12.鈍感
「今村くんちょっといいかしら。」
白崎がここに来て3日が経った。今村は出来る限り簡単な計略でインバイト家と白崎の婚姻を止めようとしている。
「ん?…結構忙しいんだが…」
「…何で蜂須賀君が私の所に来たのかしら。ねぇ。」
今村は顔を背けた。
「ねぇ?私がこっちに来てるのは極秘事項よ?何で一般人の彼が知ってるのかしら。」
「…風の噂じゃないか?」
「私があなたのことを憎からず思っているのはわかる?」
「そりゃまぁ…」
卒業式に呼び出すくらいだしな。とは思ったが、今村は誰とも付き合う気はないし、相手が不憫なことになるだろうからそういう事もしないつもりだ。
「そして私は蜂須賀君は別に好きじゃないのも分かる?」
「そこは何とかなるはず…」
今村は自分は付き合ったりそういう事はしないつもりだが、他人のものは大好物だ。ハーレム作らせて修羅場を見るともうそれだけで食事が進む。
それとは別に甘々なカップルを作ってうえぇ…と思いながら冷やかすのも大好きだ。
後は逆ハーも好物で、前世においてアリスはそれで酷い目に遭った。八割アリスから仕掛けていたが、今村の反撃は酷すぎるものだった。それでも頑張って…話が逸れた。
今回、今村は甘々カップルを積極的にプッシュしたいと思っている。その為、白崎の言葉に反論したが、白崎は蟀谷を引くつかせた。
「何ともならないわ!私は決めた人がいるし…」
そこで今村を見ても今村はすでに目を逸らしきっているのでその様子には気付かない。白崎は溜息をついた。
「…この鈍感!呪われ過ぎよ!」
「何か分からんがありがとう。」
見当違い過ぎる今村の言葉を受けて白崎は嘆息する。
「…悪いと思ってるの?本当に…」
「まぁあの時呼び出しを受けなかったせいで婚約とかなってしまった件については本気で悪いと思ってる。巫山戯た真似だと思ってるだろうが…あいつは本気でお前の事が好きみたいだったんでな。」
今村が真面目な顔でそう言うと白崎の感情が抑えきれなくなり始める。
「そんなの知らないわ!私のことも考えてよ!」
「…それは悪かったと思ってるから、今婚約破棄に向けてやってるところだ。なるべくお前の名前に傷が残らないように…」
「そうじゃない!」
「…何だ?」
今村は少々苛立って来た。元々偉い奴は嫌いなのだ。それで感情的に何か言われるとなれば腹も立つ。
尤も、それは見当違いにもほどがあるし、周りから見ればふざけるなとも言いたいものだが。
白崎は大きく息を吸って無理矢理気分を押さえつけた。貴族なので一応心の扱いには長けている。ただ、あまりにも目の前の男が分かっていないので腹が立ったがそれ位は普通にやってのけるものなのだ。
「…明日。アフトクラトリア主催のパーティーがここの近くであるの。あなたも来てくれるかしら。」
「まぁ…別にいいが…何で?」
もう一度湧き上がる気持ちを押さえつけて白崎は努めて冷静に言った。
「…私を見ていて欲しいから。」
「アレ…聴覚が…」
衝動的に手が出そうになったのは仕方がないことだと思う。だが、これは呪いこれは呪い…と落ち着かせる。
「ん。戻った。あんまり酷いこと言われると勝手に聞こえなくなるんだ。その辺気を付けて。」
「えぇわかりましたとも。護衛に来てくれるかしら!」
「いいよ。」
白崎は乱暴にチケットのようなものを今村に押し付けると今村の部屋から出て行った。今村は立食パーティーと大きく書いてあるそれを見て歪んだ笑みを浮かべる。ろくでもないことを思い付いたときの笑みだ。
「…まずはガニアンの所に行かないとな…」
そして今村はマジックアーケードを仕切らせている人物の所に飛んだ。
当日。ドーム状の建物の前、真夏の暑い中、今村は「黒魔の卵殻」で熱気を遮断して悠々と目的地に着いた。
「…ククク…よう相馬。」
「え…はい…それで祓の知り合いの人は…」
「もうすぐ来る。それじゃそいつには俺は既に中にいるって言っといてくれ。お前…わかってるな?」
「はい。護衛です。この身を一振りの刀として戦います。」
「…失敗したら殺すからな。それとここに来たやつには何があっても守ってやるから安心しろと伝えておけ。」
何の冗談も含まない口調でそう言うと返事も待たずに今村は先に入って行った。その直後、薄い黄色のドレスに身を包んだ白髪の美女が車から降りてきた。
「…何でもう入ろうとしてるの…」
来て早々呆れた声を漏らすその美女に相馬は一瞬見蕩れてしまうが、すぐに我に返る。
「白崎様ですね。本日今村先生の命で護衛に就かせていただきます相馬 剣二と申します。」
「…チケットがないとあの中には入れないわよ?」
視線は受け付けの人間にチケットを見せて中に入っていく今村にくっついたまま相馬の言葉に返答を返す。
そんな相馬の手の中には別のチケットが。
「…えぇと…?申し訳ないですが…どちらの方ですか…?」
今日来る人の名前と顔は全て叩き込んだはずなのに目の前の青年の顔に見覚えはなかった。白崎は訝しげにそして失礼に当たらないような口調で尋ねる。
「特にどこの家というわけでもありません。…このチケットは先生がくれたものですので…」
「あの…っ!」
どうにも思い通りにしてくれない今村に怒りを覚える白崎。こちらがどれだけ準備して来たのか、どれだけの心構えをしてきたのか本当に分かっていないことに腹が立つ。
「それと伝言です。『何があっても俺が守ってやる』とのことです。」
「…その通りに言ったの?」
「はい。原文通りです。」
「嘘偽りなく?」
「勿論です。先生の言葉を詐称するなんてことできません。」
「…ぅ」
これだけの言葉に喜んでしまう自分の心が憎かった。怒りの力が鈍るのが許せなかった。…が、嬉しいのは嬉しいのだ。好きな人が自分を守ってくれるシチュエーションには憧れてしまう。
「あぁもう…兎に角中に入るわ。」
「はい。」
「…それにしても今村くんはどこからあのチケットを…偽造なんてしたら入場者の数で分かるというのに…」
白崎は文句を言いながら中へと入って行った。
その頃今村は迷子になっていた。
「室内のくせに広いんだよ…」
理不尽な怒りをぶつけつつ何だか薄暗い廊下を進んでいると何かに躓いた。
「いてっ。」
全く痛くもないし、よろけもせずに何の感情も込めずに今村はそう言って何に躓いたのか見る。するとそこには床に直に体操座りして死にそうになっている男がいた。
「…霊かぁ?」
「生きてるよ…」
「じゃあ生霊か。ごめんね蹴っ飛ばして。」
「いいよいいよ僕なんて路傍の石ほどの価値もないんだから…」
何だか想像以上に面倒臭そうな奴を蹴っ飛ばした気がするが、それと同時に今村は面白そうな雰囲気を感じ取る。
「いや、何か申し訳ない。…ところでどうしたんだ?」
「君は…ここに来ているという事は…料理人だね?」
「まぁそうですね。」
さらっと嘘をついて今村はその男から話を聞くことにした。
「悪いことは言わない…今すぐ帰ろう…」
男は幽鬼のようにふらりと立ち上がると今村の両肩の少し上辺りにある薄い結界を掴んでそう言ってきた。
ここまでありがとうございます!
しばらくヒロイン不在で行きます。…4話位ですかね。




