表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/19

U's Yos fou Oneil

 剣を握ったその手にはきっと勇気やら希望やら正義やらが籠っている。一人の少年は、形成魔術により生み出された鉄に輝く無骨な剣を握りしめていた。夢害。なんてクソったれなネーミングだ。あれは害なんかじゃない。いいや、それよりも恐ろしい、厄災に他ならない。現状人類は奴を封じる手段は持ちえない。衰退しきった世界じゃ誰一人として救えない。

 彼の形成魔術は想像する物全てをその場に生成される。それ故にその魔力消費は馬鹿にならない。やろうと思えば、きっと災害をも創造出来るだろう。まるで神の様なその力を、彼は一つの目的の為に翳した。大切な人を守りたい。ただその一心。幼き彼は純粋に人を信じているし、きっと自分の力も信じ切っている。確かにその力は信用するに値するだろう。最早神の所業さえ可能なのだから。


「はぁ……」


 故に溜息を吐いた。少年はまだ幼いにも関わらず。生きるという事に感覚は無かった。両親を奴に殺されて以来、凡そ感情という物が見受けられなかった。


「溜息は幸せを逃がすって聞いた事あるよ」


 彼に話掛けたのは、ショートカットの少女だ。その髪は闇の様に暗い。でも不思議と彼女には暗いという印象は無い。それはきっと目の所為だろう。深紅に燃え上がるような瞳は、まるで全てを見透かしているようだ。彼女の名前はシャルム・ドラハ。ドラハ家の末娘だ。少年にとっては敬う事が当たり前だが、彼女は少年に限ってそれを嫌う。正直、その性格の所為で色んな人に誤解されたので、こちらとしては、敬語で話したり、一定の距離を保っていたいのだが……。そんな事を言うと彼女はぷくぅっと頬を膨らませ拗ねた様に言葉を聞かなくなってしまう。大抵は少年が敬語をやめると治るのだが、たまにそれでも治らない事がある。その場合は食べ物で釣るのが最適だ。郊外にある少し寂れた商店街の中、ひっそりと建っているシュークリーム専門店の物を食べさせる。もうそれが目的みたいな物があるが、それで機嫌が治るのなら別に構わない。まぁ少年にとっては少し高値だが。そこは流石お嬢様という所か。献上品としては安いくらいだ。


「幸福なんて俺は持ち合わせてねぇよシャルム。今日は何しに来たんだ?」


「ん~君の魔術の練習台?」


「…………………………お菓子は作らないぞ」


「えぇ~そこをなんとか。ね?お願い」


 彼女が首を傾げる様に俺に強請る。この仕草は可愛いけれど、彼女の為だけに裏で膨大な金が動いているとなると少し恐怖さえ感じる。

 仕方無く、一つの苺を出すと、彼女はそれを嬉しそうに齧った。


「流石っ!瑞々しいの出してくれるじゃんっ!成長したんじゃない?」


「流石にあんなに作らされたり食わされたりしたら伸びるだろ。ていうかやめろよ、俺はそういう事をする為に魔術を練習している訳じゃない」


「やっぱり恨んでる?」


「……………………答える義理は無いな。「奴」を恨んでいようといまいとお前には関係ないだろ」


「関係あるよ?一応、ボクの家も「奴」達には一枚噛んでるからね」


 それは初耳かもしれない。少年は高等貴族だとは聞いていたが、まさか「奴」らに噛んでいるとは。いや、それも仕方ないか。ドラハ家も「奴」によって被害を出している。被害と言っても、一つの家が崩されたくらい。彼らの財ならば痛くも痒くもないはずだったが、何しろ崩されたのが、お社だったのだから。


「それでもだ。お前達にとっては利益になるんじゃないのか?」


「それは………でも、ボクは君に死んで欲しく無いんだよ。友達って呼べる人は君しか居ないからさ」


 少年とシャルムが一緒に居るのには少し理由がある。昔、彼女が「奴」に襲われた時、咄嗟に助けてしまったのだ。初めての戦闘で少年も傷だらけになったが、それによって得た命は思ったよりも重い物だった。見た目が普通に小さい女の子という訳もあって、彼は助けるまで気付かなかったが、その手の甲にドラハ家の龍の紋様が描かれていたのだ。

 残念ながら、格好よく勝てる訳も無い。初戦闘で勝利を収めたのは最早奇跡だ。彼の戦い方は自分を犠牲にした事を前提とした前線思想。それは己を蝕む呪いの様な物。運が良い。それだけで命を繋げれた。

 彼の形成魔術は実際には未完成だ。しかしながら、戦闘により少しだが自信を得た事により、前へ進めている気がしている。自分の知っている物しか形成出来ない。いや正しくは想像出来た物だ。昏睡魔術や、錬金術とはまた違う。必要なのは、彼の思想と魔力のみ。錬金する為の物質も必要ない。しかも一度に多くの物を作り出せる。しかしだ。先ほども述べた様に、この魔術を実戦的に使うには圧倒的に魔力が足りない。彼のキャパシティは決して多く無く、平民程度。ならば、キャパシティを増やす他無いが、それは貴族のみに許された術式を用いる事になる。貴族なのに平民程度しか魔力が無いなど恥に他ならない。元々彼女ら貴族は戦闘する訳ではないが、それでもプライドがあるのだろう。


