第二十二話
それまでにも何人かの女子に告白されたことはあるが、ひとりの女の子とじっくり人付き合いするのは、じつははじめての経験だった。
そもそも俺は高校に入るあたりまで、男どうしでつるんでいるほうが楽だと思っていた口だ。女の子なんて、面倒くさい。男どうしなら、下世話なことも話せるし、なにより余計な気をつかわなくってよくて、気楽だと――。
でも、ここに来て。
なんだか俺って男だけど意外と面倒だなあ、なんて思ったりしていた。
なにしろ、メールが気になる。スマホは震えていないのだから、返信が着ていないことを知りつつ、スマホを何回もチェックしてしまう。俺はもともと、人と連絡を取り合うのが嫌いではない。たいしたことは書かないが、ブログだってやってるし、友達とメールのやり取りをすることもしょっちゅうだ。だからこそ、余計に気になったのかもしれないとは思うけれども、それにしてもいままで、こんなに気になったことはなかった。
五月のゴールデンウィーク明け、学校がはじまった日。夕食後、ラジオの音楽番組を耳に突っ込んでベッドに寝転びながら、弥生にメールする。
『弥生ちゃん いま暇?』
『勉強してるけど いいよ』
『勉強とか偉い! 俺ぜんぜんしてない』
『武くんもちょっとはしたほうがいいよ』
『そっかな 宿題?』
『てか予習 何の用?』
驚いたことに、弥生はいつもなんの用? と訊いてくる。用なんかなくてもだらだらとメールをする俺にとっては、はじめて触れる価値観だった。
『用っていうか なんか、暇だったから』
さすがに、弥生ちゃんとメールをしたくって、とはまだ言えなかった。
『恋愛相談でしょ』
ああ、こういうところ女の子だな。すぐに恋愛の話になる。でも、それもよく考えれば仕方がない。というか、どちらかというと俺のせいかもしれない。俺はここ一ヶ月ほどずっと、夏美先生への恋愛感情を相談するという口実で弥生にメールしていた。嘘の想いをつくり出すっていうのも、なかなか難しいもんだった。
俺は頭を掻いて、隣の部屋の兄に聞こえないよう小さく唸る。そして数分悩んだすえ、返信を打った。
『恋愛相談かもしれない』
『うん 何?』
あるいはラジオのせいかもしれない。
甘ったるいラブソングが流れていて、ふたりは永遠の愛をうっとりと誓っていて、そのせいかもしれない。
俺は、弥生に。
俺がほんとうに惹かれて止まないのはもはや夏美先生なんかじゃないって、言いたくって堪らなくなった。
『俺の本命違う』
よく考えて打ったら、かえってぶっきらぼうな文面になった。
『へえ 誰?』
ストレートに訊いてきた。俺は勢いのまま、指を動かす。
『弥生ちゃん』
送ってしまえば、胸の奥から深い息が出てくる。
返信が来るまでに、少し間があった。
『打ち間違い?』
『違うよ 俺の好きなの弥生ちゃん』
また、少し時間がかかった。
『今夜は風が気持ちいいよ』
意味不明な返信に、俺の頭ははてなマークでいっぱいになる。
『ごまかし?』
告白してしまったという焦りから、ついついそんなことも訊いてしまう。
『違う 今から会えない?』
ああ、そういう、ことか――。
こういうとき、漫画かなにかの主人公だったら空気を読んですぐにそういう意味だと悟れるんだろうなと思い、少し自分の鈍さが恨めしくなった。
時計を見ると、七時。まだ、外出してもゆるされる時間だろう。
返信を打つ。
『会えるよ』
耳もとでは、先ほどとはべつのラブソングが流れている。この先なにがあっても、永遠に俺はきみを愛し続けるらしい――。




