中から滴り落ちる。


「ぎゃああぁ!」

「ひぅぃ!」

「あ、お楽しみいただけました?BGMです。」

「あなた頭おかしいんじゃない!?」


 料理の皿から音声が流れた。それにビックリしつつもウェスタは手を食べる。そして目を蕩けさせた。


「あぁ…もう死んでもいいわ…」

「お嬢様!?」

「今まで私は何を食べて来たのかしら…」


 今村は忍び笑い。周りは訝しげな目を向けるが、今村は本気で料理を作っただけで、薬も変なものも使っていない。


「これぞ…あぁもう後で感想は言うわ。これに集中させて頂戴…」


 ウェスタは黙った。周囲はざわめきつつも今村とウェスタを眺めながら特に止めるようなことはない。


「…今村くん…その…正直どうなのかしら…」

「…あ、お嬢様には後で別料理を差し上げますので…」

「そ…そう言う意味で聞いたのじゃないのだけど…」


 白崎は今村に料理の催促をしたつもりではなかったのに…と表情を曇らせる。小声での会話を終えるとウェスタの完食を待つ。

 そしてその時がやって来た。


「…公女殿下、この様な料理人を隠し持たれているとは少々酷いのではなくて?」

「え…あ、その…」


 ウェスタは完食すると白崎に鋭い視線を向けた。白崎はお抱え料理人でもない今村の扱いについて怒られてもどうしようもないので言葉に詰まる。

 そこで今村が白崎に別メニューを出した。


「シェフの気まぐれ料理レベル5のステーキでございます。」

「え?あ…」


 白崎は怒られているのに目にも鮮やかで美味しそうな料理を出されてどうしたらいいのか分からない。


「…ちょっと…あなた、私にはあんな得体の知れない物を出しておいて…そりゃ美味しかったけど…」


 洋食のルールにのっとりつつ鮮やかに盛り付けられたその料理を見てウェスタが抗議する。だっが、今村は涼しい顔だ。


「お嬢様は正式な雇い主ですので、材料が一人前しかないなら優先するに決まっています。」

「何ですって!?」


 白崎は話の流れに付いて行くことができないので黙って成り行きを見守る。


「…公女殿下、この者を家で引き取らせてもらっても…」

「あぁ、お嬢様が結婚されるまでの期間のみしか契約はありません。よってそれ以上の契約権限をお嬢様は持たれていませんよ?」

「…いつまで?」

「明々後日です。そしてその日を私の公的な料理人としての最後にするつもりです。」


 そこでウェスタは黙って考え始めた。


「…相手は?」

「インバイト家頭首です。」

「…わかりました。諦め…」

「仕方ありませんね。お嬢様、一切れほどこの方に料理を差し上げください。」


 白崎はよく分からないが、言われた通りにステーキを皿ごと引き渡す。ウェスタは怪しみつつもその欲望を抑えることが出来ずに食べる。


「か…カハッ…」


 突然体を震わせたかと思うと目を見開いて天を仰ぎ、腰砕けになり床に崩れ落ちる。


「にゃ…なんて…」


 うっとりした顔で今村の方を見ると今村は無表情で言った。


「…料理人として会うことはなさそうだったのであなたが食べる私の料理の最後になりますね。」

「しょ…しょんにゃの…そんなの駄目よ!人類の損失だわ!」

「お嬢様の結婚までという契約ですので…」

「…見てなさい。その程度の事私の家にかかれば…」


 眼だけはきりっとしているが今村の料理の影響で立ち上がることはできない。


「何を使ってでも公女殿下の結婚を止めますよ。」

「は…はぁ?」


 周りは困惑気味だが、ウェスタは本気のようだ。白崎も呆然として今村の方を見る。今村は何かローブをごそごそしてウェスタ親衛隊に投げ渡した。


「…?クッキー?」

「ご賞味あれ。」


 ウェスタが護衛の一人から袋をひったくった。先程まで腰砕けになっていたとは思えない動きだ。そしてその可愛らしい顔をハムスターの様にしてクッキーを貪る。親衛隊も恐る恐る食べて無言になる。

 そして食べ終わると…


「よっしゃ!婚姻?そんなもん食えねぇだろ!」

「高度な政治的問題?何それこのクッキーより美味しいの?」

「お嬢様!やってやりましょう!」


 テンションを一変させた。唯一クッキーを奪われた親衛隊の一人だけが付いて行けない。


「…そうですか、でしたら婚約破棄になってその後お嬢様の下に来られますと私の契約は続いているという事になりますね…おもてなしの必要が…」

「!撤収!」


 親衛隊ウィズウェスタは風の様に消えていった。白崎は呆然とその後ろ姿を見送る。


「え…何これ…」

「さてと、予定がだいぶ狂ったけど…まぁこのバージョンなら結構楽に行くかもな…」


 当初の予定では研究費の予算横領や、その他諸々の犯罪行為を盾に脅迫する予定だったが、何かいけそうな気がしたので進路を変えてみた今村は白崎に出した料理を食べる。


「む…焼きが後0.000028秒足りないしスパイスが0.0012g足りない…これじゃレベル4だな…」

「細かいわ。細かすぎる…」

「さて、お前が帰るまでに策を詰めるか。後ウェスタが何するのかも知っておかないとな。それに合わせて策のパターンも変えないといけないし…」


 今村は次々にステーキを食べていく。白崎がそれを慌てて止める。


「ちょ…私にくれたんじゃ…」

「失敗作は自分で喰う。」

「一切れ位!」

「…まぁいいけど。」


 今村は一切れ以外食べ終えるとフォークを出して、白崎に渡す。


「こっふ…」

「さて、帰るか。相馬、こいつを背負え。」


 常人にはあまりの美味しさに動けなくなることを見越して食べさせた今村は相馬にそう命令を下して会場を後にした。



















「…先生…分かってますね?」

「…一人でお留守番してた報酬だろ…?お前が表舞台じゃ死んだことにしてる方が悪いと思うんだが…」


 「幻夜の館」に今村が先に帰りつくと祓が待ち構えていた。今村はげんなりする。


「それはそれです。ダンスパーティーだったのでしょう?なら私と踊ってくれますよね?」


(…料理パーティーだった気が…全員食事に夢中で誰も踊ってなかったし…)


 帰り際、シェフたちに挨拶して行こうとしたら全員敬礼で、ホテルの年間食事無料券を貰い、いつでも来てください!と涙ながらに別れを惜しまれた光景を思い出しつつ今村はまぁ別にいいか。ということで祓と踊った。


「…時代順にブランル、ワーランテ、ポロネーズ、マズルカ、カドリーユ…」

「お前は俺に赤い靴を履けと?」


 今村は突っ込みを入れつつも呪具を召喚し、自動演奏をさせると祓と狂ったように踊り始めた。ついでにラバーは何も掴めずにそれを見終わった後帰って行った。


 


 ここまでありがとうございます!


 気まぐれ料理のレベルは1~5までは常人がギリギリ食べれるレベルで、6~9が異能者がギリギリ行けるレベル。10は神でもほんの一部が精神を保つことができるレベルです。


 4,9はゲテモノにするのが今村君です。

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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