第18話 産業基盤
「楢の木が資源になりませんかね」
一日、アジトを訪れたランブルが言った。
ナラの木ってのは、オークの木と並んで木材として最も使われるもの、のはず。
俺の知識じゃそのくらいまでしか判らない。
どういう特徴があって、何に使うのが向いているとか、そういうのはさっぱりだ。
水車小屋の残骸に住んでいた頃、固ゆで野郎のライノスからもらったのが、たしかナラ材だった気がする。
「木というのは、寒い地方ほど良いものが多いのですよ」
「なるほど」
北の果てであるグリンウッドなら、良い木材がとれるというわけか。
木の需要がなくなるなんてこと、永遠にあるわけがないからね。基幹産業としては充分にありだと思う。
農業や林業は国の基だもの。
「良いんじゃないかと思うよ、ランブルさん。ただ」
「保留付きですか、そのこころは?」
「名産ありきで考えるのが、なんかピンとこないなって思っただけなんだけどな」
「というと?」
「何を食べたいのか考えてから食堂に入るべき、という話ですわ」
にょきっと居間に入ってきたメイシャが話に加わった。
そうなの?
視線で問いかけてみる。
「この街の名産はキノコだからキノコ料理を食べようと店を探したら、たいていハズレを引くという話ですわ」
そうなの?
芸がなくてごめん、本当にそうなのという感想しか出てこないんだ。
「なので自分がまず何を食べたいのか考えるのです。たとえばハンバーグが食べたい。なるほど、この町はキノコが有名なのか、ならばキノコのソースのかかったハンバーグにしよう、と、進めていけば間違いがありませんわ」
「つまり、ナラの木を使ったなにかを売ろうではなく、なにかを作るためにナラの木が良い、という風に思考を進めるのですな。メイシャさん」
すごい。なんかランブル判ってる。
メイシャのとりとめのない説明を理解できるって、じつはこの人の受信能力は特筆に値するんじゃなかろうか。
きょとんとする俺にランブルが笑いかけた。
「ナラの木があるなら酒樽を作ろうかと思っておりました」
「普通の発想だと思う。おかしなところは何もないと思うけど」
「ですが、そんなものはどこにでもあります。差別化はできません」
「そりゃそうだ」
酒樽で差別化するとすれば、素晴らしい材質の木だとか、ものすごい数を生産しているから供給が滞ることはないとか、その程度だろう。
それでは名産とは言いがたい。
『絆のからあげ』のようなインパクトがない。
「わたくしでしたら、まず何を食べたいか考えてしまいますが、ランブルさまやネルママなら、別の考えができるのではないですか?」
「何があるかではなく、何が欲しいか、か」
「いま欲しいのは商会の建物ですな。となると大工の育成ですか」
ぶつぶつとランブルが呟いてる。
なんか思いついたらしい。
「ちなみに、なんでそんなに潤沢な森林資源があるんですか?」
ふと心づいたようにミリアリアが尋ねた。
たしかにそれは気になるよね。
大都市の周りって、たいていはげ山だもの。
人口が多いってことは、それだけ薪の消費も多いし、建築資材とかの需要も多い。
どんどん伐採されるんだ。
「そうでした。それを頼みにきたんでした。すっかり横道に逸れてしまいましたな」
ばつが悪そうに頭をかくランブル。
「ヌシがいるとか、そういう話かな」
「それです。よくおわかりで」
「『希望』に話を持ってくる時点で、だいたい想像できますよ」
俺は肩をすくめた。
隠密活動中の俺たちにできることってそんなに多くない。政治力が使えないからね。
「数千年を閲する妖樹がおり、森林開発を妨げているらしいのです」
「めんどくさい相手がきましたね」
うひぃ、という顔をミリアリアがした。
魔法使いにとっては、かなり戦いにくい相手である。魔法耐性がバカみたい高いくせに自分は使ってくるという反則くさいやつらなのだ。
しかも護衛としてヒグマとかを操ってるからたちが悪い。
「サリエリの干渉力なら、トレントの支配からヒグマを解き放てるかもですけど」
「ない袖は振れない。ユウギリもいないから、遠距離攻撃はミリアリア頼りだな」
サリエリとユウギリがいないってのは、戦力としてものすごいダウンだ。
セカンドアタッカーがいないってことは、俺が前に出るしかないってことだし、弓使いがいないってことは援護がかなり手薄になる。
「元々こんなもんだし!」
俺の心配とは裏腹にアスカは元気いっぱいだ。
こいつはどんな強敵に対しても、おびえて動けなくなるってことはないからね。
「そうスね。キマイラを倒したときだってオレたちは五人しかいなかったスよ」
「そうだったな」
メグが加入して間もないころだ。
五人でキマイラに挑み、勝利したのである。
今にして思えば、よく勝てたよってレベルの戦いだった。
「あのときと比較したら俺たちもずっと強くなってるからな。トレントごときに負けないさ」
「え? 母ちゃんの戦闘力ってそんなに変わってなくない?」
アスカの冷静な突っ込み。
みんなが一斉に笑う。
「ひどいね……お前さん……」
さめざめと泣く俺だった。
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