10.その後
厄介な仕事のあと、私は必ず知恵熱を出す。数日間寝込めば元通りになるはずが、今回ばかりは後を引く。
この前の一件は気味が悪すぎた。今までだって男の人に女として見られたことはあったし、危険なことをしている自覚もある。だけれど、本当に気持ち悪かった。自分が好きではない男に愛されることではない。常軌を逸した人って本当にいる。同じ世界に生きているんだ。そして彼は、自分がおかしいことに気づかない。そういう人と同じ空気を吸って生きているんだ。
いろんな人がいる。騙す人、騙される人、気づかない人、お金持ち、貧乏人。そんなこと、わかりきっていたはずなのに。
ベッドの中はちょうどいい。私はこの生ぬるさを手放したくない。このままこの仕事を続けていたら、私もどちらかに傾くのかしら。何度拭っても撫でられた頬の感触が消えない。
シャーロットさんが私のためにチーズケーキを作ってくれる。眠って、勉強はお休みして空ばかり見ていた。ごはんも食べやすいものを通いのお手伝いさんに作らせてくれている。それがとれもおいしい。だから私はちょっとずつ回復した。
「キリーナ、大丈夫か?」
元気になった私にライゾン様が全貌を報告する。
依頼主には本当のことを話し、オリヴィアは卒業後に先生と結婚が決まったらしい。私を監禁したのは理事長の親戚で養護教諭として学校に勤めていたが、これまでにも問題行動はあったようだ。彼に狙われたミッシェルはオリヴィアとは逆に休暇を利用してちゃんと家に帰っていた。両親に真実を話したものの、頭がおかしくなったと思われたのか家に閉じ込められているようだった。だが彼への捜査が行われ、親は彼女に謝罪してミッシェルも警察で真実を話すことになったらしい。
今回のことが明るみになりミッシェルの前にも監禁まがいのことをしていたから逮捕に至った。学校側もミッシェルがおかしいと決めつけ、生徒たちには秘密にしていたそうだ。生徒よりもあの変態を庇っていたなんて呆れる。
「キリーナのおかげで、将来的にあいつに関わらず助かった女の子がきっといる」
とライゾン様は褒め称えてくれるけれど、じゃあ捕まらなかったらずっと耐えて、怯えて、或いは殺された女の子がいたかもしれない。そう思うと運命を呪わずにいられない。
「運がよかっただけ」
私は言った。あの男に同じように頬を撫でられて、誰にも言えずに大人になった人もいるのだろう。
新聞沙汰になり、世の中を知る。捕まった犯人は気持ち悪い。が、大人が子どもを好きになると世間一般でも気持ち悪いんだ。ロリコンという言葉を初めて知る。
私はライゾン様に好意を寄せているけれど、それはどっち? 私があなたを好きな気持ちは清くて、逆は汚いということはないと思うの。世論なんて気にする必要はないのかもしれない。
それからも私はしばらくあの男のせいで夢にうなされた。気持ちの悪い言動がトラウマ。あの人が舐めた私の腕の毛根から、悪人の成分が私の体内に混ざらないのかしら。もっと嫌な恐怖を知っている私でもたびたび夢に見る。何も知らないご令嬢にとっては一生の傷。私ですら、知恵熱のあとでも男性不信。と言っても、私が関わるのはライゾン様と執事のスティーブだけ。二人はとても紳士。




