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悪魔の隣りでお昼寝させて~幼い私があなたをお慕いしていることは誰にも内緒です~  作者: 吉沢月見


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20.偽りのマリア2

 翌日には私はメイドとして潜入。ライゾン様の家の5倍ほど、敷地は数十倍もありそうで、下働きから入ったら奥様に会えることなど不可能なのではないかと思った。ともあれ、仕事をしていたらどうにかなるやもしれない。


 私が与えられた仕事は洗濯、ガラス拭き。それらをこなしている間にライゾン様が次の手を考えてくれるだろう。


 当主はまだマリアさんの旦那さんのお父様。その奥様は亡くなっているからこの家にとっての奥様はマリアさんのみ。奥様不在ならば使用人がざわつきそうだけど。


「奥様どころかメイド長にも会ってないわ」


 同じ仕事の女の子に私は言った。普通、メイド長を介して奥様に挨拶をするから。


「広すぎなのよ。冬は寒いし」


 このお屋敷に勤める割にはぶっきらぼうに話す子だなと感じた。勤め人にはお家のランクが出る。


「あなた、ここは長いの?」


「まだ半年。お給料はいいしメイドの部屋は離れにあって楽よね」


 そうなのだ。珍しく屋敷内ではない。普通は天井裏とかなのだが、抱えている使用人の人数が多いからだろう。


「あれは池なの?」


 窓から指を差して私は尋ねた。庭には馬もいる。


「そうよ。たまに旦那様がご友人と釣りをなさるの」


 まさかマリアは全てが嫌になって自ら身投げしたということはないだろうか。でもそれならば手紙なんてよこさないはず。彼女はどこかで息を潜めて助けを待っている。


「すごいわね。こんなに大きなお屋敷で働くの初めてだから緊張しちゃう」


 私は手がかりを見つけなければならないのに廊下の掃除だけで午前が終わってしまう。クビにならない程度にきょろきょろ偵察。


「下っ端が責任なくていいわ」

 と彼女は薄い唇を更に薄くして笑った。


 馬がいるということは馬小屋に監禁されているのかも。次期当主の奥様にそんな非道なことはしないだろう。私がしている仕事では家のことがちっとも見えない。食事係のほうがよかったのではないだろうか。



 当主とその息子は仕事で毎日のように出かけた。奥様である偽物のマリアとその弟の姿だけがずっとない

 私は状況を逐一ライゾン様に手紙で報告。どこへ行ってしまったのだろう。もう屋敷にいないのではないだろうか。


 外の窓を拭いていると、

「こんにちは」

 とお客様に声をかけられた。服や帽子などのいで立ちから野菜売りには見えない。


「どうも。ただ今、執事を呼んでまいります」


 メイドらしく私は頭を下げた。


「ああ、いいのいいの。スチュワードの同級生なんだけど家にいるかな?」


 私が探している弟の名だ。


「申し訳ありません。私はまだここで働いて日が浅いもので。少々お待ちください」


「待って。家にいるかもわからない? 薬を届けに」


「お医者様?」


 そうは見えない。


「ああ。ちょっと薬を持ってきただけなんだ」


 こそっと耳打ちされて気持ち悪い。玄関からではなく、こんな窓拭きの下女に話しかける時点で怪しいとは思っていた。


「お預かりしましょうか?」



「いや。とても強力な薬でね。一滴で牛一頭が死ぬ」

 それを人に渡すということは誰かを殺すのか、或いは自死。心中ということも有り得る。


「私ではわかりかねますので屋敷の者を呼んでまいります」


「いや、君でいい。頼んだよ」

 と小瓶を渡された。彼は誰かに姿を見られることに怯えているようだった。実はただの商人なのかもしれない。小瓶の匂いを確かめたいが、死んでは困る。ライゾン様の手下を呼んでそれを渡す。成分を確かめると本物の毒だった。


 あれを私以外が渡されたらどうなっていたのだろう。弟の手に渡ってマリアを殺すつもりなのかしら。

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