第41話
クランシャルデさんと二人で談話室を後にした。
清潔感のある廊下を突き進む。
「施設の設備を使いたいって話だけれど、現時点で何か案でもあるの?」
「将来的に作りたいと思っているものはあります。まだ取っかかりすらつかめてないんですけどね」
「そう。目的があるのはいいわね。あなたは基本属性全てに適性があるみたいだし、アプローチの方法なんていくらでもある。きっと取っかかりもすぐに見つかるわ」
細い腕がドアを開け放つ。
室内はよく分からない設備で飾られていた。ミステリートーテムを逆さまにしたような何かに、フラスコに似た器具。アームストロングが二回つきそうな太い棒もある。
よく見ると、二個の球体が自分の尻尾を追いかける犬のごとく回っている。
「あれは魔力球ですか。面白い動きですね」
「ええ。美しいでしょう?」
「え」
想定外の問いかけを受けて思わず振り向く。
発言した本人は、端正な顔立ちに真剣な表情を浮かべている。
「空気中に漂う魔素を吸って、それをエネルギーとして回転を続けているの。もう一か月近く回っているのよ」
「へえ」
「美しいでしょう?」
「そう、ですね。美しい」
分からない。俺には何がそんなに美しいのか分からない。
俺が間違っているのか? それともこれが魔族の感性なんだろうか。
「ところで、どうやって二つの球を棒の周りで旋回させているか分かる?」
「棒の周りで円を描く命令を出しているのでは?」
「じゃあ球に触ってみて」
「いいんですか? 触れた瞬間に爆発したりは?」
「しないわよ。さあ」
言われるがままに歩み寄ってボールに軽く触れる。
硬質な感触があった。球体が指から離れて元の軌道に戻る。
「どう?」
「どうって、別に何も――」
ない。そう言いかけて口を閉じる。
何もないわけがない。だってそれじゃ道理が通らない。
棒の周りを同じ動きで回る命令を受けているなら、今の一突きでサイクルが崩壊してなければおかしい。指に突かれた球体が軌道を外れて棒にぶつかっていたはずだ。
でもそうはならなかった。球体はまるで棒に引き寄せられるように軌道を戻した。これは一体どういうことだろう。
「何か気づいたみたいね。じゃ十秒後に答えを言うわ」
「すぐには教えてくれないんですね」
「それじゃ面白くないでしょう?」
俺で遊んでるなこの人。
まあいいや。俺も何か引っかかるような感覚があるし、答えを当ててやりたい気持ちもある。
俺はにやつくクランシャルデさんをよそに思考をめぐらせる。




