第二十七話
電話を切ったあと、私はベッドの上に座ったまま、いろんなことを考えていた。
あの父親を、殺す――と。
私は、武に約束した。約束、してしまったのだ。
いのちをだいじに、とか言うけれど、死んでもいい人間というのは、いると思うのだ。たしかに。
でも――。
「……殺す、かあ」
思わず、呟いてしまう。
あの最低な父親が、死ぬのはまったくかまわないのだ。
でも、殺したら。
武も私も、きっといまの生活のままではいられない――。
そこまで考えて、はたと私は思う。
だって私は、いまの生活が嫌なのだ。毎日、あの男と顔を合わせて、二日に一度は殴られる……そんな生活が、嫌なのだ。
だったら。
そんな毎日、がらりと変わってしまったほうが――。
階下からは、父親の下卑た笑い声がかすかに聞こえてくる。どうせまた、ビールを片手にスポーツを観ているのだ。ビールもスポーツ観戦も、けっしてわるいことじゃない。なのにあの男と組み合わせると、どうしてここまで嫌悪感が沸き上がってくるのだろう。
子は、親を選べない。
よくそう言う、らしい。
子は親より先に生まれてくることができないのだから、親が最低な人間だった場合、親を、殺すしかない。
そういうことだと、思う。
……私が、あの男を殺したら。小学校の卒業文集とか、テレビに出るのだろうか。嫌だなあ。でも、仕方ないのかなあ。
よく考えてみれば、武もいっしょなのだから、武のぶんも、テレビに出るのかもしれない。
そう考えれば、多少は、気が楽になった。じぶんは、最低だ、とは思ったけれども。




