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福音伝達者は神にならない  作者: ユーカリの木
一部:死を告げる天使
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第七章:白日と影法師 02

 尋問室は、ゾルデの場合も同じ間取りだった。室内に入るロザリロンドを見送り、レセナは監視室に留まる。尋問室に座るゾルデは、身ぎれいになっていた。監視役のフェリクスは我関せずといった様子で読書をしている。


 さて、とロザリロンドがゾルデの対面に腰を下ろした。


 エミールとは空気が違った。ゾルデは疲れてはいるが、諦観と言うより、ある種の安堵すら感じられる。十年間逃亡し続けた男が、ようやく腰を下ろせる場所を見つけたかのようだった。


「ゾルデ・クーパー」


 ロザリロンドが名を呼ぶ。ゾルデが顔を上げた。


「改めて聞く。十年前、ストラスト研究所で何があった?」


「……俺は、正しいことをしようとしただけだった」


 その第一声で、レセナの胸に何かが刺さった。エミールの投げやりな証言とは違う、重い真実を孕んだ言葉だった。


「詳しく話せ」


「査問法院に通報した。所長が外国人と密談していた。俺の研究を兵器に転用しようとしていたと」


 ロザリロンドの眉がわずかに動く。


「それで?」


「信じてもらえなかった。いや、信じてもらえたのかもしれないが……結果は知っての通りだ」


 ゾルデの声に、十年分の疲労が込められていた。


「事件は起こった。俺の家族も、街の人々も、みんな死んだ。そして俺だけが犯人扱いされた」


 監視室でレセナは拳を握りしめた。国を信じて正義を行おうとした男が、裏切られ、家族を失い、犯罪者に仕立て上げられた。正義とは、一体なんなのか。


「査問法院の対応は?」


「調査中の一点張りだった。だが、いつの間にか俺が主犯ということになっていた。証拠も、証人も、すべて消されていた」


 ゾルデが拳を震わせる。


「それでも俺は信じていた。いつか真実は明らかになると。だが……」


 言葉が途切れる。そして、か細い声で続けた。


「娘の七歳の誕生日だったんだ。青い瞳の人形を買いに行って、帰ってきたら……」


 ロザリロンドが一度瞑目した。レセナには、彼女が何を思っているかがわかった。同じように、大切な人を守ろうとして、組織の論理に翻弄される痛み。


「娘は……エリーは、青い瞳の天使の人形が欲しいと言っていた」


 ゾルデの瞳に、遠い記憶が蘇る。


「あの日、俺は約束を守ろうとしただけだった」




 ◇◆◇




 十年前のストラスト研究所の実験室で、ゾルデ・クーパー主任研究員は最後の確認を行っていた。培養器の中で脈動する黄金色の施術生物――酷死天使。人類史上最も危険な病原体を医療技術として制御する研究において、彼は国内随一の権威だった。


 壁一面に張られた研究資料には、過去五年間の膨大な実験結果が記されている。酷死天使の増殖パターン、環境適応性、そして何より重要な制御可能性。すべてがゾルデの手によって解明されてきた。


「お父さんの研究で、たくさんの病気の人が治るのね」


 昨夜、六歳の娘エリーが無邪気に言った言葉が胸に温もりを灯す。小さな手で研究資料の挿絵を指差しながら、「この金色のお星さまが、病気を治してくれるの?」と尋ねた娘の瞳には、幼いながらも父への信頼が宿っていた。


 研究者として、父として、ゾルデには守るべきものがあった。酷死天使という悪魔を天使に変える。それが彼の使命だった。明日は娘の七歳の誕生日。隣町で青い瞳の人形を買い、家族三人でささやかな祝いをする予定だった。


 そんな平凡で幸福な日常が、一夜にして地獄へと転落することになろうとは、この時のゾルデには知る由もなかった。


 研究資料を取りに夜の研究所へ戻ったゾルデは、普段なら人で溢れている廊下が薄暗く静まり返っているのを見た。消毒薬の鋭い匂いだけが残る廊下を歩いていると、所長室の扉の隙間から漏れる明かりが目に入った。