「シャルム、これはどうだ?」


 生み出した一つの剣を少年はシャルムに見せる。その刀身は先ほどの無骨な剣なんかよりも鋭く鋭利で、宝石の様な装飾が施してある。宝石が使われている時点でその剣は貴族が扱う物とされている。何故彼がそんな物を作り出したか。確かに実戦目的で使用する為という事もあるが、一番は、シャルムに合った剣を作り出す事だ。お偉いさん、というかシャルムの親が、例の襲撃を受けて、シャルムには防衛策を弄じようと言う事を言い出したらしい。しかしこのご時世剣に至高品など見つかる訳が無い。結果、彼の戦い方を見ていたシャルムが親に彼の事をチクリ、剣を作り出す事になった。


「………正直さぁ」


 と彼女が剣を握り、呟く。


「別に剣を持った所で、ボクに剣術の心得なんて無いんだし、意味ないと思うんだよねぇ」


「じゃあなんでここに来てるんだよ」


「美味しいお菓子があるから?」


「…………………はぁ。お前ホント、暇なの?」


「お父様が行けって言ってくるのもあるよ?」


 こんなどこの馬の骨かも解らない野郎に娘を預けてるのは一体どういう了見なのだろうか。いや実際は彼の身分は徹底的に調べ尽くされている上に、ここまで来るのには護衛が三人。帰る時も護衛が三人着くため、何かあれば大体少年の所為になるのだが。押しつけがましいと言えばそれで終わりだが、大事な娘をこっちに送るなよ。その結果懐かれてしまった。武器が必要ならば、献上品として送らせれば良い物を。こういってはなんだが、がばがばすぎやしないか?


「ボクはボクで望んでここに来てるけどね」


「だろうな。中までは監視されてないから、制限されているお菓子を沢山食べる事が出来るもんな。こっちは大迷惑だ。あれで魔力を奪われるんだぞ」


「投影?には無問題でしょ?」


「…………あのなぁ。掛ける魔力によって性能は変わるんだからな?だから今まで満足できるような剣が作れていないんだろうが」


「剣とお菓子だったらお菓子の方が大事だもん。仕方ないよ」


「お前、何時か絶対太るぞ」


「なぁっ!?お、女の子に太るとか失礼だよ!?」


 彼女は少し顔を赤くし怒った様に言う。そうは言っても、今まで何回もここに来てたらふくお菓子を食べて行っているが、体形に変化は見られない。その胸も。真っ平なままだ。


「…………………ねぇ」


 彼女の目が凍てつく槍の様に冷たくなったが、少年は気にする事はしない。


「まぁ、これでも食えよ」


 と少年は一つのドーナツを作りだし、シャルムに渡す。それで彼女の機嫌が直るのだからつくづく安い女だ。お菓子で釣ればひょこひょこ着いてくるのでは無かろうか。そういう意味でも護衛が着いているのかもしれない。


「やめてよ太っちゃう」


 そう言いつつ彼女はもぐもぐとドーナツを食べる。何が太るだよ、と少年は、呆れながらも再び剣の形成を試みる。だが、先ほど渡した剣よりも良い物が出来るという訳でもない。寧ろ集中力が切れていき悪くなっていくばかりだ。あの戦闘時はもっとましな性能をしていたはずだ。火事場の馬鹿力という奴だったのだろうか。あれほど精巧に出来た事はただの一度も無かった。というよりも少年のその力は武器作成の為にあるのではない。元々は想像を現実に引き起こす力だ。これは固有魔術と言っても良いだろう。一般的に使われている、昏睡魔術や、転移術式などとは全くの別物。格が違うのだ。そうは言っても制御出来なければその力を有していたとしても無意味でしかない。


「そうだ、今度一緒に出掛けない?」


「無理だ。お前がどれだけ大切に扱われているのか知ってるのか?」


「お願いすれば問題ないと思うけどなぁ」


「あのなぁ。お前はドラハ家の末娘だ。そんな奴が、こんなド平民と一緒に居る時点で異常なんだよ。寧ろ奇跡なんだぞ」


「まぁまぁそうは言わずにさ。それに君はもう無関係じゃないよ?ボクの親公認だからね」


少年が溜息を思いっきり吐いた。シャルムと出掛けるなどまっぴらごめんなのだ。別に彼女が嫌いな訳じゃない。プレッシャーだ。護衛と両親の怪我をさせたら即刻処すというあの怖い目が浮かんでくる。彼にとってそのプレッシャーは経験した事が無い程の物だ。下手すればあの戦闘よりも体力を消耗するかもしれない。そう考えるとおぞましい事この上無い。


「ダメ……?」


 シャルムが目を少し潤ませ上目遣いで彼を見上げる。その表情は反則だろう。少年はまたも溜息を吐い

た。こんな表情をされては男としては断る事は出来ない。というかシャルムはきっと解っているのだろう。可愛いは作れる、か。解っているのにそれでも可愛いと思ってしまうのにはきっと理由があるはずだ。そうはいっても少年にはその理由の一切の見当が着かないようだが。青いな。とても青い。真っ青だ。


「解った行けば良いんだろ行けば」


「やったっ!」


 シャルムはそうやって歳に見合った喜び方をする。それを可愛いと思ってしまっている少年はもしかしたらロリコンなのかもしれない。………適当に立てた仮説だがあながち否定出来ないな。


「んじゃ詳しい日程は明日伝えるね」


「はいよ」


 嬉しそうな彼女の笑顔を崩したくはなく、少年は不愛想にそう返した。

 作り出せる剣の品質は落ち続けた為、今日の修練は中止となった

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