第103話
留学生の接触にはさすがに驚いた。
教会の刺客くらいは潜り込んでいるだろうと思っていたが、まさか大学で他国の工作員らしき人物と遭遇するとは思わなかった。
きっとマルフェ公国だけじゃない。
俺が気づかなかっただけで、今もセグランデ王国の覇権を阻止すべく色んな人が動いているのだろう。
哀れ魔王国。すでに人類は勝ったつもりで物事を進めている。
六幻征の大半を勇者にほうむられて、頼みの惑星魔法も侵攻が遅れれば俺や教授の魔法に対策される。彼らはこれからどうするつもりなのだろう。
びっくりな出来事といえばもう一つあった。
「何で大学にいるんだ?」
この問いかけが口を突いたのは、俺が二年生に上がってすぐのことだった。
いつも通り中庭で時間を潰していたら、赤と金の美貌に呼びかけられて今に至る。
「あ、オープンキャンパスか」
「何それ」
「いやこっちの話。二人とも学園はどうしたんだ?」
「飛び級したんです。試験をパスして」
ラピアとレベッカの学力なら十分に可能だ。それは俺がよく知っている。
それを踏まえても驚きはあるが。
「もしかして、これをするために屋敷で勉強を教えてくれって言ったのか?」
「はい。レベッカと話し合って決めたんです。カムル様がまたどこかに行ってしまう前に近くで監視しようって」
「監視って、言い方」
「前科がありますからね。私とレベッカで二回逃げられてますし」
「私は別に、逃げられたなんて思ってないけれど」
レベッカが右方に視線を逸らす。
バツが悪そうにしながらも明確な否定はない。レベッカも俺が蒸発する可能性までは捨ててないってことか。
思わず苦笑いがこみ上げる。
「ここまでくるとむしろ信用だよな」
「笑いごとじゃありませんよ。当時はカムル様がいなくなってショックだったんですから」
ラピアがほおを小さくふくらませる。
すぐとなりで繰り返されるうなずきが笑いを誘う。
「逃げないって。もう何も言わずに消えたりはしないから安心してくれ」
「約束ですよ?」
「ああ、約束だ」
「君たち、今時間いいかな」
靴音が近づく。
三人の男性が歩み寄ってきた。
確か同学年、のはずだ。
「お嬢さん方、そこの人が誰か知っているのか?」
「はい。ニーゲライテ卿ですよね」
「ああ。そいつは一度異端審問にかけられてる。肩書きに目がくらむのは仕方ないけど接点を持つのは考えた方がいい」
これはまた何というか、判断に困る連中が来た。
ラピアとレベッカは美人だ。取られる前に声かけする連中がいてもおかしくない。
でもはたから見た俺はいわくつきの人物だ。彼らが純粋な善意で忠告している可能性も捨てきれない。
ラピアがにこっと微笑んだ。
「忠告ありがとうございます。ですが私たちの目は節穴ではないつもりです。交流する相手は自分で選べますよ」
「いや、だけど」
俺はチェアから腰を浮かせる。
三人の男性が息をのんだ。怯えられている現状を認識させられて苦笑いがこみ上げる。
表情は微笑に努めて口を開いた。
「二人は俺の知り合いだ。俺の悪いところを知った上で交流しているんだよ。変な心配をさせて悪かった」
「そ、そうか。ならいいんだ」
三人が足早に歩き去る。
「カムル様が謝るようなことじゃなかったのでは?」
「善意からの忠告だったかもしれないんだ。無碍にするのも悪いだろ」
「大人なのね」
二つの表情はいまいち不満気だ。
ラピアたちが見ず知らずの下級生だったら、俺は適当なことを言って中庭から歩き去っただろう。
でも二人は違う。角が立つようなあしらい方をしたらラピアたちの今後に関わる。俺のせいで恥をかかせるのは忍びない。
素行にも気をつけよう。
こんな俺を慕ってくれる二人のためにも。
「そろそろ講義が始まるわね。私たちはもう行くけれどカムルはどうする?」
「俺はここでレポート書いてるよ」
「分かった。ラピア、行きましょう」
「はい。ではカムル様、いずれまた近いうちに」
「今日からよろしくお願いするわね、先輩」
何ともこそばゆい響きを残して、二人の少女が中庭を後にした。