 この時間に所長がいるはずはない。


 足音を殺して近づくと、重い木製の扉越しに複数の声が聞こえてきた。だが、その内容は、ゾルデの血を凍らせるものだった。


「――ゾルデ・クーパーの制御技術、予想以上の完成度ですな」


 聞き慣れない外国訛りの男の声だった。硬く、軍人を思わせる厳格な響きだ。ゾルデの心拍数が急上昇した。


 自分の名前が、なぜこの場で?


「ええ、彼の技術は本物です。酷死天使の増殖率を自在に調整し、感染範囲も精密に制御できる」


 所長の声だ。だが、いつもの温厚で自信に満ちた口調とは違う。卑屈さに満ちた響きだ。


 ゾルデが身体を扉に近づけ、恐る恐る隙間から室内を覗くと、信じがたい光景があった。


 所長の前に立っているのは、三人の見慣れない外国人の男たちだった。黒いスーツに身を包んだ彼らの立ち振る舞いは、明らかに学者のそれではない。鋭い眼光と引き締まった体格は軍人のそれで、特に中央の初老の男からは、狂気にも似た冷酷さが放たれていた。


 そして、重厚な木製の机の上には、ゾルデの目を疑うような光景があった。大量の札束が、まるで古い書物のように積み上げられていたのだ。


「この技術を我々に提供していただければ」


 灰色の髪に深く刻まれた皺を持つ初老の男が口を開く。ツウェルベル訛りの強い言葉が、室内の空気を震わせた。


「約束の報酬をお渡ししましょう」


 ゾルデの背筋を悪寒が貫く。


「ただし、条件があります」


 続く初老の言葉が、ゾルデを骨の髄まで凍らせる。


「ゾルデ・クーパーには、真の用途を知らせてはいけません。医療応用の研究だと思わせ続けなさい」


 ゾルデの心臓が狂ったように鼓動を打つ。冷汗が顎に滴る。


「も、もちろんです」


 所長が震え声で答える。恐怖と欲望が入り混じった醜い表情が浮かんでいた。


「彼は純粋な研究者です。まさか自分の技術が兵器転用されるなど、夢にも思わないでしょう」


 手のひらに嫌な汗が滲み、呼吸が浅くなる。


 自分が命を懸けて開発した制御技術が、人を救うためではなく、殺すために使われようとしている。この場の何もかもに、理解が追い付かなかった。


「来月の実験には我々も立ち会わせていただきます」


 三人目の男が低く言った。


「被験者の手配は、こちらで行います。ストラストの住民から、適当な者を選出しましょう」


 実験、被験者、そして住民。それらを連ねた結果、最悪の予想がゾルデを襲う。


 まさか、人体実験を行うつもりなのか? それも、ストラストの住民を使って?


 ゾルデが震えながら身を引こうとした時、研究資料の束が床に落ちた。パサリという小さな音が、雷鳴となって静寂を破る。


「何だ?」


 室内の男たちが一斉に扉の方を向いた。ゾルデは咄嗟に口元を両手で抑えた。発覚すれば、自分の身がどうなるか分からない。


「誰かいるのか?」


 所長の声が震えている。もはや普段の面影など欠片もない、怯えた子どものようだった。


 ゾルデは息を殺して、足音を立てないよう細心の注意を払いながらその場から逃げ出した。長い廊下を駆け抜け、研究所の玄関へと向かう。背後から追いかけられているような恐怖に駆られながら、ようやく建物を出ることができた。


 夜風が頬を叩いても、身体の震えは止まらなかった。




 ◇◆◇




 家に帰ったゾルデは、一晩中天井を見つめて考え込んだ。隣で安らかに眠る妻の寝息と、隣室から聞こえる娘の寝息を聞きながら、自分がどうすべきかを。


 温かい毛布に包まれているのに、身体の芯が冷えて仕方がない。酷死天使を用いて、ストラスト研究所は人体実験をしようとしている。その恐ろしい計画に、自分の技術が悪用されようとしている。


