零章「望まれぬ翼」
「生きたいか、少年」
長い静寂を破った言葉は、暗い部屋の中で静かに反響していった。
そこにあるのは、隅で蹲る少年と、そのすぐ前に佇む、騎士の姿。
部屋は薄暗く、板が打ち付けられた窓から、月明かりが差し込み、2人の間を照らしている。
「⋯⋯どうでも良い。どうせ俺は――」
顔を上げながら答えた少年を見て、騎士は思わずたじろぐ。
その瞳は、光を失い、この世の全てを見たかのように、虚無に染まっている。
焦点は合っておらず、身体からは完全に力が抜けて、衰弱しているように見える。
声音は、諦めが宿っていると同時に、どこか激しい感情が滲み出ていた。
「――俺達は、この世界で自由になれない」
「⋯⋯そうか」
悲しげに、でもどこか満足そうに頷いた騎士は、手に携えていた剣を八相に構える。
「なら、自由にしてあげる」
そして、無慈悲に、振り下ろした。
その夢に終わりはあらず。
夢が死ぬのは、見るものが滅びる時のみ。
翼がはためく時、誰かに不幸が舞い降りるだろう。
そして、誰かに救いが訪れるはずだ。
夢は終わらず、途切れることを知らない。
ならば、紡ぐことは、間違っていない。
誰かが憎んでも。
誰もが傍観していても。
その時は、いずれ訪れる。
英雄は、いずれ現れる。
それまで、この翼を守ることが、私達の役割なのだから。
私は、この翼を望み続ける。




