11.楽な潜入
(さて、情報収集行きましょう。)
今村はサーベルライガーたちを乗せたまま早速行動に移していた。『翔靴』を使って高速で北上して行き、相手の目星をつける。
(確かあいつが言うにはインバイト家だったよな。あんまり目立ちたくないし…『錯視錯覚』)
とりあえず異世界に旅行に行く準備が完全に整うまでは目立つようなまねはしたくないので今村は周囲の人間から見えないようにしておいた。
「…ついでに『自聴他黙』。」
声も聞こえないようにして潜入を開始。するとあっさりその家は見つかる。
「ふむ…王城の次にでかいが…趣味がいいとは言えんな。」
インバイト家の屋敷を見た感想は派手のち奇怪だった。統一感のない外壁の色。何の機能かよく分からない雪を落とすには向いていなさそうな屋根。凸凹している壁。
「…成程。嫁ぎたくないわな。」
上空から見てみると偉大なるインバイト家と庭のミステリーサークルのようなもので書いてあるその家を見て今村はそう納得した。
「…さて…どう侵入するかな。こんな奇抜な家に潜入とか面倒…」
髪の毛一本窓の隙間から入れて鍵を開けるだけで普通に入った。
「どこにいるかな~」
気配を探りつつ今村は歩を進める。呑気な口調に合わせて子猫たちが歌う。
「にゃーにゃーにゃにゃにゃあ♪」
「みゃーみゃーみゃ♪」
「ZZZ…」
肩にいる二匹が歌い、頭の一匹がそれを子守歌にして眠る。何の緊張感も感じられない潜入だ。寧ろ癒されながら今村は調査をしていく。
そして見つけた。
「ん~何か偉そうな口叩いてるし…多分あれかな。『呪式照符』」
今村は「ドレインキューブ」で音を吸収してドアを目にも映らぬスピードで開閉し、部屋に侵入した。
中にはかなりお盛んな様子のビール腹で目の下に紫色の半円を持っているいかにも悪人貴族といった風貌の男が真昼間というのに女性を組み敷いている。
メイド服が乱雑に捨てられていることからメイドかねぇ…と思いながら「呪式照符」の観察結果を待つと出て来た。
「ビンゴ。性格等全部調べ上げていきますか。」
比較的穏便で、尚且つ害のない調べ方で今村はそこに残った。女性の嬌声が聞こえる中今村はガン無視して眼を変える。
「『ディサイファーアイズ』。」
(フーム…プライド高め。容姿には自身無し。小心者。小心という事を隠すために周囲に高圧的。研究者。遅漏…)
次々に情報を引き出していく今村。その中から必要そうな部分だけ抽出していく。
(あ~俺の神核も後もう少しで完成だな~これもできるようになったし…まぁ本調子でもこれはあんまり使うと眼精疲労になるから使いたくないけど…)
「にゃ~…にゃぁおぉ~(ご主人様ぁ~こんなの見たくない~)」
「みゃー…(くさいー)」
「ふしゅっふしゃっ」
サーベルライガーたちに大不評なので今村は出来るだけ早くそこから出ることにした。
「ただいま~白崎も大変だな~」
今村は「幻夜の館」に戻った。サーベルライガーたちにはご機嫌取りに水浴びとブラッシングをすることを約束している。
余談だが普通のサーベルライガーは泳ぎが得意で水は結構好きだ。それとは別に今村が育てている子猫たちはいつも面倒を見ているのが液体。なので一般のサーベルライガーより水が好きだし、水魔法も多少嗜む。
一つ言っておくと、サーベルライガーは魔法を使わない。魔合成物質やら色んなものを食べさせてきた結果偶然魔法を使える個体になった。
それはさて置き、祓と白崎は何か話し合いをしていたようだ。今村を見ると話をかなり強引に打ち切ってソファに座り直す。
「…とりあえず計画は練る。結構ボロまみれだからやりやすい。…ってかこれ位自分で何とかしろって思った。」
「…誰もがあなたと同じレベルで物事を考えられると思わないで…」
諦観混じりの白崎の言葉に今村は自嘲の笑みを浮かべたがすぐに消した。
「まぁそれはそれとして、国外退去が一番簡単なんだが…」
「…それはちょっと困るわね…今開発の技術はあそこ技術と言っても過言ではないから…」
「じゃ、別案を一所懸命に考えますよ。」
今村が軽く笑って応じると祓が今村をジト目で見ているのに気付いた。思わず可愛いと思ったらしい白崎が顔を緩めて祓を抱き締める。
「…おぉ…邪魔したみたいだな…」
「ちょ…違います!」
今村が退出しようとするのを祓が止めた。今村はバックに百合の花が咲き乱れている気がしたが、気のせいで「ディサイファーアイズ」の影響で眼精疲労になったか…と割り切ることにした。
「…何?」
「…先程の挨拶が久し振りだったことです。」
祓は白崎と今村の関係がどういうものかはっきりわかったところで安心し、冷静になった。そこで今日、学校に最初に言いたかったことを思い出したのだ。
「ずっと放って置かれた…」
「あぁもうコロル可愛い!」
「…やっぱ邪魔したな。あと目薬が必要のようだ…」
「違います!私怒ってるんですからね!」
やはり百合の花の幻覚を見てしまう今村。ここは「幻夜の館」。幻覚を見る事があっても珍しくはないのかもしれないがいつも見なかった。目薬が必要だ。
「怒ってるコロルも可愛い…何でこんなに可愛くなったの?」
「それは…先生がいるから頑張って…」
「照れるコロルも可愛い!」
勝手にやってろという気分になる今村。祓のテレパスには白崎が城にいるときとは全く違う自由な心持ちになっており、本気で祓を可愛いと思っていることがわかり、少々扱いに困る。
(…でもこの点は気に入らないみたいだけど…)
そっと自分の胸と白崎の胸に目をやる。そして視線を悟られないようにそのまま今村の方を向く。
「先生。何で『幻夜の館』に来なかったんですか?」
「忙しかった。」
思考を誘導してテレパスを仕掛ける。そして祓は絶句した。
(な…何してるんですか先生は…)
戦争。戦争。戦争。それと自分の研究や相馬の為の反省の間の建設。そして戦争。何故か読めない部分が結構あったが記憶の半分が戦争だったのだ。
しかも死に掛けたりしているのを誰にも悟られていない。アーラムと言うこの世界の創造神である少年神にも悟られず重傷を負って笑っている。
そしてそれを特に何とも思っていない。大して重要なことだと思っていないのだ。まるで何か工場のレーンで運ばれてくるくらいの感覚で戦争をこなしている。
「…忙しかったなぁ…まぁお蔭で良いもんできそうだからいいけどね。」
自身の神核製造のことを思い出す。あれには大量に犠牲が必要なのだ。部品が次から次に流れてくるのは幸いだったが多少疲れたし、死にかけたので苦笑いがこぼれる。
(まぁでも楽しそうだからいいんだけどね。…少なくとも昔並には戻らないと…)
かける声を見つけられない祓と思い出に浸る今村。白崎は別に考え事を始めて沈黙がこの場に降りてくる。
それをぶち壊したのはひときわ大きな声の「ガルルルル!」という低い声だった。それとほぼ時を同じくしてドアが開け放たれる。
「終わりました!」
「よし、次行ってみよう。」
今村はラバーに「次はサーベルライガーの気持ちになってみよう」と言って呪いをかけて虎にした。
祓は何だか気が抜けて、自身の感情を整理した。
(…次からは先生と一緒にいよう。先生が無茶なことをしないように…)
そう決めると後は自分の胸に視線を固定させている姉をどうするかということに考えを巡らせることにした。
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