 娘の寝顔を見つめながら、ゾルデは拳を握りしめた。エリーの無邪気な笑顔が、父への信頼が、すべてを踏みにじられようとしている。


「お父さんの研究で、病気の人が治るの?」


 かつての娘の言葉が胸を刺した。彼女が信じている父親は、人を救う研究者だった。人を殺す技術の開発者ではない。


 翌朝、妻に淹れてもらった温かいコーヒーを飲みながら、彼は決断した。


 査問法院に密告するのだ。


 ゾルデには、査問法院に縁故があった。聖堂学院時代の友人が監査官をしており、彼を通じて情報を伝えることができる。手の震えを抑えながら電話の受話器を取り上げ、番号を回した。


「頼む、聞いてくれ。国家の安全に関わる重大事件だ」


 ゾルデは、できる限り詳細に昨夜の出来事を報告した。隣国工作員と思わしき人物らの潜入、所長に対する買収、人体実験の計画、そして自分の技術の兵器転用、すべてを。


「分かった。これは確かに重大だ。すぐに極秘調査に入る」


 友人の監査官は、深刻な声で答えた。受話器越しにも、事態の重大さを理解していることが伝わってくる。


「君は絶対に口外するな。相手は危険な組織だ。家族の安全のためにも、普段通りに振る舞え」


 それから数日が過ぎた。査問法院の極秘調査は始まったが、敵は狡猾だった。証拠隠滅が徹底されており、決定的な物証は見つからないようだった。ゾルデは不安を抱えながらも、娘の誕生日のために日常を過ごしていた。


 だが、心の奥底には常に不安が渦巻いている。研究所では普段通りに振る舞いながらも、所長の視線が時折自分に向けられているのを感じた。


 まさか、盗み聞きがバレているのではないか。そんな恐怖が、彼の心を蝕んでいく。


 そして、エリーの七歳の誕生日の前日。


 ゾルデは約束通り、隣町へプレゼントを買いに出かけた。娘が欲しがっていた青い瞳の人形を探すため、一日がかりの買い物になる予定だった。


「お父さん、青いお目目の天使のお人形、絶対に忘れないでね」


 娘の無邪気な笑顔が、胸に温かく残っている。七歳になる喜びに輝く瞳の期待に、応えない訳にはいかない。


 その日の夕方、隣町で人形を見つけて買い物を終えたゾルデに、悪夢のような知らせが届いた。


 ストラストで”事故”が発生したのだ。


 酷死天使が漏洩し、街全体が死の世界と化したという。大切に抱えていた人形の箱が、石畳に落ちて角が潰れた。


 慌てて帰郷したゾルデが目にしたのは、地獄絵図だった。美しい緑の街は血と死体に覆われ、金色の光がゆらゆらと漂っている。愛する妻も、天使のような娘も、あの忌まわしい悪魔に命を奪われていた。


 誰ひとり、生きている人間はいなかった。


 どれひとつ、生前の面影を持った死体は存在しなかった。


 ゾルデは慟哭した。青い瞳の天使の人形だけが、彼の手に残されていた。


 そして、さらなる絶望が津波となって彼を押しつぶす。


 事故の責任が、すべてゾルデに押し付けられたのだ。密告した張本人であるゾルデが、逆に”研究の安全管理を怠った責任者”として追われることになった。


 敵の工作だったのだろう。所長は既に事故で死亡しており、外国人組織の存在を証明する証拠は一切残されていない。査問法院の調査でも、学術院の捜査でも、彼らの存在は”確認できない”とされた。まるで最初からいなかったかのように、すべての痕跡が消し去られていた。


