お客様のできあがりっと
「言った通りだったろう?」
「はい! ありがとうございます!」
その後、どうやらバートンとハリエットは除名処分となったらしい。
もしも嘘をついて仲間を追放しようとした程度なら一々お咎めなんてあるわけがないが、今回はギルドマスターの名を騙った上での文書偽造だ。
とてもではないが、弁明の余地もない。
聞けば、どうやら報酬の取り分についての不満だったのだそうだ。
四人で分けられた報酬は、なるほど新米には少なく思えたのだろう。なので、パーティで一番能力の低い(と思われる)エミリオを強引に追放する事としたのだという。
あとで揉め事にならないように、ギルドから完全に遠ざけるための行動だったらしい。
それが原因で自分たちが除名となるのだから、自業自得というほかない。
エミリオには、俺の知り合いの冒険者を紹介しておいた。
コイツは要領が悪いだけで実力は中々のようだし、まともに力を発揮できれば役に立たないなんて事はないだろう。
何より、実力を正しく評価される事は成長にもつながる。エミリオ自身のためにも、前のパーティを抜けたのは良かったのかもしれない。
「今日はお礼がしたくて来ました! これ差し入れです!」
「おぉ、わざわざ悪いな。別に報酬は貰ってるから別に良かったのによ」
エミリオが持って来たのは、近頃この街で話題の菓子だ。
俺自身はそこまで甘い物が好きなわけではないが、せっかくなので頂くとしよう。
「……それで、なんだが」
「どうしました?」
「なんです?」
俺の視線を受けて、不思議そうに首を傾げる。
エミリオの腕に自分の腕を絡めるその女は、なぜ自分が見られているのかも理解していないようだった。
「アマンダさん……だったかな?」
「はい。ローランスさんのお話はエミリオから聞いています」
「ああ、そう。んで、なんでいるわけ?」
急にご挨拶がしたいなんて言って訪れたと思えば、まさかの二人連れだった。しかも、自分を追放しようとしたチームの一員だ。どれほど驚くなと言われようと、これは驚いてしまう。
「ああ! 僕達は今お付き合いしているんですよ。あとの二人と違って、彼女だけは僕の事を心配してくれてたんです」
「私、ずっと二人のやっている事はおかしいと思ってたんです!」
「あぁー、そんな事言ってたな」
「はい! だから、今回の事にとっても感謝しているんです! 改めてありがとうございますローランスさん!」
「……ああ、うん、どういたしまして」
エミリオ。
別にこのまま長く続くのならそれで構わないが、もしかしたらすぐにまた世話をする事になるかもしれないな。
一応、別の冒険者パーティもチェックしておくか。
「まあ、一応丸く収まって良かったな」
「はい! 全部ローランスさんのおかげです!」
「それはもう分かったから。悪いが、このあと別の仕事があるんだ」
「ああ、そんなんですね。じゃあ、僕達はこの辺で失礼します」
最後まで手を繋いだまま、二人は店を出ていった。
ニヤニヤとだらしない顔をしているエミリオを見ると、どうにも不安になってしまう。
「紹介したやつが問題を起こすとウチの評判が落ちるんだがな……」
その辺りは、もう祈るしかない。
今からエミリオを引き止めて、やっぱり紹介は無しなんて言えるはずがないのだ。
「し、失礼します……」
「…………」
「お、毎度! ローランス職業案内です!」
エミリオと入れ替わりに、お客が店に入って来た。約束の二人組だ。
幸いに、エミリオとは出くわさなかったらしい。
「お名前をお聞きしましょうか」
「ハリエットです」
「……バートンだ」
エミリオを追放しようとした元パーティメンバーだ。
除名された事で、行くあてがなくなってしまったのだろう。沙汰が言い渡されて、すぐに泣きついて来た。
「どんな仕事をお探しで?」
コイツらは性悪だが、そんな事は関係がない。
どんな相手だろうと、お客である事に変わりはないからだ。
実際にはコイツらが除名処分になった一因は俺にあるわけだが、そんな事は知った事じゃあない。そもそもコイツらが悪い訳だしな。
まあ、俺はプロだし、手は抜かないさ。
コイツらにぴったりの職業を探してやるとするよ。
なにせ、ここはローランス職業案内。
どんな奴でもご案内、がキャッチコピーの、この街唯一の職業案内だからな。