14.特異料理
一方会場では白崎と相馬が今村を探していた。
「…どこにいるの今村くんは…結構広い会場だけどほぼ全部探したわよ?」
「先生なら本気で気配等を隠してしまえば目の前にいても気付けないかと…」
相馬の言葉に白崎は綺麗な顔を歪める。
(…失敗したわね…護衛なんて言ったから…でもこの姿を見てはくれているはずよね…どうかしら…)
祓と違って恐れられるほどの美貌ではないし、能力等も特にはない。その為、他人の前にもよく出ていたし、告白等も受けていた白崎は自身の美貌を知っていた。
そして今回は今村を魅了しようと自身の持てる限りの力を持って来ていたのだ。その美貌は祓と比べても遜色なく、この会場で一番目立っている。
(…少しは驚いてくれると嬉しいのだけど…)
この会場のどこかにいるだろう今村の目を意識しているとパーティーが始まる時間が近付き、料理が出て来る。
その料理を早速食べた人が思わず溜息を漏らした。
「美味い…」
その声を聴いた他の人々が続々と料理に群がって行く。
「へぇ…どれどれ?…本当に美味いな…」
「こんなに美味いのは初めてかもしれない…」
ざわめきが広がって行き、白崎が不審に思い始める。
(…あの人たちが褒めるとなれば相当な腕前よね…そんな腕前のシェフが来てるとなれば情報が入ってないわけないのだけど…)
相馬が白崎がその料理を気にしているのを察知して素早く持って来る。料理が出て来てほんの1分足らずですでに料理はほとんどなくなっていた。
「こちらです。」
「あら…ありがと。」
相馬が差し出したのは特に何の変哲もないスクランブルエッグのようなものだ。白崎はそれを一口食べて鳥肌を立たせる。
「ぅっ…これは…」
(どこにでもありそうなものだけど、こんなに濃厚な味の卵は初めてだわ…お城のシェフでも作れないんじゃないかしら…)
実際は卵自体の味ではないのだが、そんなことは作り手以外には誰も知らない。卵料理はすぐになくなり、ゲストが暴動を起こしそうになっている。
「…くっ!もうないのか!」
「貴様!二度食べただろう!」
「お前は一回の量が多いんだよ!」
醜い争いが始まったところに次の品。コンソメスープが来る。会場期待に沸き、一人一皿だからな!と誰かが仕切り始め、食べて行く。
司会が始まりを告げようとしているが、だれも見向きもしない。
「…これ…大丈夫なのかしら…」
白崎が呟いたその時だった。色の薄い金髪の美少女が屈強な男たちを連れてスープを飲んだ瞬間目を見開いて会場全体に響くような声で叫んだ。
「シェフを…シェフを呼びなさい!」
彼女はウェスタ。ウェスタ・ニアと呼ばれる少女だった。
「兄貴!卵無くなったみてぇです!」
「あぁ!?まだ式始まってねぇだろ!?そんなに腹減ってたのか!?」
厨房。スープを出したウェイターの報告を受けて若い料理人が叫んだ。今村はそれを受けつつ2メートルある肉の塊を解体する。
因みに魔牛の腿肉で、さっき今村が10メートル級のものを自世界の中で狩って来た。
「兄貴!何の肉ですかいそれ!」
「牛!ってかテメェら!焼け!これは一枚一枚焼け!そして盛り付けろ!」
「うぃっす!」
厨房は戦場とはよく言ったもので、今村が改造した銃(調味料を固形化して打ち込む)の乱射する音が鳴り響き、火柱が上がる中でパンの焼き上がりが報告される。
「うっし!盛り付けろ!運べ運べぇ!」
「芸術的に盛り付けろ!こんな立派な料理を粗末に盛り付けるんじゃねぇぞ!」
料理人たちは今熱くなっている。序でに今村の「氣」に中てられて、軽く超人になり始めている。
「いぃいぃぃぃやっほうぅぅぅぅ!」
「刀刀刀ぁ!」