 ゾルデは必死に真実を訴えた。だが、証拠のない証言は妄想だと斬り捨てられ、あろうことか、責任逃れのための虚言だとして糾弾された。


 娘を殺された憎悪と、真実を隠蔽した国への怒りだけが残された。




 ◇◆◇




 回想が終わると、尋問室には重い沈黙が落ちていた。ゾルデは机に突っ伏し、肩を震わせている。十年間封じ込めてきた記憶を語ったことで、堰が切れたように感情が溢れ出していた。


 ロザリロンドは何も言わなかった。言葉をかけることが、かえって残酷に思えたのだろう。


 気づけば、レセナは監視室で壁にもたれかかっていた。ゾルデの記憶を感覚で追体験したことで、十年前の悲劇がありありと脳裏に焼き付いている。正義を信じた男が、どのように絶望の底に突き落とされたか。


「それで……」


 ようやくゾルデが顔を上げた。目は赤く腫れている。


「《神の証人》に拾われたのか?」


「ああ」


 ゾルデが頷く。


「国外逃亡の手引きをしてくれた。研究を続けられる環境も用意してくれた。俺にとっては救いの手だった」


「復讐を持ちかけられたのは?」


「すぐではない。数年かけて、少しずつだった。真の敵は誰か、正義を取り戻すには……気がついたときには、俺も彼らの一員になっていた」


 ロザリロンドが深いため息をついた。


「利用されていたと気づいたのは?」


「今回の作戦が始まってからだ。エミールたちの本当の目的を知って……俺は復讐がしたかっただけなのに、結果的に多くの人を危険に晒していた。無実の研究所員を皆殺しにした」


 ゾルデが両手で顔を覆う。


「俺はまた、間違いを犯した。正義のつもりで、悪事に加担していた」


 自己矛盾。


 最初は正義だった。それが、絶望によって歪んでしまった。


 人は絶望を前にしたとき、己の価値観を揺さぶられる。そのさなか、純粋な指針を持ち続けるのは難しい。レセナとて、ヴォルトのためという理由で施術士法を違反している。ゾルデが進んだ道程は、あるいは、レセナが歩む道だったかもしれない。


「尋問は終了する。ゾルデ・クーパー、君の証言は貴重な情報となった」


「これで……終わりか?」


「いや、始まりだ」


 ロザリロンドの声に、炎が宿った。


「十年前の真相を明かす、本当の戦いをこれから始める」


 炎の修道女が立ち上がり、外へ出ていく。レセナもその背を追った。


 ロザリロンドの隣に並ぶ。


「これからどうするの?」


「法院長にすべてを託す。私たちができるのはここまでだ」


 ふたりは廊下を進んでいく。しばらくして、法院長の部屋にたどり着く。ロザリロンドがノックをして、部屋に入る。フィアラルはゆったりと腰掛に背を預けながら座っていた。


「良い報告が聞けそうですね」


 ロザリロンドとレセナは、フィアラルの前に立つ。


「さて、法院長にお好みのものかは、私には分かりません」


 老婆の頬に皺が寄る。フィアラルが腰掛から背を離し、ロザリロンドを見据える。ただ前にするだけで、レセナは腰が引けるような覇気を感じた。


「では期待しましょう。さあ、報告を」


 ロザリロンドが告げる。十年前のストラスト事件の真相。《神の証人》の暗躍。査問法院の失態。学術院の妙な動き。


 ロザリロンドが、知り得る情報をすべて盤面に出した。


 フィアラルは笑みを浮かべたまま、言った。


「良いでしょう。あとはこちらで引き取ります。あなたの任を解きましょう、ロザリロンド」


「法院長はこの情報をもってどうするおつもりで?」


 炎の修道女が鋭く切り込んだ。老獪な政治家は笑みを崩さない。


「それを知ってどうしますか?」


「私は事件の真相に手を掛けたのです。少なくとも、結果は見守りたい。それが叶わなくとも、せめて向かう道筋は把握しておきたい」


「ロザリロンド」


 フィアラルの声が落ちた。そこには、深い失望があった。


「ローザンヌの本分を忘れたのですか?」


 ロザリロンドは、ローザンヌ修道騎士会の筆頭だ。彼女の役割は、福音伝達者を守護すること。それ以外のなにものでもない。つまり、フィアラルは、お前はこれを知る立場にないと言っているのだ。


