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二度目の逆転

逆転王女 2





六年の間、私は割と放置気味で育った。離宮にいるべき巫女だった妾の女性が、もうとっくに病に倒れてこの世を去っていた事も、すぐに知った。

誰からも弔われないまま、離宮の裏に墓も作られずに埋められたと聞いた時、流石にそれはあんまりな気がして、私は亡国の作法だったという、死者の墓に植えるという柊の苗を植えた。この事に周りはいい顔をしなかったけれども、結局


「あの女の娘だから死者を弔う作法も知らない愚かで無知な子供なのだ」


という事にされて終わった。

もちろん最初は何が起きたのかわからなかったし、私の母は巫女ではなくて隣国の姫だ。そう訴えても、離宮の門を閉ざす兵士達が呆れた調子で


「お姫様は何を仰るのか。貴方の母はこの離宮の日陰の身の上なのですよ。お辛いのでしょうが、妄想はしてはなりません」


と言われて、そこから私も考えた。

小さな十歳の子供にも、考える脳みそは持ち合わせがあった。そしてそれまでの教育で、思慮深くなるようにと言われていたのもあって、私は一人、考える時間だけはたんまり会ったから、子供なりに色々考えて、一つの答えを導き出した。


「私は神様ときっと契約したんだわ」


と。

母の病を治したくて祈りを捧げ続けた日々はきっと、本物の神様を呼んだのだ。そして神様も、無償で一人の女性を特別扱いで助ける事を選ばず、あの時私に取引を持ちかけたのだろうと。

あの時、大事なものと引き換えにという言葉を言われたのは間違いじゃなくて、私の立場という、それまで私が培ってきた大事なものと交換に、母を救う、という事だったに違いない。

ここで普通は怒るのかもしれない。でも私は怒らなかった。


というか


「お母様をこれっぱりのものでお救いくださってありがとうございます神様!!」


そう、神様の太っ腹さに感謝した。

母の娘じゃなくなった事はとても悲しいけれども、幸いというべきか、最低限の衣食住は離宮でも与えられた。

王の姫があまりにも馬鹿すぎると政略結婚の時に国が笑いものにされるから、というもっともな理由で家庭教師も、今までと比べれば数段下がる基準でもつけてもらえた。

離宮の外に出られないことだけはどうにもならなかったけれども、不自由はそれだけ。

神様は命と引き換えとか、悲惨な生活と引き換えとか、そんなしみったれた事はしないで大盤振る舞い、私のそれまでの立場、だけであの死神が微笑むような病から、母を助けてくれたのだ。

感謝感激雨あられと言うと大げさだけれども、それくらいの感謝があってもいいくらいだった。

そのため私は、それからも、毎日毎日母を助けてくれた神様に感謝の祈りを捧げ、誰からも弔われない悲しい運命のもと巫女の女性の冥福を祈り、離宮で目立たないようにひっそりと暮らすようになったのである。

外に出してもらえないとなると、ひっそりとしか暮らせないのである。仕方がない。

食事が比較して見るとさみしくても、寝具が固くても、家庭教師が時々ぶってきても、私は死なないのだからすべて良し、という前向きさを発揮して毎日を送ったのである。



そんなある日の出来事だ。多分十六歳になった私はいつものように神様に感謝の祈りを捧げた後に、もと巫女の女性のお墓参りをした。彼女の墓の目印として植えた柊はすくすくと育ち、冬でも緑色で、霞む雪景色の中でもきれいなものである。

お墓の前にむしろを敷いて、膝をついて祈りの姿勢になって、彼女の冥福をお祈りする。

それはすっかり身に染み付いた習慣だったが、それの祈りの言葉を頭の中で唱えていた時の事である。


「やはりこちらにいらっしゃったのだ!」


離宮の門の方がいきなり騒がしくなり、そういった声が聞こえるようになった。

何なのだ、誰なのだ。私はあまりの騒々しさに祈りを切り上げ、後ろを振り返った。


「ああ、間違いない! この波動、この方しかいらっしゃらない!!」


振り返った矢先に視界に飛び込んできたのはこのあたりの国で言うと最大の勢力を誇る帝国の王族のみが持ちうる黒髪を、短く切りそろえた男性で、誰だこの人はと思うまもなく、彼が私の前に駆け寄ってきて、雪の上に膝をつき、手を差し伸べてきたのである。


「お探ししておりました、聖なる巫女さま」


「……えーっと」


聖なる巫女様なんだそりゃ。しばしの沈黙の後、私はもしかしてと思い、お墓を指さした。


「巫女の女性はこの土の中でお休みになられております」


「そうじゃない! 君、こそ、聖なる竜神の巫女の血をつなげる、聖なる巫女様に間違いないんだ!」


「いや絶対そうじゃない。絶対なにかの勘違い」


私は勘違いだろうがなんだろうが、否定しなければ何かが露見した時に詐称したと言われて、殺される可能性があるから必死に否定した。

神様との契約で、立場が入れ替わっているけれども、巫女様の血は引いていないからね。

しかし男性は潤んだ瞳で私を見ている。泣きそうな顔だ。


「長く長くお探し申し上げておりました。これほど寂れた生活をなさっていらっしゃったとは。ああ、そんなにもお痩せになって骨と皮ばかりで……」


「いや、その、絶対違いますというか、大いなる勘違いが」


「帝国の皇子が竜神の巫女様を見間違えるという事はありえません。ああ、もう大丈夫です。貴方様を虐げていたこの国など焼け野原に」


「待った待った本当に待った。関係ない無辜の民を巻き込んじゃいけません。あなたにとっては数えなくていい人間かもしれませんが私には物の数にきちんと入る生きている人々なんです」


私の事でなんだか大虐殺まで起こしそうなその人を止めるために言うと、彼が涙目でさらに言う。


「このような虐げられた環境だと言うのに、そのように人々をお気遣いになるとはなんと気高い! さあ、貴方様の本来の居場所に戻りましょう」


そう言って彼が手を取るように仕草で伝えてくるので、私はこれからどうしようと思い、もしかしたら巫女の暮らす場所なら私のちょっと面倒くさい事情を誰か見抜いてくれるんじゃないかとひらめき、その手を取ろうとして……



「ちょっと待ちなさい! 皇子様、間違えてはいけませんわ! 選ばれし巫女の血を受け継ぐのはこのわたくし! その女は図々しくも巫女の祝福を奪い取った大罪人ですわ!」


後方から可憐で鋭い声が響き渡り、そっちを皇子様とともに見やるとそこに居たのは……



私とあの日、立場が逆転し、正妃の大事な長女になったはずの異母姉妹の、リリアンヌ姫だった。



……リリアンヌ姫ってあんなに目、血走ってたかな……?

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