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生き方を忘れてきた私たちは  作者: 奈良ひさぎ
第参章 最後ノ魔術師
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参拾伍、二面性

「無事か、蓬……ッ!」


 奏による、蓬さんの襲撃。最優先で病院に搬送され、治療を受けることになったが、容体は怪しい。思いつく限り全ての人に連絡をした。一番最初に駆けつけたのは由介さん。蓬さんの旦那さんだ。

 由介さんは何も知らなかった。知っていたのは蓬さんと奏、藍の三人が超能力研究に従事していることくらいで、どこでどのような仕事をしているのかは全く知らなかった。奏が母親を群衆の面前で銃撃したことにも、明らかに動揺していた。怒りと悲しみとその他いろんな感情が一気に絡み合い、あまりの混乱でぐらんと視界が揺らいだのかその場にしゃがみ込んでしまった。


「話は聞いています。奏君が蓬先生を襲ったと」

「あいつ何考えてやがる? 元から頭のおかしい奴とは思ってたが……」


 吹田研究所のトップである髙橋さんと、京都研究所のトップである三嶋さんも駆けつけた。その場の誰もが、今起こっていることの真相を理解できていなかった。

 俺は真鈴さんを呼ぶかどうかを考えた。彼女には辛い事実をこれでもかと伝えなければならない。かと言って、呼ばずに何事もなかったかのように家に帰り、嘘を伝えるのかと考えた時に、自分が許せなかった。藍の方を見ると、俺の考えていることをお見通しかのようにうなずいてきた。それが俺の背中を押した。


「よもさん……っ!」


 連絡を受けてすぐに家を飛び出してきたのが分かる服装だった。化粧もしていない。蓬さんは藍の母親であり、髙橋さんと三嶋さんにとって年下の上司であり、真鈴さんにとって命の恩人なのだ。

 頭の中に銃弾やその破片は残っておらず、手術にそこまで時間はかからなかった。問題は出血多量。元から総白髪なのも手伝って、集中治療室で横たわる蓬さんは力なく、実年齢よりずっと老けて見えた。


(柏柚香は、蓬さんだった)


 すでに報道は出ていた。東京駅で銃撃事件があり、蓬さんが息子の奏に頭を撃たれたというニュース。つくばで非常システムが作動し陸の孤島と化したことで、上の人間が動くことになった。文部科学大臣とつくばを管轄する蓬さんが会合する予定だったが、大臣の方は別室で厳重な警護を受けており無事だという。つまり奏の言葉が本当なら、大臣と会うはずだった柏柚香は蓬さんとイコール、ということになる。


「よもさん……どうして……」

「おい、そこの嬢ちゃん」

「……え、はい……?」

「あんた、星芒市育ちだろ。分かりやすく言やあ、超能力科学の被害者ってところか」

「……は、はい」

「星芒市に被害者として関わった人間ってのはすぐ分かる……(お嬢さん)に手助けしてもらって、出てこれたんだな」

「はい。……よもさんには、感謝してもしきれません」

「あんたから見たお嬢さんは、どんな人だった? 無償の優しさを惜しげもなく他人に捧げられる、母性のある女だったか」

「もうちょっと言い方ってものがあるでしょう、三嶋さん」

「構うな。今は『仁方蓬』に直接関係した人間の話を聞くのが優先なんだよ」

「……っ!」

「で、どうなんだ」

「はい……よもさんが助けてくれたのは、私だけではなくて。私よりもっと実験台として適していて、もっと長くあの場所に拘束されるはずだった人も、よもさんは等しく連れ出してくれました。お母さんに再会するための手引きもしてくれましたし、玲央さんとお付き合いを始めてからもこまめに連絡をくれていました」

「あえて言うがな、昔は違ったんだ」


 髙橋さんと三嶋さんは、『聖域なき浄界』時代から組織を支えてきたメンバーなのだという。カルト化の進む宗教法人から分離し、純粋な超能力研究を行う団体を蓬さんが旗揚げしたその瞬間から、両腕として貢献してきた。つまり、昔の蓬さんもよく知っているということ。


「昔はもっと、ガツガツしてた。自分が天才だってことをよく理解していて、その頭脳を最大限生かすためにはどう立ち回ればいいかを常に考えてた。いい意味でも悪い意味でも女っぽくなかったんだよ。それがまさか、一丁前に男を連れてきて結婚して、子供までこさえるとは思わなんだ」

「……私の知るよもさんからは、とても想像できません」

「ただな、どうしようもなく無邪気だったんだよ。実際人の上に立つ才能はなかったかもしれねえが、人の上に立ってもやってけるんじゃねえかって周りに思わせる才能は間違いなくあった。その他は研究好きなただの変人だ。そういう意味で、親しみを込めて俺はお嬢さんって呼んでた」

「私も、先生に対する感情は尊敬というより、敬愛でしたね。兄弟姉妹ほどではないけれど、たまに会う親戚の子供のような愛嬌があるんです。三嶋さんの言う通り、昔は、ね」

「変わったんだよ、お嬢さんは。別人になったのかってくらいにな。それが、奏と藍、お前らが生まれてからだ」

「……っ!」


 子供が生まれるとまるっきり周りに対する態度が変わる人がいる。棘を含んだ物言いばかりしていた人が、急に優しくなったり。不愛想だったのが、急に親しみやすく愛想よくなったり。誰かの母親になるというのは、そういうことなのかもしれない。


「もちろん、本当に根っこのところは変わらねえ。相変わらず研究が好きで、超能力に興味津々で、どうすればこのどうしようもねえ世界に超能力で貢献できるかを大真面目に考えて語ってる。そういうところと、自分が腹痛めて産んだ子供を死んでも守る覚悟で生きる、強い母親ってところが共存するようになった。言っちまえば、二面性を持つようになったってところか」

「私の知る母と、どうにも食い違うことを三嶋さんがおっしゃっているなと思っていました。そういうこと、だったんですね」

「仮に俺たちに何か、隠していることがあって、奏の奴が本当のことを知ってるんだとしたら。お嬢さんが自分の口で語ってくれるだろうよ」


 蓬さんが意識を取り戻し、ゆっくりと目を開けるまでに、それから三日かかった。交代で様子を見守っていたが、最も長くじっとその時を待っていたのは真鈴さんと藍だった。真鈴さんがいた時に蓬さんが目を覚まし、いくらかの後に全員が揃った。一般病棟に移り周りの様子を確認する蓬さんを一目見て、まず口を開いたのは三嶋さんだった。


「違うな……髙橋、お前も分かるだろ」

「ええ。……いつぶりでしょうか、昔の先生そのものの表情を見るのは」

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