 レセナは思わずロザリロンドを見る。炎の修道女は表情を消していた。


「もの言わず下がれと?」


「くどい。ここから先は政治の話です」


 ロザリロンドが一歩踏み出した。


「法院長、あなたこそローザンヌの本分を忘れたのでは?」


「ほぅ、聞きましょう」


「この事件は猊下の身を危険にさらした。なればこそ、我々ローザンヌはすべてを知らなければならない。その敵が、たとえ国外の組織だろうと、たとえ国内の政治家であろうと、我々は敵を知る必要がある」


「知ってどうすると?」


「必要であらば、灰に」


 聞いていて、レセナは背筋に嫌なものが流れた。ロザリロンドは、場合によっては政治家だろうが殺すと言っている。


 ふたりの視線が交錯する。そして、ついにフィアラルが長息した。


「ロザリロンド、分かっているとは思いますが、この情報では手落ちです」


「理解しています」


「法院長の立場でも追及は難しい。だからこその人選です」


 ふたりの視線がレセナを貫く。ここでレセナもようやく気付いた。


「わたしの証言が必要なんですね」


 福音伝達者の御言葉は、アレラル王国において”絶対”である。どれだけ策を弄そうが、どれだけ証拠を消そうが、福音伝達者の御言葉ひとつですべてが決まる。ここはそういう国だ。


 嫌な理解が訪れた。フィアラルがレセナを招集した真の理由がこれだ。単なる情報収集などではない。確実に敵を刺す証言を用意するためだ。


 本当に嫌になる。


 逃げる道はない。そも、逃げることなど自分が許さない。


 自らの意思で自身の道程を定めると決めた。


「フィアラル法院長は、どんな結末をお望みでしょう?」


 レセナの露骨な言い回しに、老婆は孫を見る目で微笑んだ。


「そうですね。査問法院の首はすげ替えましょう。あそこの長はあまりいい噂を聞かないのですよ。学術院の法院長も飛ばしましょう。あの無能は国政に必要ありません」


 軽く、それこそ歌うように言っているが、内容はひどい。怪しい、気に入らない、だから飛ばす。やっていることがマフィアだ。


「それで真実は明らかになりますか?」


 フィアラルの表情が政治家になる。


「なりません。ただ、抑止力にはなります」


 レセナは、大きくため息した。


 政治の中に正義はない。あるのは、複雑怪奇な力学だ。少女では到底太刀打ちできない伏魔殿。きっと、こんなことだろうと思っていたのに、いざ目の前にすると身体がおののく。足元がどっぷりとした汚泥にはまったように、動けない。


 きっと、福音伝達者になれば、これが日常になるのだろう。いいように使われ、それが真実かどうかなどは精査されない。こんな中で、自身を保つことなどできそうにない。


 だから、これが最初で最後だ。


「せめて、できうる限りの真実を明かしてください。それがわたしが証言する条件です」


 フィアラルの眼光がレセナを刺す。レセナも、フィアラルを見返した。長い沈黙が落ちる。


 ふと、フィアラルの表情に力が抜けた。


「落としどころはそこでしょう」


 さて、とフィアラルがロザリロンドに声をかける。


「神託写実士をここに。正式な文書を作りましょう」


 ロザリロンドが一度目礼すると、部屋を出ていく。その背に、老婆の声が投げられた。


「ロザリロンド、やはりあなたは政治家向きではありませんね」


 修道女は笑った。


「政治家になるつもりはありません」


 扉が閉じる。フィアラルが立ち上がった。


「さあ、少しのいとまです。お菓子でも食べましょうか」



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