銃声が止み、その代わりにおっそろしい技の冴えでフランスパンなどのパンの塊が綺麗に盛り付けられ、具が乗る。
勿論普通に味付けの無いものもあり、それにはバターが添えられているが、…バターも今村謹製のものだ。
「兄貴!ウェスタの奴が呼んでますぜ!」
「今忙しい!」
今村は牛の解体を済ませてステーキを何百枚か作ると次にすでにコックたちにさばかせている魚の方にかかった。
「サラダ出します!」
「時間かかり過ぎだ馬鹿!」
サラダが出される。…勿論今村の自世界で作られた天野菜だ。水は完全に切っているのに光を反射させている。
ドレッシングは冥界のスパイスをベースに、最近二足歩行を始め、ヒューマノイドスライムに進化しつつあるスライムが合成した液体を混ぜて作ったものだ。
「よし、小魚の方は大丈夫だな…」
立派に40センチくらいある魚たちがさばかれているのを見て今村は頷き、そして少し広い場所に出ると人を避けさせて2メートル程ある魚を出した。
「こ…これは…?」
「鮪!」
別世界産の。と付くが…黙って今村は速攻さばくと活造りにして盛り付けろ!と厳命した。見た目は完全にこの世界のものと同じなので問題はないだろうという采配だ。
「ふぅ…後は大丈夫か…」
「あなたね?ここのシェフは…」
と、ここで聞き覚えのない声が聞こえてきた。今村が後ろを振り返るとそこには屈強な男を従えた美少女がいた。その少女は今村をじろじろ眺めると不躾に訊いてきた。
「…あなた、名前は?」
「今忙しい。」
斬り捨てた。後ろにいるギャラリーがざわめき、次いで呆れた声が洩らされる。
「…今村くん…あなたホントに何してるの…」
白崎が頭を抱えて今村を見る。それを見てウェスタは少し目を見開いた。
「へぇ…これはフェデラシオン第一公女様…この男はフェデラシオンの極秘シェフと言った所かしら?」
「あぁ…ちょっと違う…」
何とも言えない白崎。ウェスタは各国首脳部と繋がりがあるので一国の公女とはいえ気を使う面倒な相手なのだ。
「専属人だな今は。ただ…お嬢様が出席するパーティーを失敗させるのはあれだったんでね。手伝いを…」
「兄貴!焼き上がりました!」
「よぉし!出せ!…ん?パテ使って焼き入れろ!焼き色が甘い!」
適当な嘘をついて場を収集させようとする今村。その途中でコックの一人が今村の目の前に魚を出す。今村はそれを甘いと斬り捨てた。
「この調味料は焼きが甘いと本来の味が出せねぇんだ気ぃつけろ!」
「はい!」
急いで持ち場に戻るコック。興味津々にみてくるウェスタ。頭を抱える白崎。それらを一瞥して今村はウェスタに言った。
「…あんたウェスタっていったな?後で俺があんたに特別メニューを出すから楽しみに待ってな。」
「へぇ…それは楽しみだわ…不味かったら…あなたを一生料理人として排除するから…」
「お嬢様。…次のご予定は…」
「却下に決まってるじゃない。こんなに面白そうなことがあるのに…」
取り巻き一同は去って行った。そして今村は歪んだ笑みを浮かべ、白崎に詰め寄られる。
「な!に!し!て!る!の!?」
「料理。…あぁ、とりあえず料理喰って待ってて。護衛はちゃんとやってるから。にしても…そのドレス姿じゃ狙ってくださいと言わんばかりじゃねぇか…性的にも命的にも…」
今村の呟きに白崎はさっきまでの怒りを忘れて急に勢いを失う。
「え?あ…そ…似合ってるかしら…?」
「凄くね。」
とりあえず褒めて許して貰おう作戦は功を奏したらしく、白崎は嬉しそうに去って行った。
今村はそれを見送って今村の特異料理を作ったのであった。
ここまでありがとうございます!
あ、特異は合ってますので…得意じゃないです。




